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ヴィクトルサイド18
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俺は覚悟を決めてマーシャル邸に赴こうとしていた。エレノアを連行し、全ての闇を暴くために。しかし、彼女の方からやって来るとは思ってもみなかった。
訪問者として現れたエレノアはあまりにも予想外のタイミングだった。彼女の足取りは冷静そのもので、普段と変わらぬ姿勢だ。
まるで何も無かったかのように応接室に入ってきた。向こうから仕掛けてきたこの対面に警戒心を強める。
そして、エレノアは静かに腰を下ろすと、神妙な面持ちで言葉を吐いた。
「いい加減にユミルリアを返してください。皆が心配をしているんです」
その言葉にはいくらかの誠意を感じるように見えたが、エレノアの表情は酷く冷めきっていた。
「裏で盗賊と繫がっているのは調べてある」
「……なんのことです?」
冷たく言い放つとエレノアは表情を崩した様子も見せず、無表情で淡々と答える。
「お前がユミルを危険な目に遭わせたことはわかっている」
「証拠がありませんね?」
その言葉の裏には俺を試すかのような不敵な雰囲気が漂っていた。無理に動揺しないようにしているその姿が、逆に俺を警戒させる。
「保護したメイドたちが白状した。「全てはエレノア様に頼まれた」とな。ユミルを俺から引き離すために盗賊と共に城に潜入をし、部下に危害を加えたことも白状をした」
彼女の目が一瞬、揺れた気がした。しかし、すぐにその表情は硬くなり、再び無表情の仮面をかぶる。
「それが何の証拠になるというんです?何故私が姉と妹を殺さなければ……」
「ミーティアの件はまだ何も言っていない」
「…………」
俺はまだユミルを襲った犯人のことしか話していない。エレノアは勝手にミーティアを殺した犯人とユミルを殺そうとした犯人を同一人物だと口を滑らせて墓穴を掘った。
「盗賊に送った依頼の手紙とミーティアの日記、そしてお前の書いた手紙の文字が一致している。専門家に依頼して筆跡鑑定をして貰った」
「…………」
机の上に日記と手紙を置くがエレノアはそちらを見ることなく、ただただ俺から目を逸らさずに見ていた。
ようやく復元するのことのできた盗賊に送られた手紙。アジトからビリビリに破られていたその手紙には昼過ぎにとある場所で待ち伏せをすれば護衛の薄い令嬢が通るから襲うといいと書かれている。
「クララ伯爵令嬢に罪を着せようとしていたのもお前だけだった」
日記と手紙を机に並べて見せた。エレノアはその手紙を無言で見下ろし、じっと目を逸らすことなく俺を見つめ返していた。
その目には隠しきれない何かを感じる。どうしても、エレノアの心を読み取れない不気味さを感じていた。
「お前が違法植物を買ったことも調査済みだ。売人はすでに捕まえてある」
その言葉が重くエレノアの胸に響くと、彼女の顔から一瞬、影が差した。それでも、彼女は口を開かない。
「答えろ、エレノア。お前の目的はなんだ。何故、実の妹を殺そうとする」
エレノアは一度、深く息を吸い込み、やっとのことで口を開く。しかし、その口調はまるで世間話でもするような軽いもので、今までの冷徹さが嘘のようだった。
「できの悪い妹が目障りだったんですよ」
その言葉に何とも言えぬ虚しさを感じた。無駄にプライドが高く、しかしその内面はこんなにも薄っぺらかったのかと。
「お前は公爵夫人になりたかっただけだろ?」
その一言にエレノアの表情が一瞬歪むのを見逃すことはなかった。その表情から、彼女の心の中に今まで隠されていた本音が見え隠れしているのを感じ取れる。
「違います」
彼女はすぐに無表情を装ったが、その言葉には反論できなさそうなほどの弱さが滲んでいた。動揺の色が隠しきれなくなったその表情を俺は見逃さなかった。
「お前が偽装をしたミーティアが俺に対する感情を吐露しているページだ。よく見てみろ」
