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矢島みち

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 理来と【初期課】へ戻ると、先に来ているはずの南原の姿が無い。

「あれ…?南原さんは…?」理来がキョロキョロしながら聞くと、「ああ、彼女なら『急に気分が悪くなったので早退します』って早退届を叩きつけて帰ったよ」田中課長がその早退届を自身の顔の横でヒラヒラと振る。…随分元気な早退だな…。

「ところで、君たちお付き合いしているんだってね?いきなりどうしちゃったの?昨日、私たちが現場に行っている間にナニかあったの?」

 田中課長からは俺に"うんうん、本当に良かったね"と温かい視線が送られた。
 ありがとうございます‼課長‼…でも彼女はまだ俺に興味無いんです…とは言えず無言で席に着いた。
 西野だけはしつこく『うーん、東雲ちゃんの魅力が俺には判らないなー…体型もお子様だし、顔も普通だし…』とブツブツ言っている。お前に理来の可愛さは判らんだろう。見る目無さそうだもんなと心で思う。
しかし『もしかして凄いテクニックの持ち主だとか⁈』と言い出したのにはムカついた。お前、理来の裸とか想像しているんじゃあるまいな…と。

 思わず『西野いい加減にしてくれないか?』と睨みつけてしまう。

「俺たちは確かに付き合っている。でも、理来…いや東雲は俺にどうしてもって口説かれて付き合ってくれただけなんだ!彼女の気持ちが俺に完全に向いていない以上、お前たちに冷やかされたら彼女が傷つくだろう‼…彼女の素晴らしさは俺だけが判っていればいいんだ。愛する彼女を侮辱するのは止めてくれ…」

 そう、理来のあられもない姿を想像するのはこの俺が許さない‼彼女が俺を好きになった時にはもちろん美味しくいただきますけれど…。

「そう…だよな、ごめんな東雲。北条にあんなことまで言わせるなんて、お前のことを本当に大切に思っているんだな‼判った!俺もお前たちのことを応援するからな」

 西野…相変わらず単純なやつだぜ。…俺が彼女持ちになれば自分がモテるしと考えているのも丸わかりだ。

「ありがとう、西野なら分かってくれると信じていたぜ」微笑む俺。

「正直、北条ならもっと他に良い女がいるんじゃと思ったけれど、そんなにも東雲のことを愛しているって知ったら何も言えないぜ。…周りにもしっかり言っておく!安心しろ!二人とも」

 キラリ☆爽やかな笑顔を見せると西野が決め台詞の様に言う…。
 西野は単純バカだけれど、カリスマ性のあるイケメンバカなのだ。
 彼が周り中に言えば、もう撤回するのは不可能だろう…。上手くやったぜ!俺っ‼

「いや~良かったな、二人とも。じゃあ今日の逃げ出した【魂】の捕獲にはアツアツのお二人で行ってもらっちゃおうかな~」

 田中課長はそう言って仕事の詳細が書かれたメモを渡してきた。勿論、ハイ喜んで~…だ。

「任せてください。さぁ、理来…あ、ごめん仕事中は東雲って呼ばないとな。準備をしておいで?…一緒に頑張ろうな‼」

「…はぁ…」

 もう否定する気力すらなく大人しく俺に連行される理来…ああ本当に可愛いな。

「さっきのアレ、やり過ぎじゃないですか?」

 俺たちは逃げ出した【魂】の捕縛に徒歩で向かっていた。勿論二人ともいつもの農作業ペアルックである。
 何のことだろう…?全く分からず首を傾げると、理来が地団太を踏んで怒っていた。

「うららかの前でやったバックハグとか、課長たちに付き合う宣言したアレですよっ‼大体、付き合うフリは先輩の家に行くときだけって話じゃなかったんですか?なんで職場でまでこんな目に…」

