七月の夏風に乗る

白野よつは(白詰よつは)

文字の大きさ
1 / 31
■0.夏の風はどこに吹く

しおりを挟む
「それにしても、鬼嶋きじまさん。花岡北はなおかきた高校の応援は、なんというか、すごいですね」
「そうですねぇ。私も高校野球の解説を何十年と務めさせて頂いているんですけど、こんな応援は初めてですね。だって、花岡北はもともと、バンカラ応援の高校じゃあなかったでしたっけ? ……いやあ、それにしても、すごい。これは一見の価値ありですね」
「ええ、まさしくそうなんです。なんでも、この圧巻の大応援団を結成するまでには、学校全体を巻き込んでの大論争が巻き起こったそうで。一時は今年の野球応援は取りやめになるかというところまで揉めに揉めたそうなんですよ。というのもですね――」
 七月某日。
 全国高等学校野球選手権大会――通称、夏の甲子園、岩手県大会の二回戦。
 厳正なる組み合わせ抽選の結果、一回勝てば県営球場での第一試合、という幸運を引き当てた花岡北高校は、テレビ中継なしの森山もりやま球場での一回戦を見事に勝ち抜き、同じく一回戦を八幡平はちまんたい球場での一回戦をテレビ中継なしで突破した対戦校である山田西やまだにし高校とともに、地元のローカルテレビ局で全県中継されていた。
 花巻はなまき球場であれば、県営球場での試合の合間に短いながらも中継が入るが、森山、八幡平は、テロップで進捗状況や結果が映され、アナウンサーが読み上げるだけだ。
 どうせなら県営球場でテレビに映りたい。午前中しか野球中継の番組枠がないので、第一試合か、もしくは、あまり映らないが第二試合でもいい。
 おそらくそれは、甲子園に行きたいという夢の裏にある、もうひとつの密かな野望だ。
 もちろん、テレビに映りたくて野球をするわけではないが、運悪く森山や八幡平球場での試合ばかりの抽選結果になってしまったときは、なんとなくテンションが下がる。
 準決勝、決勝ともなれば、ローカルテレビ局に加えてNHKの中継も入るものの、しかしその頃には、大半の高校の夏が静かに幕を下ろしているのだ。どうせなら、映れるものは映っておきたい。とりわけ、午前中に。それはきっと、応援側も同じだろう。
 試合は、七回裏の花岡北高校の攻撃。スコアは三―二で山田西高校が一点リード。打者ひとり目とあって、まだ若干、実況や解説に余裕のある放送席では、花岡北高校の応援の様子がクローズアップされ、ここぞとばかりにアナウンサーが解説をはじめた。
 それにふんふんと聞き入る解説の鬼嶋。聞き終えると鬼嶋は、
「そんなことがあったんですねぇ。いやあ、そんなエピソードを聞くと、応援がまた違ったものに聞こえてくるようです。だから高校野球って素晴らしいんですよ」
 花岡北高校の応援に聞き入ることにしたのか、静かに閉口した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...