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第十章 3月
少年の告白
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「じゃあ……」
紀美はつい、尋ねていた。
「サンマーク持ち出したの、先生だったんですか?」
ああ、と東海林はからっと笑った。
「姉が倒れた翌日、急に頼まれまして……そしたら『こっちじゃない!』って後から怒られて。まだ混ぜこぜになってる方って言っただろ? あん? ってブチ切れられまして……」
何と言っても、あんな細っかいモン、よく分んなくて……そう照れる東海林、ふと真顔に戻って
「おい大輝、」
脇でもじもじしていた少年を軽くこづく。
「お前、話があるんだろ? サンマークの人に」
うん、とうつむいたままだった少年は、おもむろに顔をあげた。
母が体調を崩したのはアンタたちのせいだ、とでも言われるかと身がまえた紀美たちは、さらに意外な言葉に、みな思わず動きを止めた。
「謝りたくて……洋二郎くんと、洋二郎くんのママに」
フジコは「え、ウチ?」そう言ったきり、あとはずっと黙って、少年の話を聴いていた。
スーパーふじよしに、最初にサンマークを見に行ったのは、実は大輝だった。
その何週間前に、噂を聞いていたからだ。
「鴨池に溜まったサンマークを、私立の生徒が勝手に自分たちの方に移し換えているらしい」と。
噂が本当なのか、気になって仕方なかった大輝は、しばらく張り込むことにした。
だが、誰も箱の中身を移し替えている様子がない。
どちらの箱にも均等に、マークは入っているようだ。
急に、腹が立った。
母親が体調をくずしたのは、そもそもこのマークのせいなのだ。
こんなもの、無くなればどんなにせいせいするだろう。自分だって気を揉まずに済む。
近くに人がいなくなった時に、大輝は回収箱に近づき、さりげなく動いた。
まずは鴨池小の箱をひっくり返し、中身を取り出す。
それから、それらをすべて、私立の箱に移す。
いきなり、腕を掴まれ、心臓がどくんとのど元までせり上がった。
見ると、自分より小さな少年が睨み上げている。見た顔だった。
確か、四年でも問題児と言われる、しかも母親が同じサンマークボランティアをやっている、松江洋二郎という子だ。
彼はざらつく声で言った。「だれだよオマエ。私立のヤツか? ズルすんな」
大輝はその声に突き飛ばされるように、その場を走って逃げた。
そしてその後すぐ、自分に声をかけた少年が、店員に捕まったのだと知った。
「洋二郎くん、たぶん、ボクが私立の箱に移した分を取り返そうとして、私立の箱をひっくり返したんだと思います。だから、もとはと言えばボクのせいだと」
ごめんなさい、と黒い真新しいジャケットに身を包んだ少年は、涙声で頭を下げる。
ごめんなさいとくり返す少年に、フジコは近づいた。
頭を下げた少年の肩に軽く触れ、そっとひざまづいた。
そして、静かな声で言った。
「だいじょうぶって。ウチは、洋二郎のこと、ずっと信じていたし。アイツもけろっとしてるし」
目を赤くした大輝が顔を上げると、その頬をハンカチでぬぐってやって、また言った。
「アンタだって、母さんが心配でやったことだろう?
