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変化の始まり
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エレノアお姉様は静かに額に手を当て、深くため息をついた。そのため息はまるで、心の中の重い何かを吐き出すかのようで、私の胸にもその重さが伝わった。
「私は特別になりたかったの……他の女とは違う、私だけが特別だと思われたかった……でもそうじゃなかった」
「エレノアお姉様……」
「結局、私は何も手に入れられなかったのよ。失ってばかりで、本当バカみたいよね。貴女は何故自害をしなかったの?軍人の妻は汚される前に自害をしなければいけないはずよ?」
「……死にたくなかったんです。私が死んでもヴィクトル様は後悔してくれないから」
私がそう答えると、お姉様は声を出して笑い出した。その目には涙が浮かんでいる。
「本当、貴女は臆病ね……自害をしてくれたら私は公爵夫人になれたのに……」
エレノアお姉様はそう言って私をじっと見つめた。
「ユミルリア、私は貴女が大嫌いなの」
その言葉は鋭く冷たく私に突き刺さった。お姉様の瞳には長い間抱えていた感情が渦巻いているのが見て取れた。
「何もしないくせにミーティア姉様やヴィクトル様から愛情を注がれていた貴女が憎かったの。特別な貴女が」
エレノアお姉様の声が、震えている。
「ヴィクトル様にこれを言ったら、なんて言われたと思う?『お前も何もしなかっただろ』ですって……本当にそうね。私とユミルリアは何もしてないのに……それなのにユミルリアだけが……選ばれて……」
その言葉には悔しさとともにどこか自嘲の色が浮かんでいた。彼女は一度、目を伏せるようにして言葉を続けた。
「私はただ特別な存在になりたかったのに」
「…………」
「でも、もうそれも叶わないわね」
冷たい空気の中でひときわ重く響いた。お姉様は自嘲気味に微笑んだが、その笑顔はどこか切なく、どこか寂しさを漂わせて。
彼女の中で、すべてがすでに決着をつけられてしまったかのように感じられた。
「エレノアお姉様。ミーティアお姉様を奪ったことは許されませんし、私は許したくありません。でも、私はお姉様が罪を償って帰ってくるのをずっと待っています。まだ力はありませんが、時間をかけてでも、いつかお姉様の居場所を……」
「馬鹿にしないで、何もできないくせに」
エレノアお姉様は乾いた笑い声を漏らした。その目は冷たく、まるで私の言葉を受け入れることを拒絶するかのようだった。
「姉と無関係の人間を殺した私が、そんな所に戻れるわけないでしょ」
その声には自己嫌悪と絶望が混じり、耳をつんざくような鋭さがあった。お姉様は目を伏せ、手を握りしめると、続けて言った。
「しかも、何の罪もない妹まで襲わせて……それなのにこんな醜態をさらしている私がどうして」
言葉が途切れると、エレノアお姉様は肩を震わせてうずくまった。
「例え許されて、ここから出られたとしても、私はミーティア姉様の後を追うわ……だから、私のことは忘れなさい……もう私の事は忘れて、貴女は勝手に生きればいい」
その言葉には諦めと自己放棄が漂っていた。彼女は私を見つめることなく、まるで自分の存在が消え去ることを望むかのように無力さを感じさせている。
「最後にもう一つだけ教えてあげる」
「はい」
その言葉にはまるで長い間秘めていた真実を吐き出すような力強さがあった。私はその言葉に少し怯えながらも、しっかりと耳を傾けた。
「ユミルリア、貴女はミーティア姉様に愛されてなんかいなかったのよ」
その言葉は私の胸を深くえぐった。予想もしていなかった言葉に心が震えたが、お姉様はそのまま続けた。
「ただ、都合の良いお人形にされていただけよ。貴女は気づかないうちにあの人に人生を狂わされていたの」
