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第七章 12月
お金では換算できないものを
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年末までに、更に大きな追加が発生した。
ミドリコが『対決』した相手から、仕分け前のサンマークが更に二万枚近く出て来たのだった。
ミドリコが対峙したその男は、悪びれもなく
「はい、仰る通りですが」
と罪を認めた。しかし、
「教頭からの指示でしたし、ね。仕分け前のものなら、面倒な仕事をする前なのであまり害はないだろう、それにもうこんな無駄な仕事は止めたほうがいい、と。僕もそう思いますし。だって」
ミドリコと紀美の顔を見比べ、彼はこう言い放ったのだった。
「金にならない仕事なんて、今どき流行らないでしょ?」
そこで答えたミドリコのことばを、紀美はたぶん、一生忘れないだろう。
「お金で換算できないものも、私たちはずっと数え上げているんですの」
ミドリコは更にこう言って、手を出した。
「仕分け前のサンマーク、まだお持ちでしょう? もし捨てていらっしゃらなかったのならば、返していただけますか、今すぐに」
盗られたサンマークが無事に返された後も、紀美にはまだ事情がよく分らないままだった。
更に、ミドリコは紀美にこう告げた。
「事の真相についてとりあえず、メンバーには伝えないことにします。紀美さんも、内緒にしていただけるかしら」
いまだ衝撃の事実から冷めやらぬ紀美は、
「だって……」
ミドリコにくってかかる。
「このままじゃ、メンバーのみんなに誤解されたままですよ、あの人がまさか……それに」
仕分け済みのものが出てきた経緯についても、紀美はここぞとばかりにミドリコに疑念をぶつける。
「仕分け済みのを持って行ったの、誰だか分かったんですか」
「ええ」ミドリコはわずかに目元を緩めた。
「そちらは、委員長から詳しくお聞きしました。ちょっとした勘違いとか、あったみたいですわ」
「……ミドリコさん、他にも何かお聞きになったんですね」
ミドリコはゆるりと微笑んだだけだった。
もちろん作業室は大騒ぎとなった。
「どこから出てきたんですかっ?」
「誰が?」
「これもしかして今から集計??」
ミドリコはメンバーから矢継ぎ早に浴びせられる質問をすべて受け流して
「はい」ぱん、と手を叩く。
「すべての決着がついた時に、皆さんには必ず、お話します。今は作業優先!」
追加の一万七千枚は、十二月末に発送された。
追加分がもしも年度末までに有効と認められれば、残高は一挙に一万点もオーバーする。
こちらの勝ちだ。
「間に合いますように」
メンバー一同、小さな包みに手を合わせた。
冬休みに入って、嬉しい知らせも届いた。
メンバー全員にあてた、委員長からの直メールだった。
『十二月の発送、ほんとうにお疲れさまでした。私は相変わらず細かく入退院を繰り返していましたが、状態が安定したので、しばらくは家で過ごせます。
一月そうそう、新年会をやりませんか? もち、酒宴ということで』
「ママ、久々の飲み会じゃね?」
泰介がテレビの前から身を起こして言った。
「で、参加するの」
「もちろん!」
メールを見た瞬間、紀美はやったー! と叫んでリビング中を飛び跳ねて回り、泰介とルイに呆れられたのだった。
「まあ、外に出るのはいいんでない?」
呆れながらも、泰介が笑う。
「何日か分かれば、送り迎えくらいするからさ」
そう言う泰介、ようやくサンマークに興味を持つようになっていた。
仕事の合間にコンビニに寄ることが多い彼が、
「ファミレドのおむすびにマークついてるから、オレは近頃、おむすび派に転向したよ」
と、四角く切りそろえたおむすびのサンマークを、紀美に渡すようになっていた。
そして、クリスマスイブ、クラッカーと手作りケーキでお祝いした後に、泰介は
「これ、オレからプレゼント」
メリー・クリスマス、そう言って、ぶ厚い紙の束を紀美に差し出した。
「何なの?」
パラパラめくってみて
「何か仕事の関係?」
そう訊いてから、急になじみの語句をみつけ、二度見する。
そして、三度見。
「末端から、そんな意見を上げても、面白いかなーって思ってさ。POSとか端末とか使ってさ」
照れて鼻を掻く泰介に、紀美はうるんだ目を上げる。
「たいちゃん……」
急に抱きつかれ、泰介がよろめいた。「な、何」
「すごいよ、これ、すごい!」
まあ、こんな提案は大本の機関からすれば歯牙にもかからないのかも知れないが、それでもいつの日かこういう時代もくるのかも、と思えるだけでも紀美には何だか胸が高鳴った。
新年会に持って行こう、委員長と副委員長によいお土産となりそうだ。
