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再会
しおりを挟む「アステル!」
勢い良く扉が開かれ、ノワールは振り返るとそこには息を切らせたダークエルフの騎士、シリウスが立っていた。死ぬ間際に幻でも見ているのかとアステルは呆然とする。
ノワールが舌打ちをすると素早くズボンを履き直し、腰につけていたナイフを手に取る。
「ダークエルフ……まさかこいつ……」
信じられないものを目にしたかのようにノワールは目を見開いたが素早くナイフを構えて飛び掛かってくる。だが、それよりも早くシリウスは動いた。
室内では槍を使うのは難しい為、懐から短剣を取り出してナイフを受け止める。そのまま力任せに押し返し、相手の体勢が崩れたところを狙って足払いを掛けた。
「くそっ!」
床に転がったノワールはすぐに起き上がろうとするが既に遅く、その前にシリウスが闇魔法で作り出した黒い鎖に縛られる。
「クソがぁあああ!!」
ノワールは必死にもがくが闇の魔力で作られた鎖から逃れることはできない、そのまま短剣を突き立てて止めを刺そうとした。
「シリウス!殺すんじゃない!!!」
しかし、それを止めたのは後から入ってきたガレッドである。彼はシリウスを羽交い締めにして動きを止めると、拘束を解く。
「邪魔をするな!」
「落ち着け、こいつには尋問をする必要がある……それよりも君は彼女を」
ガレッドの言葉にシリウスはハッとしてアステルに目を向けた。服は脱がされていないようだが震えているのでかなり怖い思いをさせたに違いない。シリウスは慌てて駆け寄り、強く抱きしめる。
「アステル……遅れてすまない……」
「シリウス……」
アステルはぎゅっと彼の背中に手を回すと、胸に顔を埋めた。さっきまで怖くて仕方がなかったのに安心して涙が零れ落ちる。五年ぶりに触れた体温は温かく、懐かしかった。
「無事で良かった……本当に……」
シリウスが心の底から安堵しているのが伝わってきてアステルも嬉しくなる。だが、すぐに彼に妻子がいるのを思い出して離れようするとシリウスは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ああ、すまない……すぐにここを出よう」
「え……ちが……きゃっ」
膝の下に腕を回されて横向きに抱えられ、アステルは小さく悲鳴を上げる。突然のことに戸惑っているがシリウスはそのまま部屋を出て行く。
シリウスの腕の中はとても心地が良く、彼の妻に悪いと思いつつももう少しだけこのままでいたいと願ってしまった。
シリウスはアステルを抱えながら廊下を早足で抜ける。途中で何人かの人間が床で眠っていおり、不思議に思っていると前方から見知った人物が現れた。
「ラーシェルドさん……?」
エルフの吟遊詩人のラーシェルドはいつものように微笑みながらハープを持ったままこちらに向かってくる。
「おや、ヴァンの飼い主の……ご機嫌よう」
彼に名前を教えていなかった。その為、ラーシェルドはアステルのことを『ヴァンの飼い主』で覚えていたらしい。
「私の歌でここの人達を眠らせておきましたよ。奥の部屋までは届かなかったみたいですけどね」
「ああ、助かった」
シリウスは礼を言うとアステルを抱えたまま再び歩き出す。大人しく抱きかかえられながらアステルは自分の体調の異変に気がついた。体が熱くて頭がぼんやりとしている。薬の効果が出てきたせいだろうか。
それにしても何故シリウスがここにいるのだろう。彼が助けに来るなんて夢にも思わなかった。アステルは戸惑いながらもシリウスを見上げると、視線に気付いた彼と目が合った。
「大丈夫か?すぐに休める場所に連れて行ってやる」
「え、ええ……」
優しい言葉に胸が高鳴り、アステルは慌てて目を逸らした。彼には妻子がいる。きっとアステルに対しては恩人に対する感情しか持ち合わせていないはずだ。また好きになってはいけないと自分に言い聞かせる。
地下室から上がり、建物から出ると外は既に夜になっており、月明かりが眩しかった。シリウスが眼鏡をかけた人間の男を拘束しているアルムに声を掛けると、彼はこちらに振り向く。
「シリウス、念願の女を助け出せたんだな」
「ああ……すまないがアステルの体調が悪いから宿屋に連れていく」
「そうしな、明日合流しようぜ」
シリウスはアステルを抱え直すとそのまま宿屋に向かって足を速めた。
彼の汗の匂いが鼻腔を通り抜けていき、心が落ち着く。
(やっぱり私はこの人がまだ好きなのかもしれない……)
アステルは改めて自分の気持ちを再確認する。だが、同時に彼には家族もいる。これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。諦めないといけないと一人で悶々としていた。
◆
シリウスは宿に着くと部屋を借りてアステルをベッドの端に下ろして座らせた。彼女は苦しげに呼吸をしており、頬を赤く染めている。
「シリウス、ありがとう……もう大丈夫だから貴方は奥さんの元へ戻ってあげて……」
「何を言っているんだ?」
「奥さんと子供がいるから……」
「俺はアステルしか愛していない」
その一言で心臓が跳ね上がる。期待してしまいそうになる自分を叱咤してアステルは俯く。そんな彼女の様子を見かねたシリウスは隣に座って肩を抱き寄せる。その手つきは昔と変わらずとても温かい。
「ダメよ。見たの……人間の女の人とその人の間に子供がいたのを」
アステルの言葉を聞いたシリウスは眉間にシワを寄せた。彼はしばらく考え込むと思い出したかのように口を開く。
「それはガレッド……上司の妻子だ」
「え……!」
アステルは驚いて顔を上げるとシリウスの赤い瞳が間近にあった。その目は嘘をついていない。彼は今でも本気でアステルを愛しているのだ。
「俺からも聞いてもいいか?」
「何?」
アステルはシリウスの顔を見ると真剣な表情をしていた為、思わず息を飲む。そして、緊張しながら次の言葉を待った。
「ステラは俺の子なのか?」
その質問にアステルは大きく目を見開く。どうして知っているのかと驚きを隠せない。しかし、すぐに納得もできた。
逃げ出したステラがシリウスを頼ってきたのなら知っていてもおかしくはない。攫われたあの時は夕方だった。ダークエルフの姿で目の前に現れたのであろう。そして無事に保護もしてもらえたようで安心もした。
「勝手に、ごめんなさい……」
「そうか……」
シリウスがアステルを強く抱きしめると彼女の青い瞳から大粒の涙が溢れた。
「ずっと……探していた……」
「私も……会いたかった……」
二人はお互いに再会を喜び合うように抱きしめる。五年という長い時間を埋めるような抱擁だった。
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