バカやっちまうことは、誰だってあるさ。でも、それは悪いことじゃあない。
たとえ悪かったとしても、後からふり返ってちゃんと直そうとする。それは並みのオトナだってむずかしいんだ。
今までずっと苦しかったんだろ? アンタはよくやったよ。
だから、もう頭下げるのはやめな」
フジコは立ち上がり、大輝にまっすぐ右手を差し出した。
「卒業おめでと、大輝くん」
順ぐりに握手しながら、紀美はまたつい、尋ねてしまった。
「お母さんにも、話したの」
大輝の動きが止まる。
「あー」察したメンバー、つい、同情の眼を向ける。「今夜は、嵐ですねえ」
「ああ……オレが盾になるんで」
脇の東海林は、更に頭を掻いていた。髪はすでに、音楽室のベートーベン並みに乱れに乱れていた。
紀美はつい、尋ねていた。
「サンマーク持ち出したの、先生だったんですか?」
ああ、と東海林はからっと笑った。
「姉が倒れた翌日、急に頼まれまして……そしたら『こっちじゃない!』って後から怒られて。まだ混ぜこぜになってる方って言っただろ? あん? ってブチ切れられまして……」
何と言っても、あんな細っかいモン、よく分んなくて……そう照れる東海林、ふと真顔に戻って
「おい大輝、」
脇でもじもじしていた少年を軽くこづく。
「お前、話があるんだろ? サンマークの人に」
うん、とうつむいたままだった少年は、おもむろに顔をあげた。
母が体調を崩したのはアンタたちのせいだ、とでも言われるかと身がまえた紀美たちは、さらに意外な言葉に、みな思わず動きを止めた。
「謝りたくて……洋二郎くんと、洋二郎くんのママに」
フジコは「え、ウチ?」そう言ったきり、あとはずっと黙って、少年の話を聴いていた。
スーパーふじよしに、最初にサンマークを見に行ったのは、実は大輝だった。
その何週間前に、噂を聞いていたからだ。
「鴨池に溜まったサンマークを、私立の生徒が勝手に自分たちの方に移し換えているらしい」と。
噂が本当なのか、気になって仕方なかった大輝は、しばらく張り込むことにした。
だが、誰も箱の中身を移し替えている様子がない。
どちらの箱にも均等に、マークは入っているようだ。
急に、腹が立った。
母親が体調をくずしたのは、そもそもこのマークのせいなのだ。
こんなもの、無くなればどんなにせいせいするだろう。自分だって気を揉まずに済む。
近くに人がいなくなった時に、大輝は回収箱に近づき、さりげなく動いた。
まずは鴨池小の箱をひっくり返し、中身を取り出す。
それから、それらをすべて、私立の箱に移す。
いきなり、腕を掴まれ、心臓がどくんとのど元までせり上がった。
見ると、自分より小さな少年が睨み上げている。見た顔だった。
確か、四年でも問題児と言われる、しかも母親が同じサンマークボランティアをやっている、松江洋二郎という子だ。
彼はざらつく声で言った。「だれだよオマエ。私立のヤツか? ズルすんな」
大輝はその声に突き飛ばされるように、その場を走って逃げた。
そしてその後すぐ、自分に声をかけた少年が、店員に捕まったのだと知った。
「洋二郎くん、たぶん、ボクが私立の箱に移した分を取り返そうとして、私立の箱をひっくり返したんだと思います。だから、もとはと言えばボクのせいだと」
ごめんなさい、と黒い真新しいジャケットに身を包んだ少年は、涙声で頭を下げる。
ごめんなさいとくり返す少年に、フジコは近づいた。
頭を下げた少年の肩に軽く触れ、そっとひざまづいた。
そして、静かな声で言った。
「だいじょうぶって。ウチは、洋二郎のこと、ずっと信じていたし。アイツもけろっとしてるし」
目を赤くした大輝が顔を上げると、その頬をハンカチでぬぐってやって、また言った。
「アンタだって、母さんが心配でやったことだろう?
バカやっちまうことは、誰だってあるさ。でも、それは悪いことじゃあない。
たとえ悪かったとしても、後からふり返ってちゃんと直そうとする。それは並みのオトナだってむずかしいんだ。
今までずっと苦しかったんだろ? アンタはよくやったよ。
だから、もう頭下げるのはやめな」
フジコは立ち上がり、大輝にまっすぐ右手を差し出した。
「卒業おめでと、大輝くん」
順ぐりに握手しながら、紀美はまたつい、尋ねてしまった。
「お母さんにも、話したの」
大輝の動きが止まる。
「あー」察したメンバー、つい、同情の眼を向ける。「今夜は、嵐ですねえ」
「ああ……オレが盾になるんで」
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