エレノアお姉様の言葉は最初こそ衝撃的だったが、その意味が徐々に腑に落ちてきた。
ヴィクトル様の妻になった私は何もできなかった。ただ与えられるまま、言われるがままに生きていたことに気がついてしまった。
自分の意志で行動することも、自分で決断することもなく、ただ流されるだけ。
都合の良い人形。
まさにそれが私の人生そのものだった。ミーティアお姉様に抑制され、何も学ぶことなく、私はただ彼女の思うように動いていた。
◆
エレノアお姉様との面会が終わると彼女は最後に冷たく言い放った言葉を残して部屋を出て行った。
「二度と会いに来ないで」
その言葉が私の心に深く刻まれた。今も耳の奥で響いている。
私が物心をついた頃から、ミーティアお姉様とエレノアお姉様が決して一緒に遊んだりおしゃべりしたりすることがなかったことを思い出す。
まるで、二人はお互いに存在を意識し、距離を保ちながら生きていたように感じていた。
私はずっと思っていた。どうして二人は一緒に過ごさないのだろう?と。エレノアお姉様も一緒に遊べばいいのに、と。
「エレノアは一人が好きなのよ」
私の疑問にミーティアお姉様は優しく微笑んでこう言った。でも、今になってそれが嘘だったと気づく。エレノアお姉様は寂しかったから。
私が二人の間に入って手を繋いで仲直りをすべきだった。でも、私は何もできなかった。
だって、ミーティアお姉様がそうしろと言わなかったから。だから、私は何もできなかった。
ミーティアお姉様の言葉に逆らうことが恐ろしかったし、必要はないと思っていた。だから私はエレノアお姉様と無理に仲良くしようとは思わなかった。
今は違う。私は気づいてしまった。ミーティアお姉様が間違っていたことに。
もし、あの時、私が仲良くしてほしいと言っていれば、二人の関係は少しでも変わったかもしれない。私はあの時何かをするべきだったんだ。
変化を起こすことは怖い。でも、動かないと何も始まらない。何かを変えなければ私はずっとこのまま落ちるだけだ。
だから、私は変わらなければならないのだ。
「私は特別になりたかったの……他の女とは違う、私だけが特別だと思われたかった……でもそうじゃなかった」
「エレノアお姉様……」
「結局、私は何も手に入れられなかったのよ。失ってばかりで、本当バカみたいよね。貴女は何故自害をしなかったの?軍人の妻は汚される前に自害をしなければいけないはずよ?」
「……死にたくなかったんです。私が死んでもヴィクトル様は後悔してくれないから」
私がそう答えると、お姉様は声を出して笑い出した。その目には涙が浮かんでいる。
「本当、貴女は臆病ね……自害をしてくれたら私は公爵夫人になれたのに……」
エレノアお姉様はそう言って私をじっと見つめた。
「ユミルリア、私は貴女が大嫌いなの」
その言葉は鋭く冷たく私に突き刺さった。お姉様の瞳には長い間抱えていた感情が渦巻いているのが見て取れた。
「何もしないくせにミーティア姉様やヴィクトル様から愛情を注がれていた貴女が憎かったの。特別な貴女が」
エレノアお姉様の声が、震えている。
「ヴィクトル様にこれを言ったら、なんて言われたと思う?『お前も何もしなかっただろ』ですって……本当にそうね。私とユミルリアは何もしてないのに……それなのにユミルリアだけが……選ばれて……」
その言葉には悔しさとともにどこか自嘲の色が浮かんでいた。彼女は一度、目を伏せるようにして言葉を続けた。
「私はただ特別な存在になりたかったのに」
「…………」
「でも、もうそれも叶わないわね」
冷たい空気の中でひときわ重く響いた。お姉様は自嘲気味に微笑んだが、その笑顔はどこか切なく、どこか寂しさを漂わせて。
彼女の中で、すべてがすでに決着をつけられてしまったかのように感じられた。
