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第一章 5月6月
何だと思ってここに来た?
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「委員長!」委員長フェチが嬉しげな叫び声をあげる。
黒い髪を後ろでまとめた女性が、茶封筒を小脇に抱えて教室に入ってきた。
これがさっきから何度も呼称されていた委員長本人らしい。
きっちりと後ろにまとめた髪といい、モノトーンの落ちついた上下といい、一見教師ふうでもあるし、オフィス勤めにも合いそうだし、どちらにせよ有能な仕事人という雰囲気を醸し出している。
たいして大きな背格好ではなかったが、黒ぶちの眼鏡の奥から光る目には、いかにもイインチョウだという半端ならざる力が垣間見えた。
「今日、月の締めだよね、突っ立っておしゃべりしてるヒマあんの?」
「すんません」
意外にも、すぐ反応したのは茶髪ヤンキーのフジコだった。
フェチのヒトは明らかに嬉しそうに、いそいそと自分の席らしい場所に戻っていった。
ミドリコはあくまでも優雅に、コケシはあまり表情も変えずやはり席につく。
「作業は少し止めて、聞いてくれる? 先に話をすることがあるから」
委員長はひと息にそう言ってから、
「あら」
急に、立ったままの紀美に気づいたらしい。
「あの」
紀美が話し出そうとすると、コケシがまた割って入った。
「この人、一年に転入した如月ルイちゃんのお母さん、紀美さん」
こわい。まだ名前まで言っていないのに。思わず横目でコケシを睨む。委員長も
「エミリさん、そゆことは本人が話すから」
そう釘をさした。
エミリは特に表情も変えず、とん、と席についた。
座る様子も体が固そうで、ほんと、コケシっぽいなあ、と紀美は改めてそのつむじあたりを見やる。
コケシに見えだすと、とことん見える。
つやのあるオカッパに天使の輪が奇麗に巻いているのも、ろくろで描いたようだ。紀美はついそちらが気になって
「……は?」
委員長の言葉を聞き逃した。
え? すみません、なんですか? そう聞き直すと、フェチがごくりとつばを呑んだ。
委員長が、忍耐強そうな笑顔で再度くり返す。
「如月さん、三波さんから今日の活動について、どこまで聞いてたの?」
「あのお、サンマークという、なんか、商品についているマークを集めてそれをお金に替えるんだと」
「まあ、ざっくり言えばそんな感じかな」
「週一回、ここでお仕事だとか。木曜日」
「まあ、基本的には」
ちょっとひっかかる表現だったが、紀美はまあ、細かいことはおいおい学んでいけばいいや、ととりあえず聞き流した。
ミドリコがそこで、口をはさんだ。
「サンマーク活動について、今までご経験がおありかしら?」
「いえ全然。サンマークというのも知りませんでした」紀美は正直に答える。「でも」
紀美はそれでも、せっかくだからやってみよう、と心に決めていた。
マークを切り取り、集めて、集計というのをやってどこかに送る。それだけでお金になるのだったら。
子どもたちのために、自分たちのためになるのだったら。
「やりながら色々覚えていきます。ご迷惑おかけするかと思いますが、ご指導よろしくお願いします」
そう言って、深々と頭を下げた。
心なしか、場が和んだ気がした。
残念なのは、ここに優香が揃っていないことだが、それでも次回からは一緒に作業ができるのだから、また細かいルールは彼女からも聞けばいい。
「分かりました」
委員長がかすかに、目元を緩めて微笑んだ。
「こちらこそ、よろしくね」
委員長フェチが笑って手を差し出した。
「ようこそ、サンマークボランティアクラブに」
思わず彼女の手を握ってから、紀美は硬直する。
「……ボランティア、なんですか?」
「そうよ」
ミドリコが爽やかに答えた。
「サンマークは、ボランティア活動の一環よ」
「え、でも……あの」
急にフェチが手を離した。声がかたい。
「如月さん、何だと思ってここに来たの?」
黒い髪を後ろでまとめた女性が、茶封筒を小脇に抱えて教室に入ってきた。
これがさっきから何度も呼称されていた委員長本人らしい。
きっちりと後ろにまとめた髪といい、モノトーンの落ちついた上下といい、一見教師ふうでもあるし、オフィス勤めにも合いそうだし、どちらにせよ有能な仕事人という雰囲気を醸し出している。
たいして大きな背格好ではなかったが、黒ぶちの眼鏡の奥から光る目には、いかにもイインチョウだという半端ならざる力が垣間見えた。
「今日、月の締めだよね、突っ立っておしゃべりしてるヒマあんの?」
「すんません」
意外にも、すぐ反応したのは茶髪ヤンキーのフジコだった。
フェチのヒトは明らかに嬉しそうに、いそいそと自分の席らしい場所に戻っていった。
ミドリコはあくまでも優雅に、コケシはあまり表情も変えずやはり席につく。
「作業は少し止めて、聞いてくれる? 先に話をすることがあるから」
委員長はひと息にそう言ってから、
「あら」
急に、立ったままの紀美に気づいたらしい。
「あの」
紀美が話し出そうとすると、コケシがまた割って入った。
「この人、一年に転入した如月ルイちゃんのお母さん、紀美さん」
こわい。まだ名前まで言っていないのに。思わず横目でコケシを睨む。委員長も
「エミリさん、そゆことは本人が話すから」
そう釘をさした。
エミリは特に表情も変えず、とん、と席についた。
座る様子も体が固そうで、ほんと、コケシっぽいなあ、と紀美は改めてそのつむじあたりを見やる。
コケシに見えだすと、とことん見える。
つやのあるオカッパに天使の輪が奇麗に巻いているのも、ろくろで描いたようだ。紀美はついそちらが気になって
「……は?」
委員長の言葉を聞き逃した。
え? すみません、なんですか? そう聞き直すと、フェチがごくりとつばを呑んだ。
委員長が、忍耐強そうな笑顔で再度くり返す。
「如月さん、三波さんから今日の活動について、どこまで聞いてたの?」
「あのお、サンマークという、なんか、商品についているマークを集めてそれをお金に替えるんだと」
「まあ、ざっくり言えばそんな感じかな」
「週一回、ここでお仕事だとか。木曜日」
「まあ、基本的には」
ちょっとひっかかる表現だったが、紀美はまあ、細かいことはおいおい学んでいけばいいや、ととりあえず聞き流した。
ミドリコがそこで、口をはさんだ。
「サンマーク活動について、今までご経験がおありかしら?」
「いえ全然。サンマークというのも知りませんでした」紀美は正直に答える。「でも」
紀美はそれでも、せっかくだからやってみよう、と心に決めていた。
マークを切り取り、集めて、集計というのをやってどこかに送る。それだけでお金になるのだったら。
子どもたちのために、自分たちのためになるのだったら。
「やりながら色々覚えていきます。ご迷惑おかけするかと思いますが、ご指導よろしくお願いします」
そう言って、深々と頭を下げた。
心なしか、場が和んだ気がした。
残念なのは、ここに優香が揃っていないことだが、それでも次回からは一緒に作業ができるのだから、また細かいルールは彼女からも聞けばいい。
「分かりました」
委員長がかすかに、目元を緩めて微笑んだ。
「こちらこそ、よろしくね」
委員長フェチが笑って手を差し出した。
「ようこそ、サンマークボランティアクラブに」
思わず彼女の手を握ってから、紀美は硬直する。
「……ボランティア、なんですか?」
「そうよ」
ミドリコが爽やかに答えた。
「サンマークは、ボランティア活動の一環よ」
「え、でも……あの」
急にフェチが手を離した。声がかたい。
「如月さん、何だと思ってここに来たの?」
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