 ブツブツと文句を言う理来に思わず顔がにやける。あー…あの話ねえ…

「実は、昨日家で『付き合っている人がいるから見合いはしない!』って宣言したら親父が見合い相手に速攻で断りの連絡を入れたんだよ」

「北条先輩にとっては願ったとおりの展開じゃないですか。それで何で職場でまで…」

「そうしたら、見合い相手が『嘘かもしれないから興信所を使って相手の女を調べる』って言いだして…」

「…それは…凄い人ですね…」理来がちょっと引いたように言う。うん、俺もそう思った。

「興信所まで使われるなら、お前と付き合っている既成事実が必要だと思ってさ。噂を広めたのも俺だ‼いや~告白された時とか断りやすくて助かったわ」

「はぁーっ⁈私の立場とか、今後はどうなるんですか?ひどい‼せめて同意を貰ってから行動してくださいよー‼」

「だって、言ったらお前が同意するわけないじゃん。こうなったら諦めて俺と付き合っとけって」

「嫌だ―っ‼そこまで思われているなら見合いの相手と付き合って結婚すればいいだろーがっ⁈」

「嫌だね」

 理来はマジ切れしていたけれど、ムキになって怒る可愛い姿を見ているだけで幸せだ。
 彼女はこの後もギャンギャンと文句を言いながら【魂】を捕縛することになった。

 今日の逃げ出した【魂】は奥さんがいるのに浮気した挙句、愛人の運転する車で事故って亡くなった斎藤元さん38歳だった。しかも、愛人はケガ程度だった。
 死んだ斎藤さんは【魂】になっても浮気相手の所へ行こうと逃げたらしい…。こいつ馬鹿なの?

「うちの奥さんより若くてピチピチなんだもん。最後ぐらいは若い娘の傍にいたいじゃん」

 【魂】の斎藤さんは悪びれずに平然と宣った。

「【魂】になったらお相手の女性にも姿は見えませんよ?それに最後に大切な奥様にお別れの挨拶をしなくていいんですか?」

 理来が真っ当なことを言うけれど、こういう勝手なタイプにはその理屈は通じないんだよな…。

「別に、奥さんは結婚してから構ってくれないし、大切にしてくれないんだから浮気したって仕方ないでしょ?」

「奥様は共働きで家事もこなしていたんですよね?最後ぐらいは感謝の言葉を述べてから転生された方が心残りは無くなるのでは?」

「なんで俺が感謝しなくちゃいけないの?俺が結婚してやったんだから逆に感謝してもらいたいっつーの」

 この言葉に多分今までのストレスが爆発したのだろう。理来は【魂】を怒鳴りつけた。

「奥さんに全部押し付けてテメーは浮気するなんてサイテーだよ‼死んで奥さんがどんな思いでいるか考えたこともねーんだろ?」

「え…いや…でも」

「でもじゃねー‼結婚して構って欲しかったら自分が奥さんを大切にしろ‼それもしないでフラフラ若い娘と浮気するから死ぬ羽目になったんだろうが⁈」

「…ぅう…はい…」

「さっさと市役所に行って手続きして、来世で奥さんに詫びろ!二度と浮気しようなんて考えるんじゃねえぞ⁈この馬鹿が‼」

 そう言うと、理来は唖然とする【魂】をさっさと捕縛袋に入れ無言で袋を縛った。

「いやー理来って結構怒らせると怖いんだな」

 帰り道で笑いながら言うと、既に理来は不貞腐れるのを隠そうともせず俺に反抗してきた。

「いきなり名前呼びかよ…。ええ、ですから私を怒らせる前に付き合っているのは嘘だって周りにバラした方がいいですよ?」

 そう言って唇を尖らせる彼女に俺はためらうことなくキスしてしまう。

「な、なんでこんなところで⁈しかもドロドロの農作業スタイルの時に…いや、そうじゃなくって止めろって言っているんです!セクハラで訴えますよ⁈」

 パニックになる理来…あー本当に愛おしいと心から思える。

「俺も結婚したら浮気しないで奥さんに尽くす良い旦那になると思うんだよね」

 そう言うと怪訝な顔をされる。うん、そういう反応だと思った。俺も大分彼女を理解してきたみたいだ。

「死んだら絶対に理来の所に帰るから安心しろよ」

「…結婚もしませんし、来なくていいから付き合う宣言を撤回してください‼」

「それは嫌だ」

 つがいだからとか運命の人だからじゃなく、理来だから好きになった。だから彼女が逃げ出すことだけは許せないんだ。
 困ったように笑う理来にもう一度キスしたくなる。こんな感情を初めて知った。
 斎藤さんの奥様もきっと今は泣いているだろうけれど、いつかは心から笑って欲しい…そう心から願う…。
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