「エレノアお姉様。ミーティアお姉様を奪ったことは許されませんし、私は許したくありません。でも、私はお姉様が罪を償って帰ってくるのをずっと待っています。まだ力はありませんが、時間をかけてでも、いつかお姉様の居場所を……」
「馬鹿にしないで、何もできないくせに」
エレノアお姉様は乾いた笑い声を漏らした。その目は冷たく、まるで私の言葉を受け入れることを拒絶するかのようだった。
「姉と無関係の人間を殺した私が、そんな所に戻れるわけないでしょ」
その声には自己嫌悪と絶望が混じり、耳をつんざくような鋭さがあった。お姉様は目を伏せ、手を握りしめると、続けて言った。
「しかも、何の罪もない妹まで襲わせて……それなのにこんな醜態をさらしている私がどうして」
言葉が途切れると、エレノアお姉様は肩を震わせてうずくまった。
「例え許されて、ここから出られたとしても、私はミーティア姉様の後を追うわ……だから、私のことは忘れなさい……もう私の事は忘れて、貴女は勝手に生きればいい」
その言葉には諦めと自己放棄が漂っていた。彼女は私を見つめることなく、まるで自分の存在が消え去ることを望むかのように無力さを感じさせている。
「最後にもう一つだけ教えてあげる」
「はい」
その言葉にはまるで長い間秘めていた真実を吐き出すような力強さがあった。私はその言葉に少し怯えながらも、しっかりと耳を傾けた。
「ユミルリア、貴女はミーティア姉様に愛されてなんかいなかったのよ」
その言葉は私の胸を深くえぐった。予想もしていなかった言葉に心が震えたが、お姉様はそのまま続けた。
「ただ、都合の良いお人形にされていただけよ。貴女は気づかないうちにあの人に人生を狂わされていたの」
エレノアお姉様の言葉は最初こそ衝撃的だったが、その意味が徐々に腑に落ちてきた。
ヴィクトル様の妻になった私は何もできなかった。ただ与えられるまま、言われるがままに生きていたことに気がついてしまった。
自分の意志で行動することも、自分で決断することもなく、ただ流されるだけ。
都合の良い人形。
まさにそれが私の人生そのものだった。ミーティアお姉様に抑制され、何も学ぶことなく、私はただ彼女の思うように動いていた。
◆
エレノアお姉様との面会が終わると彼女は最後に冷たく言い放った言葉を残して部屋を出て行った。
「二度と会いに来ないで」
その言葉が私の心に深く刻まれた。今も耳の奥で響いている。
私が物心をついた頃から、ミーティアお姉様とエレノアお姉様が決して一緒に遊んだりおしゃべりしたりすることがなかったことを思い出す。
まるで、二人はお互いに存在を意識し、距離を保ちながら生きていたように感じていた。
私はずっと思っていた。どうして二人は一緒に過ごさないのだろう?と。エレノアお姉様も一緒に遊べばいいのに、と。
「エレノアは一人が好きなのよ」
私の疑問にミーティアお姉様は優しく微笑んでこう言った。でも、今になってそれが嘘だったと気づく。エレノアお姉様は寂しかったから。
私が二人の間に入って手を繋いで仲直りをすべきだった。でも、私は何もできなかった。
だって、ミーティアお姉様がそうしろと言わなかったから。だから、私は何もできなかった。
ミーティアお姉様の言葉に逆らうことが恐ろしかったし、必要はないと思っていた。だから私はエレノアお姉様と無理に仲良くしようとは思わなかった。
今は違う。私は気づいてしまった。ミーティアお姉様が間違っていたことに。
もし、あの時、私が仲良くしてほしいと言っていれば、二人の関係は少しでも変わったかもしれない。私はあの時何かをするべきだったんだ。
変化を起こすことは怖い。でも、動かないと何も始まらない。何かを変えなければ私はずっとこのまま落ちるだけだ。
だから、私は変わらなければならないのだ。
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