White cat in Wonderland~その白い猫はイケメンに溺愛される~

ハルカ

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Wedding~消えた花嫁~

第2.5話 ~花屋の店員ある日の出来事~

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「はぁ……もう店長またどっか行っちゃうし。なんでいつも私ばっかり店番なのよ」
 大きな溜め息が出てしまった。
 朝の9時過ぎ。店は9時にオープンだが、土曜日とはいえ客は誰もいない。
 花屋に勤めて3年目。花が好きで念願叶い花屋に就職したというのに、店長はいつも適当で、今日も配達でもないのにどこかへ行ってしまっていたのだった。
 花の扱いや花束を作るのは途轍もなく上手いのに、性格に難がある人であった。
 きっとこれだから彼女もできないのだと、レジカウンターに頬杖をつきながら再び大きく溜め息を付く。

 すると、店先の方から明るい少年のような声が聞こえてきてハッとして顔を上げた。
「凄い色々あるねっ。どんなのがいいのかな」
 男子高校生がふたり、店先の花を眺めているのが見えた。
「え? 高校生?」
 ぼそりと呟きながら首を傾げる。
 小柄で可愛らしい男の子と背のすらっと高い男の子の二人組である。
「見てるだけかな?」
 花屋に男子高校生が用事があるとは思えず、仕方なさそうに店先の花に飾るポップを作り始めた。

「すみませんっ」

 突然元気な声がすぐ近くで聞こえ、びくりと体を震わせる。
「はい、何かお探しでしたか?」
 驚いてしまったが平静を装ってにこりと笑って返事をした。
 先程の高校生だ。小柄で可愛らしい男の子の方だ。
 茶色のふわふわの髪に大きな猫のような瞳。ちょっとボーイッシュな女の子のようにも見える。
 そしてもうひとりの学生の方を見ると、先程の場所から移動せずに周りの花を眺めているだけのようだった。
(一体何しに来たんだろう?)
 不思議そうに首を傾げてしまった。
「えっと……実は、友達の家族の結婚式で。プレゼントをしたいんですけど、どんなのがいいのか分からなくて……」
 目の前の可愛らしい男の子が困った顔で話し始めた内容に『なるほど』と納得する。
(そりゃ男の子じゃ分かんないわよね)
 なんだか可愛らしくて顔が綻んでしまう。
(じゃあ、あのもうひとりの子は付き添いなのかしら?)
 再び店先の少年をちらりと見た後、目の前の少年に向かって問い掛ける。
「それはおめでとうございますっ。お友達のご家族は女性の方ですか?」
「あ、はい」
 少年はなんだか戸惑った様子で答えている。
 緊張しているのかもしれないと、もう少しフレンドリーに接してみようと口調を変えてみることにした。
「じゃあ花嫁さんねっ。その人はどんな人? 可愛い? 綺麗?」
「えっと……可愛い、かな」
 少しだけ緊張が緩んだのか、こちらに合わせているのか、少年も普通に話し始めていた。
(可愛いなぁ)
 顔がにやけそうになってしまったが、すぐに緩みかけていた顔を戻し少年に尋ねる。
「なるほど。予算はどれくらい?」
「あっ!」
 すると突然少年が声を上げた。
 どうしたのだろうと目をぱちぱちさせていると、目の前の少年が後ろを振り返って店先にいる少年に声を掛ける。
「海斗っ」
「ん?」
 ずっと横顔しか見ていなかったが、振り返った少年の顔はなんとも美形で顔が赤くなってしまった。
「あのさ、予算……俺、なんにも考えてなかった。いくらくらいがいいのかな」
 近付いてきた少年に向かって、目の前の可愛らしい少年は再び困った顔で話し掛けている。
 歩いてくる海斗と呼ばれた少年の顔をまじまじと見つめてしまった。
 これが高校生だとは。さらりとした焦げ茶色の少し長めの髪に、きりっとした二重。下がり目ではあるがクールな印象を受ける。
(や、やばっ……めちゃイケメンだ)
 思わず見惚れてしまっていた。
「そうだな……あまり高すぎてもな。5000円くらいでいいんじゃないか?」
 顎に手を当てながら考える姿も、そして声も低くて全てがパーフェクトだ。
「そうだねっ。すみません、じゃあ5000円で」
 うっとりと見過ぎて、目の前の少年が話した言葉でハッとして我に返る。
「あ……はい。分かりました。じゃあ、色の指定とか形とか、何かご希望はありますか?」
 可愛い少年に美形な少年のペア。
 目の前の理想のカップルに言葉まで畏まってしまった。
「うーん、海斗、どうかな?」
 口元に手を当てながら考え込んでいる可愛らしい男の子にきゅんとしてしまう。
(なにこの可愛い生き物)
 しかもその後なんとも言えない顔でじっと海斗と呼んだ少年のことを見上げている姿も可愛い。
「そうだな……色はピンクとかオレンジとか明るめの色で。形はなんでもいいんじゃないか?」
「うんうん、いいね。じゃあ、ピンクとオレンジでお願いできますか? えっと、形はよく分かんないのでお任せで」
 ずっとふたりのやり取りを見ていたいと思っていたが、急にこちらに満面の笑みを向けられて再び緊張してしまった。
「分かりました。アレンジメントはいかがですか? 飾るにも持ち運びも楽ですし」
「あ、じゃあそれで」
「分かりました。ではお待ちください。お花をいくつか見繕いますので後程お伺いしますね」
 そう言ってガラスケースを開けると花を選び始めた。
 相手の女の子をイメージしながら花を選ばなくてはならないのに、男子高校生カップルが気になってしまってそれどころではなくなっていた。
(あのふたり、絶対カップルよね)
 ピンクのバラとピンクのカーネーション、ピンクのガーベラを取りながら、自分の頭の中までもピンク色に染まる。
 数本取り出した後、ふと振り返ると、先程のふたりは店内を一緒に見て回っていた。
 距離感を見ても、時々海斗と呼ばれた背の高い方の少年が可愛らしい少年の頭を撫でる仕草を見て、悶えそうになっていたのだった。

 彼女は生粋の腐女子であった。

「やばい、推しカプになりそう……」
 店を出ていくふたりの後ろ姿を眺めながら、ぼそりと呟く。

 渡す相手よりもふたりのことを考えながら作られたピンクとオレンジと黄色のアレンジメントは、彼女から見た、ラブラブな優希と海斗のイメージなのであった。
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