かうんと・ゆあ・まーくす!

柿ノ木コジロー

文字の大きさ
17 / 39
第三章 8月・夏休み

勝敗のゆくえ

しおりを挟む

 委員長は音を立ててペンを机に叩きつけ、紙を置いた。
 ミドリコは静かに紙からペン先を離し、目を閉じてゆっくりと天井を向いた。
 二つの答案が順番に皆の手を回って、最後に、紀美の手元に届く。

 紀美はじっくりと二枚を見くらべてみた。
 意外なことに、委員長の文字は細かく几帳面に見えた。一方、ミドリコの方はは癖が強く、右上がりの乱雑な文字だった。セレブらしいおおまかさと言えばそれまでだが、それにしても見た目に似合わない、よく言えば「凛々しい」文字面ではあった。

 紀美がざっと見たところでは、両者の解答にあまり違いはないようだった。
 強いて言えば、委員長の方はやや空きがあったものの、商品名が事細かに記されているのに対し、ミドリコのものは全体的にまんべんなく答えていたにも関わらず、商品名には疎いようだった。ハテナマークが乱立している。

 おほん、ともっともらしく咳払いをしてから、なぜか進行役となった春日が、おもむろに告げる。
「結果発表の前に、伏せられたマークをすべて、表にしてください」
 いつもならば「ムダムダ、時間の無駄だろー、こんなん」と叫んでブチ切れるのに、こんな時にばかり協力的なフジコが、うやうやしい手つきですべてのマークを表に返す。
 委員長もミドリコも、どちらかと言えばあまり興味がないふうに机上を眺めてはいたが、目つきだけは鋭かった。
 紀美が委員長の回答を、エミリがミドリコのものを採点することになった。 
「まず一番、09エスエム食品の1.5」 
 どちらも、合っていた。
 しかも委員長の方には『ゴールドカレー』と小さく記されている。
「二番、末永チョコ、1点」
 そこから妙な静寂の中、次々と、春日の読み上げが続く。
 紀美は束の間、勝負のことも忘れてただ春日の読み上げる内容と目の前の記入とを比べていく。

 結果。委員長が三十問中二十六問完璧な正答。
 あと三問、白紙回答だったものは、すでに亡き(協賛から撤退していた)ティッシュの空き箱から取られたマーク片がふたつ、それと意外にも83の半円形のコンソメ紙片だった。あとひとつは点数が間違っていた。
 ミドリコの方では、『?』がついているものが、商品名の間違いが多いようだった。メーカーは全部合っていたものの、商品に無頓着で、『エスエム食品』に『靴下』と記入したりしている。

 結果は、委員長が九十三.五点、ミドリコは商品間違いが多かったものの、九十五点。
 ミドリコの勝ち、となった。
 明らかに悔しそうではあったが、委員長は笑みをたたえてゆっくりと拍手をして、ミドリコの勝利を祝した。
「さすが、私が見込んだだけの人」
 ミドリコも、まんざらではなかったらしい。
 ハンカチで押さえた口元は明らかに緩んでいる。
「セレブらしく、普段買ってない品物には全然興味ないってところもまた、ミドリコさんらしいし」

 春日の言葉通り、確かに、ミドリコは
『マークつきのお品物……あまり買わないものばかりだから』
 と、自分ではほとんどサンマークを出したことがない。

「それにしても、残念ですー」
 伊藤が頬を染めて、委員長に詰め寄った。
「委員長、どうして83のアレ、書かなかったんですか? ぜったい、ぜーったい判ってたハズなのに! それにティッシュのだって以前あんなに一生けんめい集めてたのに」
 ふっ、と遠い目をして、委員長が言った。
「コンソメはね、後回しにしておこうと、つい忘れちゃったんだ。もちろん判ってたんだけどね」
 そして、すでに撤退したマークについては
「余計な記憶はすぐに消すから、もう忘れていたなあ」
 そう、爽やかに笑う。
 自分の利益にならない事実は記憶からすっかり消している、そこも何だか委員長らしかった。

 どちらにせよ、垂れこめていた暗雲はすっかり影を潜めたようだ。辺りには、それなりに平穏な空気が戻ってきていた。
 あーあ、とフジコが大きく伸びをする。
「まったく……あんまりにもクダンネーことで、もうお昼になっちまったし」
「そうだね、そろそろ片付けしないと」
 ミドリコは勝利の余韻にまだ浸っていたのか、委員長のひと声にはっとしたように視線を目の前に据え直した。
「わたくし、すっかり逸脱しておりましたわ。このクルクル、どうしましょう」
 彼女の目の前には、裏が銀色に処理されたビニルの紙片が大量に遺されていた。
 ビニル紙片にありがちだったが、いちいち細かく丸まったものが大半だった。
 しかもご丁寧に、すべて裏向きに、銀色の面を外にして丸まっている。
「これは、番号を調べるのが大変でしょうね……」
 だから次回にまとめて、そう紀美が言おうとしたとたん、嬉しそうな声が響いた。
「クルクルについては、また判定方法があるんだよ」
 委員長の声音は、どこか高揚している。
「まあ、全部拡げなくても判るんだけどね」
「あら」
 ミドリコの目の中に、新しい戦闘の灯がともった。
「奇遇ですね、わたくしもですの」

 マタカヨ~~~っっっ!!

 紀美の魂はすでに会議室から飛び出し、校庭の端の一本松まで走り去っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...