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第十一章
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十一月十三日
『ヴィクトール国際ピアノコンクール』開催十三日目。セミファイナルに進出したコンテストは十二名。ロシア二名、アメリカ二名、中国二名、韓国一名、日本一名、オーストリア一名、ドイツ一名、フランス一名、スペイン一名。セミファイナルは、十一月十二日から十四日まで三日間かけて行われる。各々のコンテスタントが四十五分間の時間をフルに使って、選曲も演奏順番もすべて、自由に演奏をする。コンテスタントはピアニストとしての個性を存分にアピールできる反面、選曲や演奏順番をミスすると命取りになる。俺の演奏順は三人目。お昼の休憩時間を挟んで十三時からのスタートだ。俺の後の演奏者は、今大会ナンバーワンの優勝候補、ロシアのアレクセイ=ドミトリエフ、十九歳だ。奇しくも、十九歳という年齢は、九年前に泉がこのコンクールで優勝した時と同じ年齢だ。そして、午前中二番目の演奏者は、オーストリアの、ハンナ=フレーベル。地元オーストリア人がセミファイナルまで進出したのは十二年ぶりということと、彼女がバラの花を想起させるような美貌の持ち主ということも相俟って、今大会における彼女の人気は相当なものだ。俺は、この二人の人気者のオマケみたいなものだが、二人のお蔭で、チケットも完売とのことだ。 『ヴィクトール国際ピアノコンクール』は、「楽友協会」小ホール、通称「ブラームス・ザール」その名の通り、ヨハネス・ブラームスが初演を行ったことでも有名な伝統あるホールで行われる。そして、ファイナルに進出した暁には、毎年元旦に全世界でテレビ中継される『ウィーンフィル・ニューイヤー・コンサート』が開催されることでも有名な大ホール、通称「黄金のホール」でオーケストラとピアノ協奏曲を共演することができる。
俺は、いつも通り、市立公園でジョギングをし、ハノンを通しで弾いた後、セミファイナルの演奏曲目を通しで弾き、俺に余計な気を遣わせまいと「楽友協会」近くのホテルに宿泊している、祖母と母と待ち合わせをし、ホテル内のカフェで軽く軽食をとり、会場へと向かった。ちょうど、第二奏者のハンナ=フレーベルの演奏が終わったところだった。小ホールの扉から飛び出してくる観客たちは、皆、口を揃えて、ハンナ=フレーベルの演奏を褒め讃えていた。ハンナが素晴らしい演奏をしたであろうことを予想させる観客の様子を見て、俺はきっと、情けない顔をしてたのだろう。心配した母が、
「大丈夫よ! 今の舜くんの、ありったけで弾けば、きっと皆に届くわ。私たちも付いてる。それに……」
俺は、黒のスーツのポケットから、大きめのお守り袋を取り出して、祖母と母に見せながら「泉も付いてる!」と言った。二人と握手を交わし、俺は、コンテスタントの控室へと向かった。
『ヴィクトール国際ピアノコンクール』開催十三日目。セミファイナルに進出したコンテストは十二名。ロシア二名、アメリカ二名、中国二名、韓国一名、日本一名、オーストリア一名、ドイツ一名、フランス一名、スペイン一名。セミファイナルは、十一月十二日から十四日まで三日間かけて行われる。各々のコンテスタントが四十五分間の時間をフルに使って、選曲も演奏順番もすべて、自由に演奏をする。コンテスタントはピアニストとしての個性を存分にアピールできる反面、選曲や演奏順番をミスすると命取りになる。俺の演奏順は三人目。お昼の休憩時間を挟んで十三時からのスタートだ。俺の後の演奏者は、今大会ナンバーワンの優勝候補、ロシアのアレクセイ=ドミトリエフ、十九歳だ。奇しくも、十九歳という年齢は、九年前に泉がこのコンクールで優勝した時と同じ年齢だ。そして、午前中二番目の演奏者は、オーストリアの、ハンナ=フレーベル。地元オーストリア人がセミファイナルまで進出したのは十二年ぶりということと、彼女がバラの花を想起させるような美貌の持ち主ということも相俟って、今大会における彼女の人気は相当なものだ。俺は、この二人の人気者のオマケみたいなものだが、二人のお蔭で、チケットも完売とのことだ。 『ヴィクトール国際ピアノコンクール』は、「楽友協会」小ホール、通称「ブラームス・ザール」その名の通り、ヨハネス・ブラームスが初演を行ったことでも有名な伝統あるホールで行われる。そして、ファイナルに進出した暁には、毎年元旦に全世界でテレビ中継される『ウィーンフィル・ニューイヤー・コンサート』が開催されることでも有名な大ホール、通称「黄金のホール」でオーケストラとピアノ協奏曲を共演することができる。
俺は、いつも通り、市立公園でジョギングをし、ハノンを通しで弾いた後、セミファイナルの演奏曲目を通しで弾き、俺に余計な気を遣わせまいと「楽友協会」近くのホテルに宿泊している、祖母と母と待ち合わせをし、ホテル内のカフェで軽く軽食をとり、会場へと向かった。ちょうど、第二奏者のハンナ=フレーベルの演奏が終わったところだった。小ホールの扉から飛び出してくる観客たちは、皆、口を揃えて、ハンナ=フレーベルの演奏を褒め讃えていた。ハンナが素晴らしい演奏をしたであろうことを予想させる観客の様子を見て、俺はきっと、情けない顔をしてたのだろう。心配した母が、
「大丈夫よ! 今の舜くんの、ありったけで弾けば、きっと皆に届くわ。私たちも付いてる。それに……」
俺は、黒のスーツのポケットから、大きめのお守り袋を取り出して、祖母と母に見せながら「泉も付いてる!」と言った。二人と握手を交わし、俺は、コンテスタントの控室へと向かった。
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