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父には『婚約者候補』などと明確に口に出してはいけないと何度も何度も言われていたのに。暗に『婚約者候補』だと匂わせておくように何度も言われた。
そうすれば周りが勝手に誤解してくれると。

リターシャは今までその言葉を必死に守り、自分からその言葉を発したことはなかった。

それなのに、、殿下に認められたいが為に口からついてでてしまった言葉。
『婚約者候補』と周りの令嬢たちからは当たり前のように言われ、当然だと思うようになってしまっていたのだ。

「殿下……

苦労していたわけではなく、、

その、、、

殿下の隣に並んでも恥ずかしくないようにと私努力を重ねて…」


「もう結構です。

隣で歩く方は私が決めます。

元より他人に決めてもらうつもりはありません」

先ほどまで真っ赤に染まっていたリターシャの顔は今では可哀そうな程に血の気が引いてしまっていた。
必死になにかを言い募ろうとすればするほどに状況が悪化していくことに、焦りどころか恐怖を感じていた。

何を言えばいいのか、なにか言っても許されるのかと思案している間に王太子殿下がナティシアをエスコートしながら広場の方に戻ってしまった。

本当なら自分をエスコートするべきと言いたいが、今は自分を放っておいてくれたことに安堵さえ感じた。

ただそれは殿下に対してのみ。

どうしてナティシア!あの女が王太子殿下にエスコートを受けているの!
いくら口が聞けないからって殿下の同情を引くだなんて浅ましい!
もしお優しい殿下が同情の延長で妃になんて望んでしまったら………

いけない……今日はちょっと失敗してしまったけれど私は将来王妃になる女よ。
殿下の為に正しい道を準備しなければならない。

その為にも次回のナティシアの茶会は盛大に失敗させなければ!!


ナティシアが王太子殿下にエスコートされながら広場へ戻ってくるのを見た客たちはざわざわとざわめいたが、注目を浴びている王太子殿下に関しては気にした様子もなく、微笑みながらナティシアとの歓談を続けた。

それからしばらくして茶会はお開きとなった。


茶会の様子を見た人たちは口々に噂を広めた。

ある人は
「王太子殿下は美しい話のできない令嬢にご執心だ」と。

ある人は
「優しい王太子殿下は話ができない令嬢に同情してずっと話をしていた。だが妃は同情では決められないだろう」と。

ある人は
「やはり婚約者候補の筆頭であるクレンティ公爵家の令嬢が婚約者になるのだろう」と。

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