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弟子と母親編
不安を抱えた少年
店を出たすぐのところにケルヴィンが立っていた。凛とした表情は何も読み取らせず、シリウスの時と同じように彼には近寄りがたい雰囲気が漂っている。それでもアステルは笑顔を浮かべて彼に声を掛けた。
「ケルヴィン、一緒に工房に行きましょう?」
しばらくの沈黙が続いた後、ケルヴィンが口を開く。
「どうして辞めさせないのですか?」
「聞いていたの?」
「僕は貴女の家族をよく思っていないことを口にしました。それなのに何故、僕をクビにしないのですか?」
真剣な眼差しでそう尋ねるケルヴィンにアステルは真面目に返す。
「エルフがダークエルフを嫌うのは仕方ないわ。そう教えられて育ってきたのだから」
ダークエルフはエルフの裏切り者だという教えは親や祖父母から受け継がれてきたもので、長い年月を経て根付いている。
確かにダークエルフの中には他種族に害を及ぼす者もいるがシリウスのように正しく生きようとする者もいる。
アステルは自身が経験したことから全てのダークエルフが悪とも善とも一概には言えないと理解していた。
「でも、心の中でそう思うのはいいのだけど私の家族を直接侮辱するのだけは絶対に駄目よ」
アステルは強い口調で伝える。すると、ケルヴィンは驚いたような顔をした後、すぐに無表情に戻った。
「貴女の家族には何も言わないと誓います」
「それを守ってくれるなら私はケルヴィンを辞めさせないから安心して。早く薬を作りましょう」
アステルはニコリと微笑む。彼女のその笑顔には、彼に対する信頼が込められていた。
ケルヴィンは複雑そうな表情を浮かべたが、その心の奥にある葛藤を理解しようとするアステルは彼の反応を静かに見守った。
彼女は彼が自身の内面と向き合い、少しずつでも折り合いをつけていけることを願っていた。
◆
家に戻るとシリウスとステラは特訓を終え、ボール遊びを始めていた。
楽しそうに笑い声を上げるふたりを見てケルヴィンは眉をひそめたが何も言わずに俯いて仕事場へと真っ直ぐ歩いて行く。アステルはその後ろ姿を見て小さく溜め息を吐いた。
それから二人は薬作りに取り掛かることにした。材料を手に取り、鍋に入れて煮込むとケルヴィンがそれをかき混ぜ、魔法を使いながら魔力を注いでいく。
「失礼なことを質問してもいいですか?」
「……どうしたの?」
鍋の中身を掻き混ぜながら普段は詮索をしてこないケルヴィンがそんなことを言ってくるのでアステルは首を傾げた。
「何故、ダークエルフと結婚しようと思ったのですか?」
その質問にアステルは苦笑しながら答えた。
「昔、怪我をした彼を家に匿ったんだけど……その時に子供ができて」
「エルフとダークエルフのハーフの子供なんて、将来苦労するだけじゃないですか」
ケルヴィンの言葉はもっともだ。今後、何度も同じ質問をされ、批判されることになるだろう。
「確かにエルフにもダークエルフにも受け入れてもらえないステラは辛い目に合うのかもしれないけど」
グツグツと煮えている鍋の様子を見ながらアステルは言葉を続ける。鍋の中身を見つめながらアステルは続けた。
「そうならないように私とシリウスが多くの人に尽くして、あの子の居場所を作るの」
「…………」
ケルヴィンは黙って聞いている。アステルはさらに言葉を続けた。
「シリウスに出会って、この人と家族になりたいって思って、どうしてもその繋がりを断ちたくなくて」
彼女はステラがいた腹部を撫でながら、心の中にある思いを語った。
ステラは自分の我儘で生まれた子供だ。
今は「大好き」だと言ってくれるが、いつか彼女に責められる日は必ずやってくる。
それでもステラの幸せを一番に考えて彼女の居場所は少しでも多く作らなければならない。その未来に繋がるなら何でもするとアステルは決めていた。
「そうですか」
ケルヴィンは静かに答え、「終わりです」と言って鍋をかき混ぜる手を止め、アステルを見た。
「うん、ちゃんと出来てる」
鍋の中身を確認するとアステルは満足そうに頷く。そして二人でなら余裕を持って期限内に頼まれた分の薬を用意できるだろうと確信した。
◆
本当ならケルヴィンを住み込みで働かせても良いのだが彼はダークエルフと暮らすのは無理だ。
なのでそのまま見守ることにしようにもエルフは他の種族に比べて神経質で繊細な者が多いため、彼が言い争いで再び怪我をしたり、精神的に参ってしまわないかと心配だった。
(どこか一人で暮らせるような貸し部屋は、この辺に無いのかな……)
