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第2章
シムサル伯爵令嬢のセレーン嬢
しおりを挟むアンが申し訳なさそうに言うけれど、刺されてあれだけの血が流れていたのにそれだけ覚えていれば充分だと思う。そう思ったのは私だけではないようで
「いや、あの状況でそれだけ覚えているのは感心するよ。ショーン、この国で緑色の髪で高位貴族ではないがあの場に入ることができた女性はどれくらいいるんだ」
「フレッド、あのパーティーにどれだけの人がいたと思っているんだ。
あれだけの人の中でそんな人、、はきっと一人しかいないんだなぁ」
え?あれだけの人がいたのに一人しかいないの。
ショーン様の言葉を皆が不思議そうに思いながら次の言葉を待つ。でもショーン様はにやにやとしたまま、なんだかとても得意そうで……うん。なんだかむかつく顔してるわ。きっとフレッドも同じ気持ちだったのだろう。「早く言え!」と言った。
「ちぇっ、折角俺しか知らないことがあるなんて得意げになってたのにもう終わりか。
まぁ、事は大事だから仕方ない。
決め手は緑の髪の毛ではないんだ。あんな場なのに金をかけられていないドレス。そんなのを着させられているのはシムサル伯爵令嬢のセレーン嬢だ。
昨日のあの場に招待されていたのは高位貴族のみ。それならば本来全員が持っている中で一番の召し物を着て来てもおかしくはない。だがそれができない者はあまり多くないんだよ。
セレーン嬢は王女の開いたお茶会で趣味だという刺繡を令息に褒められたことがあるんだ。王女主催のパーティーで他の令嬢が褒められた。その事実が王女にとっては大変不服だったらしくてね。それからは事あるごとに目の敵にされていたらしい。そしてある時、彼女は王女専属の侍女となった。どうも裏で、王族とのかかわりをどうしても持ちたいシムサル伯爵と手元においてさらに苛めぬきたい王女の思惑が一致したらしい。
それからは色々なパーティーへ王女と一緒に参加させられ、高位貴族とは思えないほど貧素なドレスを着て参加させられた。
ここまではある程度の人間が皆知っている話でもある。
それとここからは真偽が定かではないただの噂話。
彼女は脅されて、自分がやりたくもない汚れ仕事までさせられているらしい。それは王女の不興を買った令嬢を男たちに襲わせる手伝いだったり、王女に靡かない令息に媚薬を盛り、王女の部屋に誘導したりと事は様々らしい。だがこれはあくまで噂であり、真偽を調べさせたわけではない。必要だったらすぐにでも調べさせるよ」
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