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7.ピリオド
しおりを挟む「ナリッタさんってとても可愛らしいお嬢さんですよね。お話するだけでその可愛さにこちらまで微笑ましくなってしまいますの。
あんな可愛らしい方に、これまで肩身の狭い思いをさせてしまっていただなんて申し訳なかったですわ。
彼女にも言われてしまいました。妻が嫉妬深くて一緒になれないのだと。
ぜひこれからは彼女とお幸せになってくださいましね」
キュリールがニコッと微笑んでカダールにそう言うと、カダールはまたいやいやと頭を振りながら言葉をつづけた。
「ちがう、違うんだ、キュリール。
僕は本当に君を愛していて、だから離縁など望んでいないんだ」
「そうですか。
でも私はあなたが愛人をこの家に連れ込んだあの日に、あなたへの愛は全て失ってしまいましたわ。今はもう、ティースプーンいっぱいほどの愛も残っていませんの。だからその愛は他の女性へ贈ってくださいね」
カダールの言葉へ返したキュリールの言葉はあまりにも残酷だった。そしてその言葉が心からの本心だといわんばかりにとてもきれいな顔で微笑んだのだ。
「そんな、
だって、君が僕と夜を共にしてくれることもなくお茶の時間すらなくなってしまった。だから僕は寂しくて……だから他を求めてしまったんだ。
そうだ!これはもとをたどれば君のせいじゃないか!!」
あー本当に恋とはなんて恐ろしいものなんだろう。
こんな人のどこに私は惹かれてしまったのか。上辺だけしか見ていなかったのだと今では後悔しかないと言うのに。
「そうですか、私があなたと共にいなかったから他を求めた。と言う事はあなたには常に2人以上の相手がいなければ満たされないと言う事ですね。
私があなたと夜を共にしなくなったのも、お茶の時間すら共にしなくなったのも、あなたがあの愛人を連れてきてから。要するにあなたの相手は1人はいたと言うのにそれでは足りなかったと言うのですね。
でしたらなおのこと私にはあなたに与えられる愛情などと言うものは爪の先ほどもございませんわ。
それから勘違いしているようですが既に離縁は済んでいるのです。
少なくともこれから3年間何があってもあなたと私の復縁はありえない。
あっ、勘違いなさらないでくださいね。3年後もありえませんから。
さあ、これからの生活に向けてそろそろ準備を始めましょうか。
キアナ、使者の方々へお茶の準備を。
わざわざこんなとこまでご足労いただいたんですもの。
それからこの人たちの準備はできているかしら?」
キュリールの言葉にキアナと名を呼ばれた侍女は「はい」と返事をした。
「すでに荷物の準備は整っており、馬車に運び込んでおります。
後はその男を待つばかりです」
「さすが、仕事が早いのね。ありがとう。
それではクレー、彼を馬車へ案内して。それからナリッタさんへは約束通りプレゼントも準備してくれたかしら?」
「キュリール様、もちろんでございます。プレゼントも全てが馬車に積み入れられておりますのでご安心ください。
それではまいりましょうか」
執事の言葉に満足そうに微笑んでキュリールはありがとうと言った。
クレーはそのまま、護衛とともにカダールを馬車へと連れて行く。
いや連れて行くと言うよりは運ばれていると言ったほうが正しいかもしれない。なんだかんだと言いながら歩みを止めようとするカダールの足は完全に宙に浮いてしまっているのだから。
「いやだ、いやだ、キュリール、キュリール!!僕が悪かった、本当に僕が愛しているのは君1人なんだ。これからは君だけ、君だけをずっと見つめているから!!どうか、どうか………」
聞こえてくる声はだんだんと遠くなっていき、聞こえなくなった。
そしてようやくキュリールはこの馬鹿げた結婚にピリオドをうつことができた。
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