かうんと・ゆあ・まーくす!

柿ノ木コジロー

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終章 12年後のある日

大きな松の木の下で

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 ルイは、さっそく優香について、回収されたサンマークのデータ転送と取りまとめの仕方を教えてもらっている。
 三台あるノートPCはすべて、サンマーク貯金で揃えたものだった。
「あれ、コースケ!」
 紀美が呼びかけたのは副委員長の吉岡康介。
「水曜だけしか来れないって言ってたのに、どしたの」
「台帳につけ忘れた分があって、仕方なくっスよ」
 言いながらも、愛する者を抱くように管理台帳を抱えている。
「そう言えば委員長、水曜に教頭から備品購入希望リストが届いてましたよ」
 副委員長の吉岡が、ファイルをめくりながら紀美に目を上げた。
「ったく、若い教頭だとは思ってたけど、面白そうだからペダルバイク買ってくれって、しかも何台も……いったい幾らすると思ってんだろ。あのギョロ目」
「まあまあ……」
 紀美は苦笑をもらす。確かに、ボサボサ頭はマシになっていたが、東海林のギョロ目は教頭になっても変わっていなかった。

 サンマークの活動は、現在メンバー数一八名。
 大雑把に二手に分かれ、週二回、水曜と金曜とで活動を行うようになっていた。
 委員は、週のどちらでも、出たい時に一時間か二時間程度、作業をやっていくのが普通だった。
 作業室が正式に、『サンマーク作業室』に昇格したからだった。
 ふいに、着信音が鳴った。
 お試しに来たいと言っていた、二年の父兄だろうか、と画面も確認せず、
「はい」
 電話に出た紀美に、
「あのぉ」
 声が遠い。女声だとは判ったが、ぼそぼそと単調な響きは雑音が混じって、聞き取りにくい。
「サンマークやってる、きさらぎさんですよね」
「はあ」目を離して番号を確認する。うっかり未登録の番号に出てしまったようだ。
 公民館の職員の人とかだろうか?
「あのぉきさらぎさん、今、どちらにおられます」
 どちらにおられます? だって?
 眉をしかめてから、ふと思い至る。イントネーションがどこか、北国っぽい。
「もしかして今、学校におられます?」
 紀美は真面目に答える。
「はあ、学校のサンマーク室におりますが」
 がさごそと耳触りな音の向こうで、かすかに誰かの
「サンマーク室? へっ!」
 そう笑い捨てるのが聞こえて、急に音声がはっきりした。
「ちょっと委員長さんよぉ」
 与太者じみた、オバサンの声だ。
「ずいぶんハデにやってるようじゃねえか。気取ってねえで、ちょいと顔貸しな」
「はあ、どちらに」
 紀美はすでに笑っている。
「校庭の松の木の下に来いや、すぐにぃ」
 紀美が窓からのぞくと、そこには五人の姿があった。
「気がついた!」誰かがそう叫び、皆一斉に手を振ってよこす。
 紀美は「ちょっと行って来る!」そう叫んで教室を飛び出して行った。

 来春に、美波子たちの学年が卒業時に埋めたタイムカプセルを掘り出すことになっていて、役員でしたので、確認のために学校に伺っておりまして……
 と、相変わらずおっとりした口調のミドリコは、さすがセレブらしく、風格あるマダムとなっていた。
「サンマーク、活動日が変わったとは聞いていたのですが、窓が開いてるの見て、もしかして、って」
「窓、相変わらず全開、まだ暑いのにつらいわー」
 眼鏡を止めてコンタクトにしたらしく、すっかり落ちついた感じに見えた春日は、しかし喋り出したら相変わらずだった。紀美は笑って
「今日、たまたまなんですよ~」
 それにしても、と春日をにらむ。
「さっきのアヤシイ電話、何ですか!」
「あーあれ、ウチが電話替えたばっかりでさ、バレねえだろと思って」
 カラカラと笑うフジコも、脇で相変わらず無表情ながらも、頬を染めて再会の嬉しさに浸っているらしきエミリも、ほとんど変わりがない。
「ショージも相変わらず、髪ボサボサかぁ?」
「教頭の重責で、抜けてきているかもね。校長と主事の間で板挟みらしいし」
 エミリの容赦のないコメント。小学校から離れても、噂だけはマメに仕入れているようだ。
 相変わらず、この年になってもピンクの似合う伊藤もニコニコしていたが
「ごめん紀美ちゃん、アタシ、伊藤じゃなくて小宮になったんだ、これからは『ともちゃん』、て呼んで」
 急にそう言った。まあ、人生色々なんだな、と紀美が
「そう言えば、イ、いえともちゃん。成島委員長は……?」
 そう尋ねたとたん、伊藤もとい小宮は急に、はっとなって校舎の方を見た。

 たまに、メンバーのうち一人二人は見かけることがあっても、全員揃ったのは十二年前の離任式以来だった。
 しかも、成島一家は、洋乃の病気のこともあって、大輝が中学二年になる前に揃って大病院のある近郊に引っ越していた。
 会いたい会いたい、そう願いながらもついに一度も会えることなく、その後のことを東海林に尋ねたくとも、役職付きはなかなかに忙しいようで、洋乃について、ゆっくり訊きただす暇もなかった。

「委員長……どうして」
 元・伊藤のともちゃんが悲しげにつぶやく。
 もしかして……と、みなの神妙な表情を紀美は順番に見渡してから、ミドリコが指し示す校舎の方を見た。
 昇降口から出てきた誰かが小走りにやって来る、良く見ると
「なんだ、ルイ……」
 紀美は手を振りかけて止まり、その後ろから来る人を認め、目をこらし、さらに目を見開いた。
 ともちゃんが頬を膨らませる。
「どうして、先に作業室覗きに行っちゃったんだろ、ひとりで」
「ちょっと紀美さん、どうして娘を忘れていくのぉ!」
 ルイに追いついて大声で叫ぶその人は、相変わらずの目ヂカラだ。
「忘れたわけじゃ、ありませんよ! 委員長ってば!」紀美は叫び返す。
 残暑の焼けついた空気の中、グラウンドをいっしゅん、すずやかな風が通り抜けていった。



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感想 2

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みんなの感想(2件)

虹乃ノラン
2024.05.01 虹乃ノラン

浮かぶ絵がとってもシュールでたのしいです。

2024.05.01 柿ノ木コジロー

ノランさん、ありがとうございます!シュール(笑)!

解除
2024.04.25 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2024.04.25 柿ノ木コジロー

谷さん、ありがとうございます!

解除

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