頼まれた獣人用の薬作りを一段落させ、気分転換がてらにアステルはステラと一緒に家の周りを散歩していた。
アステル達の住む地区は街の中心部にあり、この辺りの人口は人間が圧倒的に多い。当然エルフや獣人は滅多に見かけない。
すぐ近くに店が充実した通りがあることを考えると生活するにとても楽で人気の高い場所だった。
(やっぱり住み込みの方が効率的なのよね)
歩いて見て回った結果、空き家ができればすぐに新しい住人が住むような、エルフの子供一人が住める場所は見当たらなかった。
自分たちがこの辺りに家を建てられたのはシリウスが騎士としての功績を認められ、国王から貰った報酬金で家を建てたからだ。
ケルヴィンはここから西側にある施設から徒歩で通っているため、住み込みで働いた方が彼も楽になると思っていたが、物事はそう簡単には進まないようだった。
「お母さん、キャロにお土産買ってこうよ」
ステラがアステルのワンピースの袖を引っ張りながらそう言った。
キャロラインに家の留守と掃除を任せて散歩をしていたが、ステラはそんな彼女に何かプレゼントを買って帰りたいのだ。
「そうね、何がいいかしら?」
アステルは少し考えながら答えた。この地区の外れにはお菓子屋もあると聞いたことがあったのでそこに寄ることにした。
お菓子屋の外観は温かみのある木製の看板がかけられ、木製の壁に白い窓枠が映える、かわいらしい佇まいだった。
窓の中には色とりどりのお菓子が美しくディスプレイされ、通りを行き交う人々の目を引く。
だが店の入り口には注意書きが目立つように掲げられていた。
【獣人お断り】
その文字はやや無機質な印象を与えつつも店主の意向を示す重要なメッセージだった。エルフは立ち入り禁止されていないのを確認をするとアステルもそのまま中に入ることにした。
「いらっしゃいませ!」
お菓子屋の扉を開けると甘い香りがふわりと漂ってきて、人間の女性の店員がにこやかに迎えてくれる。
ステラは目を輝かせ、店内の可愛らしいお菓子に夢中になっていた。大きなガラスケースの中には、色鮮やかなキャンディや美しい形をしたクッキーが整然と並び、どれも魅力的だ。
「これ、可愛い!お母さん、これにしようよ!」
「そうね、これもいいわね。でも、他にも何か見てみましょうか?」
カラフルなお菓子や美味しそうな焼き菓子が並ぶ中、ステラは嬉しそうに指を差しながら、次々と選び始めた。
ここ店には製菓用の材料も置いているのでまた買い来ようとアステルが考えている時だった。
「あら、あなた……」
後ろから声を掛かれて振り向くとそこにはエルフの女性が立っていた。
「ケルヴィン、一緒に工房に行きましょう?」
しばらくの沈黙が続いた後、ケルヴィンが口を開く。
「どうして辞めさせないのですか?」
「聞いていたの?」
「僕は貴女の家族をよく思っていないことを口にしました。それなのに何故、僕をクビにしないのですか?」
真剣な眼差しでそう尋ねるケルヴィンにアステルは真面目に返す。
「エルフがダークエルフを嫌うのは仕方ないわ。そう教えられて育ってきたのだから」
ダークエルフはエルフの裏切り者だという教えは親や祖父母から受け継がれてきたもので、長い年月を経て根付いている。
確かにダークエルフの中には他種族に害を及ぼす者もいるがシリウスのように正しく生きようとする者もいる。
アステルは自身が経験したことから全てのダークエルフが悪とも善とも一概には言えないと理解していた。
「でも、心の中でそう思うのはいいのだけど私の家族を直接侮辱するのだけは絶対に駄目よ」
アステルは強い口調で伝える。すると、ケルヴィンは驚いたような顔をした後、すぐに無表情に戻った。
「貴女の家族には何も言わないと誓います」
「それを守ってくれるなら私はケルヴィンを辞めさせないから安心して。早く薬を作りましょう」
アステルはニコリと微笑む。彼女のその笑顔には、彼に対する信頼が込められていた。
ケルヴィンは複雑そうな表情を浮かべたが、その心の奥にある葛藤を理解しようとするアステルは彼の反応を静かに見守った。
彼女は彼が自身の内面と向き合い、少しずつでも折り合いをつけていけることを願っていた。
◆
家に戻るとシリウスとステラは特訓を終え、ボール遊びを始めていた。
楽しそうに笑い声を上げるふたりを見てケルヴィンは眉をひそめたが何も言わずに俯いて仕事場へと真っ直ぐ歩いて行く。アステルはその後ろ姿を見て小さく溜め息を吐いた。
それから二人は薬作りに取り掛かることにした。材料を手に取り、鍋に入れて煮込むとケルヴィンがそれをかき混ぜ、魔法を使いながら魔力を注いでいく。
「失礼なことを質問してもいいですか?」
「……どうしたの?」