単なる夢物語かもしれない、しかし、大きな夢にあふれた『サンマーク・システム計画案』がそこにあった。
ミドリコが『対決』した相手から、仕分け前のサンマークが更に二万枚近く出て来たのだった。
ミドリコが対峙したその男は、悪びれもなく
「はい、仰る通りですが」
と罪を認めた。しかし、
「教頭からの指示でしたし、ね。仕分け前のものなら、面倒な仕事をする前なのであまり害はないだろう、それにもうこんな無駄な仕事は止めたほうがいい、と。僕もそう思いますし。だって」
ミドリコと紀美の顔を見比べ、彼はこう言い放ったのだった。
「金にならない仕事なんて、今どき流行らないでしょ?」
そこで答えたミドリコのことばを、紀美はたぶん、一生忘れないだろう。
「お金で換算できないものも、私たちはずっと数え上げているんですの」
ミドリコは更にこう言って、手を出した。
「仕分け前のサンマーク、まだお持ちでしょう? もし捨てていらっしゃらなかったのならば、返していただけますか、今すぐに」
盗られたサンマークが無事に返された後も、紀美にはまだ事情がよく分らないままだった。
更に、ミドリコは紀美にこう告げた。
「事の真相についてとりあえず、メンバーには伝えないことにします。紀美さんも、内緒にしていただけるかしら」
いまだ衝撃の事実から冷めやらぬ紀美は、
「だって……」
ミドリコにくってかかる。
「このままじゃ、メンバーのみんなに誤解されたままですよ、あの人がまさか……それに」
仕分け済みのものが出てきた経緯についても、紀美はここぞとばかりにミドリコに疑念をぶつける。
「仕分け済みのを持って行ったの、誰だか分かったんですか」
「ええ」ミドリコはわずかに目元を緩めた。
「そちらは、委員長から詳しくお聞きしました。ちょっとした勘違いとか、あったみたいですわ」
「……ミドリコさん、他にも何かお聞きになったんですね」
ミドリコはゆるりと微笑んだだけだった。
もちろん作業室は大騒ぎとなった。
「どこから出てきたんですかっ?」
「誰が?」
「これもしかして今から集計??」
ミドリコはメンバーから矢継ぎ早に浴びせられる質問をすべて受け流して
「はい」ぱん、と手を叩く。
「すべての決着がついた時に、皆さんには必ず、お話します。今は作業優先!」
追加の一万七千枚は、十二月末に発送された。
追加分がもしも年度末までに有効と認められれば、残高は一挙に一万点もオーバーする。
こちらの勝ちだ。
「間に合いますように」
メンバー一同、小さな包みに手を合わせた。
冬休みに入って、嬉しい知らせも届いた。
メンバー全員にあてた、委員長からの直メールだった。
『十二月の発送、ほんとうにお疲れさまでした。私は相変わらず細かく入退院を繰り返していましたが、状態が安定したので、しばらくは家で過ごせます。
一月そうそう、新年会をやりませんか? もち、酒宴ということで』
「ママ、久々の飲み会じゃね?」
泰介がテレビの前から身を起こして言った。
「で、参加するの」
「もちろん!」
メールを見た瞬間、紀美はやったー! と叫んでリビング中を飛び跳ねて回り、泰介とルイに呆れられたのだった。
「まあ、外に出るのはいいんでない?」
呆れながらも、泰介が笑う。
「何日か分かれば、送り迎えくらいするからさ」
そう言う泰介、ようやくサンマークに興味を持つようになっていた。
仕事の合間にコンビニに寄ることが多い彼が、
「ファミレドのおむすびにマークついてるから、オレは近頃、おむすび派に転向したよ」
と、四角く切りそろえたおむすびのサンマークを、紀美に渡すようになっていた。
そして、クリスマスイブ、クラッカーと手作りケーキでお祝いした後に、泰介は
「これ、オレからプレゼント」
メリー・クリスマス、そう言って、ぶ厚い紙の束を紀美に差し出した。
「何なの?」
パラパラめくってみて
「何か仕事の関係?」
そう訊いてから、急になじみの語句をみつけ、二度見する。
そして、三度見。
「末端から、そんな意見を上げても、面白いかなーって思ってさ。POSとか端末とか使ってさ」
照れて鼻を掻く泰介に、紀美はうるんだ目を上げる。
「たいちゃん……」
急に抱きつかれ、泰介がよろめいた。「な、何」
「すごいよ、これ、すごい!」
まあ、こんな提案は大本の機関からすれば歯牙にもかからないのかも知れないが、それでもいつの日かこういう時代もくるのかも、と思えるだけでも紀美には何だか胸が高鳴った。
新年会に持って行こう、委員長と副委員長によいお土産となりそうだ。
単なる夢物語かもしれない、しかし、大きな夢にあふれた『サンマーク・システム計画案』がそこにあった。
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