「お前が死ねばよかった」と言われた夜【新章スタート】

白滝春菊

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 ミーティア姉様は私を嫌っていたわ。

 姉様が私に冷たく接する理由は知っていた。いつも私が親に褒められると、顔色を変えて私を避けるようになった。
 私が良い成績を収めたり、称賛を受けたりすると姉様は必ずと言っていいほど無視を決め込んでいたの。
 私は何も悪いことをしていないのに姉様の目には私が何か大きな罪を犯しているように映っていた。

 それから、もっと耐え難いことが始まった。

 それはユミルリアの存在だった。私が少しでも親に褒められると姉様は必ずと言っていいほどユミルリアを特別扱いするようになったわ。
 何もできない役立たずの可愛いだけの都合のいい妹を作り上げて可愛がっていた。姉様がユミルリアに微笑みかける度に気分が悪くなるの。

 いつしか私は誰かに価値を見いだされ、結婚して幸せになれると心のどこかで少しだけ思っていた。

 そんな中、成り上がって公爵にまで昇進したヴィクトル・レーゲンブルクと社交界で初めて出会ったの。
 彼は高貴さを持つ男性で女性たちからしばしば言い寄られていたけれど、彼はそれを面倒そうにしていた。その姿がとても印象的で私は彼に心惹かれた。

 社交界の多くの令嬢は外見や地位、家柄を競い合っているだけで賢さや内面の強さを感じさせなかった。
 そして、ヴィクトル様が見せる強い姿こそが、私が求めていたものだと確信していた。

 私は他の令嬢たちのように媚びたりせず、彼に声をかけてもらうのを待っていた。けれど、いくら待っても彼から声がかかることはなかった。

 私は自分が他の人とは違うから選ばれると期待していたけれど、選ばれたのはミーティア姉様だった。

 私は選ばれなかった。それが私の心に深い落胆をもたらした。そしていつしかその思いを諦めることにした。

 けれど、ある日、私は偶然にも耳にした。ミーティア姉様とヴィクトル様の間で交わされる激しい言葉の応酬を。
 二人の間に何か大きな出来事が起きていることは明白だった。私の耳にその声が届いたとき、つい立ち聞きしてしまった。

「俺が選んだのはお前の妹だ」

 その瞬間、私はただ立ち尽くし、動くことすらできなかった。
 私はヴィクトル様が選んだのは姉様だとずっと諦めていたのに本当に選ばれたのは私。  
 姉様が私からヴィクトル様を奪った。私は特別な存在になれるはずだったのに姉様が私の幸せを壊した。あの日から私にとってミーティア姉様は最も憎むべき存在となったのだ。

 それなら、奪い返してやればいい。そう思った私は計画を立て始めた。

 匿名で盗賊に依頼をした。正直なところ、あまり期待はしていなかったし、こんな方法に頼ることが正しいのかもわからなかった。
 しかし、楽にお金を得ようとする人たちはどうしても考えなしに動いてしまうものだったらしい。依頼を受けた考え無しの彼らは深く考えずにそれを実行に移すことに決めたのだ。

 馬車で通りかかった姉様から金目の物を奪って汚してくれ、姉様を嫁げない体にしてやれと頼んだ。
 私はただミーティア姉様を汚してやりたかったの。そして姉様に少しでも私が感じた痛みを理解してほしいという思いがあった。

 けれど、想像もしなかった事態が起きた。姉様に死んでほしいなんて考えたことは一度もなかったのに結果として私の行動が大きな問題を引き起こし、後悔と恐怖が私を支配していった。

 その後、次の花嫁が決まる時、私は驚くべきことに気づいてしまった。
 ヴィクトル様が最初に求めていた「妹」は私ではなかったのだ。実際にヴィクトル様が選んだのはユミルリアだった。 
 容姿が良いだけの妹のユミルリア。彼が一番好まないような顔だけの何の力もないユミルリア。
 お姉様や他のご令嬢はヴィクトル様に尽くしたのにユミルリアは何もしていない。

 私は姉様を憎み、嫉妬し、最終的にはその命を奪ってしまった。私の行動が無駄で、間違いだった。姉様の死は私が一番欲しかったものを手に入れるどころか、逆に私の心に深い傷を残した。

 それからしばらくたって、久しぶりにユミルリアはマーシャル邸へ帰ってきた。最後に見た時に比べて女らしくなったような気がする。
 そしてユミルリアは夫婦生活が上手くいっていないと自虐を含みながら優越感を漂わせながら言う。
 ミーティア姉様と性格は真逆な癖に人のことを下に見るような物言いをする。

 そうだわ、次はユミルリアを殺してしまえばいい。一度、ミーティア姉様を殺してしまったらユミルリアを殺すのも同じだ。そうすれば今度こそは私がヴィクトル様の妻になれる。

 そこで思いついたのはまた新たに盗賊を雇ってユミルリアを殺してしまう事だった。
 しかし、今度はミーティアお姉様の時とは違ってユミルリアを守る護衛の数が多すぎた。
 まるで彼女が一人では歩けないかのように周囲には常に護衛がぴったりと張り付いていた。ヴィクトル様もできるだけユミルリアのそばにいる。彼女を守るためにどこへでも共に足を運ぶ姿は不愉快だったわ。

 でもヴィクトル様は強くて立場も高いけど、どうやら人望には恵まれていないのね。
 だから、私が彼の妻になれば有利な情報を流してあげることができるって言ったら、彼をよく思わない周囲の人たちも協力してくれたわ。
 まあ、今ではその人たちも罰を受けているけど最初のうちはすっかり乗せられてくれたのよね。

 ユミルリアをミーティアお姉様と同じように汚して、そして殺してやろうと思っていたの。
 念の為に毒の付いたナイフで自害をできるようにすればユミルリアは自ら死を選ぶと思っていたわ。
 そうすれば今度こそヴィクトル様の心は私に向かう。そうしたら今度こそ、私は特別になれる。

 ◆

「でも失敗したわ。ユミルリアはここにいるもの」

 エレノアお姉様は自分の言葉に苦笑しているかのように軽やかに笑った。しかし、瞳の中には、もはや何一つとして映っていない。
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