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第三章 8月・夏休み
勝敗のゆくえ
しおりを挟む委員長は音を立ててペンを机に叩きつけ、紙を置いた。
ミドリコは静かに紙からペン先を離し、目を閉じてゆっくりと天井を向いた。
二つの答案が順番に皆の手を回って、最後に、紀美の手元に届く。
紀美はじっくりと二枚を見くらべてみた。
意外なことに、委員長の文字は細かく几帳面に見えた。一方、ミドリコの方はは癖が強く、右上がりの乱雑な文字だった。セレブらしいおおまかさと言えばそれまでだが、それにしても見た目に似合わない、よく言えば「凛々しい」文字面ではあった。
紀美がざっと見たところでは、両者の解答にあまり違いはないようだった。
強いて言えば、委員長の方はやや空きがあったものの、商品名が事細かに記されているのに対し、ミドリコのものは全体的にまんべんなく答えていたにも関わらず、商品名には疎いようだった。ハテナマークが乱立している。
おほん、ともっともらしく咳払いをしてから、なぜか進行役となった春日が、おもむろに告げる。
「結果発表の前に、伏せられたマークをすべて、表にしてください」
いつもならば「ムダムダ、時間の無駄だろー、こんなん」と叫んでブチ切れるのに、こんな時にばかり協力的なフジコが、うやうやしい手つきですべてのマークを表に返す。
委員長もミドリコも、どちらかと言えばあまり興味がないふうに机上を眺めてはいたが、目つきだけは鋭かった。
紀美が委員長の回答を、エミリがミドリコのものを採点することになった。
「まず一番、09エスエム食品の1.5」
どちらも、合っていた。
しかも委員長の方には『ゴールドカレー』と小さく記されている。
「二番、末永チョコ、1点」
そこから妙な静寂の中、次々と、春日の読み上げが続く。
紀美は束の間、勝負のことも忘れてただ春日の読み上げる内容と目の前の記入とを比べていく。
結果。委員長が三十問中二十六問完璧な正答。
あと三問、白紙回答だったものは、すでに亡き(協賛から撤退していた)ティッシュの空き箱から取られたマーク片がふたつ、それと意外にも83の半円形のコンソメ紙片だった。あとひとつは点数が間違っていた。
ミドリコの方では、『?』がついているものが、商品名の間違いが多いようだった。メーカーは全部合っていたものの、商品に無頓着で、『エスエム食品』に『靴下』と記入したりしている。
結果は、委員長が九十三.五点、ミドリコは商品間違いが多かったものの、九十五点。
ミドリコの勝ち、となった。
明らかに悔しそうではあったが、委員長は笑みをたたえてゆっくりと拍手をして、ミドリコの勝利を祝した。
「さすが、私が見込んだだけの人」
ミドリコも、まんざらではなかったらしい。
ハンカチで押さえた口元は明らかに緩んでいる。
「セレブらしく、普段買ってない品物には全然興味ないってところもまた、ミドリコさんらしいし」
春日の言葉通り、確かに、ミドリコは
『マークつきのお品物……あまり買わないものばかりだから』
と、自分ではほとんどサンマークを出したことがない。
「それにしても、残念ですー」
伊藤が頬を染めて、委員長に詰め寄った。
「委員長、どうして83のアレ、書かなかったんですか? ぜったい、ぜーったい判ってたハズなのに! それにティッシュのだって以前あんなに一生けんめい集めてたのに」
ふっ、と遠い目をして、委員長が言った。
「コンソメはね、後回しにしておこうと、つい忘れちゃったんだ。もちろん判ってたんだけどね」
そして、すでに撤退したマークについては
「余計な記憶はすぐに消すから、もう忘れていたなあ」
そう、爽やかに笑う。
自分の利益にならない事実は記憶からすっかり消している、そこも何だか委員長らしかった。
どちらにせよ、垂れこめていた暗雲はすっかり影を潜めたようだ。辺りには、それなりに平穏な空気が戻ってきていた。
あーあ、とフジコが大きく伸びをする。
「まったく……あんまりにもクダンネーことで、もうお昼になっちまったし」
「そうだね、そろそろ片付けしないと」
ミドリコは勝利の余韻にまだ浸っていたのか、委員長のひと声にはっとしたように視線を目の前に据え直した。
「わたくし、すっかり逸脱しておりましたわ。このクルクル、どうしましょう」
彼女の目の前には、裏が銀色に処理されたビニルの紙片が大量に遺されていた。
ビニル紙片にありがちだったが、いちいち細かく丸まったものが大半だった。
しかもご丁寧に、すべて裏向きに、銀色の面を外にして丸まっている。
「これは、番号を調べるのが大変でしょうね……」
だから次回にまとめて、そう紀美が言おうとしたとたん、嬉しそうな声が響いた。
「クルクルについては、また判定方法があるんだよ」
委員長の声音は、どこか高揚している。
「まあ、全部拡げなくても判るんだけどね」
「あら」
ミドリコの目の中に、新しい戦闘の灯がともった。
「奇遇ですね、わたくしもですの」
マタカヨ~~~っっっ!!
紀美の魂はすでに会議室から飛び出し、校庭の端の一本松まで走り去っていた。
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