俺はゆっくりと日記を手に取り、エレノアの前に差し出す。そのページに書かれた内容を彼女はぎこちなく覗き込み、目を見開いて息が荒くなり始める。
「他の文面は淡々としているが、ここだけずいぶんと情熱的だな」
「違います」
「どこが違う。ここだけはお前の言いたいことを書いたのだろう?お前は俺のことが……」
「違います!」
彼女は小刻みに震え、立ち上がると、俺に向かって叫び始めた。今まで取り繕っていたものが一気に崩れ落ち、その表情からは冷静さを失った人間らしさが見えた。
「実の姉妹を消してまで欲しい立場なのか?」
俺の言葉がエレノアに直撃すると、彼女の顔が一瞬で蒼白になり、言葉を失ったように口を閉じた。
けれど、目の奥にたまったものが暴れ始めるのが見えていた。怒り、嫉妬、そして後悔――その全てが交錯するように見える瞳。
「……違う……違うの……姉様……」
突然、エレノアの声が震え、そう呟いた。普段の彼女からは考えられないような、頼むような口調だった。
「お前の罪は明らかだ。姉妹を殺すために何をしてきたか。自分が望んだものを得るためにどれだけの命を弄んできたのか……」
エレノアの体がさらに震え、彼女の瞳から、何かがこぼれ落ちた。それは涙だった。
「違う! そうじゃない! そんなつもりじゃなかった!」
突然、声を上げてエレノアは膝から崩れ落ち、顔を両手で押さえて嗚咽を漏らした。その声は次第に激しくなり、深い絶望と後悔のうめき声となって響いた。まるで、今まで押し込めていた全ての感情が一気に溢れ出してきたかのように。
そしてエレノアは頭を抱えて丁寧に纏めていた髪を振り乱す。彼女は目に見えない力に引き裂かれるように苦しむように泣き続けた。冷静なエレノアの面影はもう無く、ただただ、今の彼女は壊れた人間に見えた。
一人で行ったのか、共犯者がいるのか、聞きたいことは山ほどある。今は聞ける状態ではない。取り調べは落ち着いてからすることにしよう。
「連れていけ」
俺の一言で、部屋の外に待機していた部下が入ってきて、エレノアを連行しようとした。しかし、エレノアはそれに対して一切の抵抗をしなかった。
無力な人間として、ただ呆然とその場に座り込んだままの女は無理矢理立たされ、何も言わずに連れ去られていった。
訪問者として現れたエレノアはあまりにも予想外のタイミングだった。彼女の足取りは冷静そのもので、普段と変わらぬ姿勢だ。
まるで何も無かったかのように応接室に入ってきた。向こうから仕掛けてきたこの対面に警戒心を強める。
そして、エレノアは静かに腰を下ろすと、神妙な面持ちで言葉を吐いた。
「いい加減にユミルリアを返してください。皆が心配をしているんです」
その言葉にはいくらかの誠意を感じるように見えたが、エレノアの表情は酷く冷めきっていた。
「裏で盗賊と繫がっているのは調べてある」
「……なんのことです?」
冷たく言い放つとエレノアは表情を崩した様子も見せず、無表情で淡々と答える。
「お前がユミルを危険な目に遭わせたことはわかっている」
「証拠がありませんね?」
その言葉の裏には俺を試すかのような不敵な雰囲気が漂っていた。無理に動揺しないようにしているその姿が、逆に俺を警戒させる。
「保護したメイドたちが白状した。「全てはエレノア様に頼まれた」とな。ユミルを俺から引き離すために盗賊と共に城に潜入をし、部下に危害を加えたことも白状をした」
彼女の目が一瞬、揺れた気がした。しかし、すぐにその表情は硬くなり、再び無表情の仮面をかぶる。
「それが何の証拠になるというんです?何故私が姉と妹を殺さなければ……」
「ミーティアの件はまだ何も言っていない」
「…………」
俺はまだユミルを襲った犯人のことしか話していない。エレノアは勝手にミーティアを殺した犯人とユミルを殺そうとした犯人を同一人物だと口を滑らせて墓穴を掘った。
「盗賊に送った依頼の手紙とミーティアの日記、そしてお前の書いた手紙の文字が一致している。専門家に依頼して筆跡鑑定をして貰った」
「…………」