鍋の中身を掻き混ぜながら普段は詮索をしてこないケルヴィンがそんなことを言ってくるのでアステルは首を傾げた。
「何故、ダークエルフと結婚しようと思ったのですか?」
その質問にアステルは苦笑しながら答えた。
「昔、怪我をした彼を家に匿ったんだけど……その時に子供ができて」
「エルフとダークエルフのハーフの子供なんて、将来苦労するだけじゃないですか」
ケルヴィンの言葉はもっともだ。今後、何度も同じ質問をされ、批判されることになるだろう。
「確かにエルフにもダークエルフにも受け入れてもらえないステラは辛い目に合うのかもしれないけど」
グツグツと煮えている鍋の様子を見ながらアステルは言葉を続ける。鍋の中身を見つめながらアステルは続けた。
「そうならないように私とシリウスが多くの人に尽くして、あの子の居場所を作るの」
「…………」
ケルヴィンは黙って聞いている。アステルはさらに言葉を続けた。
「シリウスに出会って、この人と家族になりたいって思って、どうしてもその繋がりを断ちたくなくて」
彼女はステラがいた腹部を撫でながら、心の中にある思いを語った。
ステラは自分の我儘で生まれた子供だ。
今は「大好き」だと言ってくれるが、いつか彼女に責められる日は必ずやってくる。
それでもステラの幸せを一番に考えて彼女の居場所は少しでも多く作らなければならない。その未来に繋がるなら何でもするとアステルは決めていた。
「そうですか」
ケルヴィンは静かに答え、「終わりです」と言って鍋をかき混ぜる手を止め、アステルを見た。
「うん、ちゃんと出来てる」
鍋の中身を確認するとアステルは満足そうに頷く。そして二人でなら余裕を持って期限内に頼まれた分の薬を用意できるだろうと確信した。
◆
本当ならケルヴィンを住み込みで働かせても良いのだが彼はダークエルフと暮らすのは無理だ。
なのでそのまま見守ることにしようにもエルフは他の種族に比べて神経質で繊細な者が多いため、彼が言い争いで再び怪我をしたり、精神的に参ってしまわないかと心配だった。
(どこか一人で暮らせるような貸し部屋は、この辺に無いのかな……)
頼まれた獣人用の薬作りを一段落させ、気分転換がてらにアステルはステラと一緒に家の周りを散歩していた。
アステル達の住む地区は街の中心部にあり、この辺りの人口は人間が圧倒的に多い。当然エルフや獣人は滅多に見かけない。
すぐ近くに店が充実した通りがあることを考えると生活するにとても楽で人気の高い場所だった。
(やっぱり住み込みの方が効率的なのよね)
歩いて見て回った結果、空き家ができればすぐに新しい住人が住むような、エルフの子供一人が住める場所は見当たらなかった。
自分たちがこの辺りに家を建てられたのはシリウスが騎士としての功績を認められ、国王から貰った報酬金で家を建てたからだ。
ケルヴィンはここから西側にある施設から徒歩で通っているため、住み込みで働いた方が彼も楽になると思っていたが、物事はそう簡単には進まないようだった。
「お母さん、キャロにお土産買ってこうよ」
ステラがアステルのワンピースの袖を引っ張りながらそう言った。
キャロラインに家の留守と掃除を任せて散歩をしていたが、ステラはそんな彼女に何かプレゼントを買って帰りたいのだ。
「そうね、何がいいかしら?」
アステルは少し考えながら答えた。この地区の外れにはお菓子屋もあると聞いたことがあったのでそこに寄ることにした。
お菓子屋の外観は温かみのある木製の看板がかけられ、木製の壁に白い窓枠が映える、かわいらしい佇まいだった。
窓の中には色とりどりのお菓子が美しくディスプレイされ、通りを行き交う人々の目を引く。
だが店の入り口には注意書きが目立つように掲げられていた。
【獣人お断り】
その文字はやや無機質な印象を与えつつも店主の意向を示す重要なメッセージだった。エルフは立ち入り禁止されていないのを確認をするとアステルもそのまま中に入ることにした。
「いらっしゃいませ!」
お菓子屋の扉を開けると甘い香りがふわりと漂ってきて、人間の女性の店員がにこやかに迎えてくれる。
ステラは目を輝かせ、店内の可愛らしいお菓子に夢中になっていた。大きなガラスケースの中には、色鮮やかなキャンディや美しい形をしたクッキーが整然と並び、どれも魅力的だ。
「これ、可愛い!お母さん、これにしようよ!」
「そうね、これもいいわね。でも、他にも何か見てみましょうか?」
カラフルなお菓子や美味しそうな焼き菓子が並ぶ中、ステラは嬉しそうに指を差しながら、次々と選び始めた。
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