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第八章 1月

新年会は盛大に

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 いきなり、新年会は四日と決まる。
 帰省をどうしようか迷っていた紀美は、きれいさっぱり、実家のことは忘れた。
「送れなくなってごめん」
 泰介の実家にだけ、泰介とルイとで帰ることになった。
「帰りはタクシー使ってよね、うんと楽しんでおいでよ」
 そう言い残し、十二月三十日にルイを連れて出て行く。
 ルイも大人びた表情で、車の窓から手を振った。
「まあせいぜい、楽しんでね。それから、のみすぎないようにね」

 末広寿し二階の『あやめの間』ではすでに、一大イベント会場と化していた。
 遅れて入ってきた委員長に、皆は交互に抱きつき、そこから乾杯となった。
 じゃっかん痩せたようにも見えた委員長は
「ノンアルでお願いしまーす」
 と頼んでいたにも関わらず、なぜか一番酔っているように見えた。
「よーし、じゃ、次ミドリコさん、得意のアレね」
「えー、嫌ですわ。昨年限りで封印しましたのアレは」
「え?」
 委員長、目が座っている。
「委員長の命令が、聞けないっての? もしや」
 しぶしぶ立ち上がったミドリコ、しかし曲が始まるやいなや
「はぁーーーーー♪」
 紀美が仰天するような野太い声で、歌い出す。

「台紙も無エ、テープも無エ、
 点数それほど溜まって無ェ
 集まらねェ、人手も無ェ
 教頭毎週グーチグチ」

 替え唄らしいが、見事に澱みなく歌っている。なかなか上手い。
 毎年のことなのだろうか、皆も
「出た!」
 と笑いさざめきながら、手拍子を送っている。

「♪点数サ貯めで~~学校(ガッコ)で何か買うだ~~~~」

 初めて聴いた紀美も腹を抱え、盛大に拍手する。
「はいよろしい」委員長は笑いながら、手元に持っているように構える架空のファイルに、
「ミドリコさん、合格、と」
 そう書くフリをして、「次~、誰かな~」ページをめくってみせた。

 意外にも、はいっ、と元気に手を上げたのが春日とエミリ。
 ふたりして、懐かしのアニメソングメドレーを熱唱する。こちらも毎年恒例のようだった。
 情感こめて歌い上げる春日に対し、エミリは相変わらず、表情がなく棒読み状態だった。
 しかし妙に、息が合っている。

 大喝采の後に続いたのはフジコ、こちらは
「新しく、仕込んだよ~」
 と、最近流行りのドラマ主題歌だった。
 もちろん、切れっキレのダンス付き。これには思わず皆立ち上がって、
「ひゃっほぉ」
 一緒に、踊り出す。紀美もうろ覚えだったにも関わらず、つい、身体が動いていた。

 えー、みなさんの後に何か、ムリですよ~ そう言いながらも出てきた伊藤は、あざとく女子アイドルグループのヒット曲を熱唱。
 もう少し若ければ、きっとアイドルとしてかなり売れっこになっていただろう、という可愛らしさがやっぱりあざとく、紀美はこれも皆と同じく、腹を抱えて笑い転げる。

 紀美の番になった。
 困った、と紀美は宙を見まわす。
 カラオケじたい、何年ぶりになるのだろうか。確か最後に行ったのは、ルイが生まれる前だったし。
「紀美さん、得意なジャンルは?」
 委員長に訊かれても、「ええと……」答えに窮するばかりだ。
 もともと歌はあまり、得意ではない。それに好きな曲はたいがい、キーが合わなかった。
 そう告げると、委員長、少し考えてから
「じゃ、デュエットにつきあって! 声でなくてもダイジョーブ!」」
 無理やり引っ張る力が、思いのほか強い。

 かなり昔の懐メロを、ふたりして歌う。
 びっくりするほど、息ぴったりだった。

 それからも余興は途絶えることなく続き、予定されていた三時間はあっと言う間に過ぎてしまった。
「二次会、行くよね~」
 フジコに引っ張られ、紀美は独り身の気楽さで、はい! と傍らにつく。
 委員長がにこやかに言った。
「さすがにきっついわー。二次会はカンベンねー」

 去り際に、委員長は冬の夜空を仰ぐ。
 片田舎の繁華街、それなりに星が輝いていた。
「ああ、楽しかったー」
 じゃあね、と他のメンバーに見送られ帰っていく委員長に、伊藤はなぜか、しみじみと涙していた。
「だから」フジコの声も湿っている。
「あの人は、ぜったい、ぜーったい、大丈夫だって!」
「ですよねー」しゃくり上げつつも、ようやく伊藤はそう答えた。
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