机の上に日記と手紙を置くがエレノアはそちらを見ることなく、ただただ俺から目を逸らさずに見ていた。
ようやく復元するのことのできた盗賊に送られた手紙。アジトからビリビリに破られていたその手紙には昼過ぎにとある場所で待ち伏せをすれば護衛の薄い令嬢が通るから襲うといいと書かれている。
「クララ伯爵令嬢に罪を着せようとしていたのもお前だけだった」
日記と手紙を机に並べて見せた。エレノアはその手紙を無言で見下ろし、じっと目を逸らすことなく俺を見つめ返していた。
その目には隠しきれない何かを感じる。どうしても、エレノアの心を読み取れない不気味さを感じていた。
「お前が違法植物を買ったことも調査済みだ。売人はすでに捕まえてある」
その言葉が重くエレノアの胸に響くと、彼女の顔から一瞬、影が差した。それでも、彼女は口を開かない。
「答えろ、エレノア。お前の目的はなんだ。何故、実の妹を殺そうとする」
エレノアは一度、深く息を吸い込み、やっとのことで口を開く。しかし、その口調はまるで世間話でもするような軽いもので、今までの冷徹さが嘘のようだった。
「できの悪い妹が目障りだったんですよ」
その言葉に何とも言えぬ虚しさを感じた。無駄にプライドが高く、しかしその内面はこんなにも薄っぺらかったのかと。
「お前は公爵夫人になりたかっただけだろ?」
その一言にエレノアの表情が一瞬歪むのを見逃すことはなかった。その表情から、彼女の心の中に今まで隠されていた本音が見え隠れしているのを感じ取れる。
「違います」
彼女はすぐに無表情を装ったが、その言葉には反論できなさそうなほどの弱さが滲んでいた。動揺の色が隠しきれなくなったその表情を俺は見逃さなかった。
「お前が偽装をしたミーティアが俺に対する感情を吐露しているページだ。よく見てみろ」
俺はゆっくりと日記を手に取り、エレノアの前に差し出す。そのページに書かれた内容を彼女はぎこちなく覗き込み、目を見開いて息が荒くなり始める。
「他の文面は淡々としているが、ここだけずいぶんと情熱的だな」
「違います」
「どこが違う。ここだけはお前の言いたいことを書いたのだろう?お前は俺のことが……」
「違います!」
彼女は小刻みに震え、立ち上がると、俺に向かって叫び始めた。今まで取り繕っていたものが一気に崩れ落ち、その表情からは冷静さを失った人間らしさが見えた。
「実の姉妹を消してまで欲しい立場なのか?」
俺の言葉がエレノアに直撃すると、彼女の顔が一瞬で蒼白になり、言葉を失ったように口を閉じた。
けれど、目の奥にたまったものが暴れ始めるのが見えていた。怒り、嫉妬、そして後悔――その全てが交錯するように見える瞳。
「……違う……違うの……姉様……」
突然、エレノアの声が震え、そう呟いた。普段の彼女からは考えられないような、頼むような口調だった。
「お前の罪は明らかだ。姉妹を殺すために何をしてきたか。自分が望んだものを得るためにどれだけの命を弄んできたのか……」
エレノアの体がさらに震え、彼女の瞳から、何かがこぼれ落ちた。それは涙だった。
「違う! そうじゃない! そんなつもりじゃなかった!」
突然、声を上げてエレノアは膝から崩れ落ち、顔を両手で押さえて嗚咽を漏らした。その声は次第に激しくなり、深い絶望と後悔のうめき声となって響いた。まるで、今まで押し込めていた全ての感情が一気に溢れ出してきたかのように。
そしてエレノアは頭を抱えて丁寧に纏めていた髪を振り乱す。彼女は目に見えない力に引き裂かれるように苦しむように泣き続けた。冷静なエレノアの面影はもう無く、ただただ、今の彼女は壊れた人間に見えた。
一人で行ったのか、共犯者がいるのか、聞きたいことは山ほどある。今は聞ける状態ではない。取り調べは落ち着いてからすることにしよう。
「連れていけ」
俺の一言で、部屋の外に待機していた部下が入ってきて、エレノアを連行しようとした。しかし、エレノアはそれに対して一切の抵抗をしなかった。
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