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計画は入念に……のはずが

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 そよ風と小鳥のさえずり、遠くから流れる音楽、時折大きくなる人々の歓声、目の前のレールを赤いジェットコースターが駆け抜けていく。

 最初はまあまあ予定通りだったのに、途中からさんざんだった。
 そしてきわめつけ、昼に買ったホットドック、通りかかった着ぐるみのウサギキャラにぶつかって落としてしまったのだ。
 ケチャップの染みが派手にシャツに飛んだが、ウサギは慌てていたらしく小刻みに数回頭を下げてから、あっという間に姿を消した。
「スタッフに抗議した方がいいよ」
 香織はそう怒っていたが、和人はやんわりと
「洗えば取れるよ」
 そう笑って、上着を脱いでトイレの手洗い所で染みを落としたのだった。

 でも午後はちゃんと計画通りに進めよう、そう思い返し、彼は上着のポケットから畳んだ紙を取り出そうとした。
 今日彼女を初デートに連れだしてから、彼女とミナとのスキを見つけては何度となく取り出して確認していたそのメモを。

 しかし、
「あれ」
 和人はポケットから手を出す。
 紙がない。
 試しに反対側のポケットも見るが、やはり入っていない。
 焦って内ポケット、ズボンのポケット、持っていたポーチの中までぜんぶさらってみる、だが、どこにもない。

「落としたのかな……」

 和人は頭を抱える。
 シャツを汚して上着を脱いだ時に落ちたのかもしれない。
 あれは園の反対側に近い方だ。
 拾いに行きたいが、彼女たちを無駄に歩かせることになるし、何を探しているのか訊かれると困るし。
 
 まずは最初の一行から細かかった。

『10時入場。パスポートチケット、おごるから、と三人分買う』
 ミナは、えっ、いいんですか~? とうれしげだったが、そこに香織が
「ここは割り勘でしょ」と譲らず、結局それぞれで支払うことになった。

『10時10分、フライングシップ、ミラーハウス、ミニ動物園、ここの売店で人気のオリジナルぬいぐるみをひとつ買う」
 香織がアルパカ好きなのは以前聞いていたので、なんか買おうか? アルパカとか? と訊いた。そうしたら香織は
「もう持ってるからいらない」
 と即答。
 逆にミナはおおはしゃぎで「アタシ、カメレオン!」とすかさずおねだりして、和人はなぜかカメレオンを買う羽目になっていた。

『10時40分、出店のマツモトコーヒーで休憩してからフロートカップ、シューティングコースター』
 マツモトは人気の店らしく、ずっと並んでいたが、せっかちな香織は
「あたしいつもの自販機でじゅーぶんだよ」
 そう言ってするりと列から抜けてしまった。ミナも「待ってよー」と後に続く。
 和人が追いついた時には、香織は、すでに和人の分も手に持っていた。
「はい、いつもこの微糖だよね」
 それはそれでうれしいが、なんか違うんだよな……
 和人はふたりから少し間を開けて、ベンチに座って珈琲を飲んだ。

 いつも仕事の合間にあまり味わうこともなく飲み干しているのだが、緊張しすぎているのか、いつも以上に味を感じなかった。


 それでも何となく、かすかにデートらしい体裁を保ちつつ、三人でランチタイムを迎えたのだった。
 ここでも、彼が人気のレストランの名を言う前に
「あたし、立ち食いのホットドックがいいな、時間節約できるし」
 そう言い出したのは香織だった。

 そしてこのざまだ。

 結局、頼りのメモは失くすし、服の染みも微妙に残ったままだし、イニシアチブも取れているのかどうか微妙だし、これからの午後のひとときがさらに心もとない。
 これから何をする予定なのか、彼は頭を抱えたまま必死に思い出そうとした。
 家でも、何度も何度も読みこんだはずだったのだが。
『13時から、ドクトル・エミーのマジックショー(動画サイトでも有名だった)、
14時メリーゴーランド、フラワーパラシュート……』
 そこから先がなぜか、ほとんど思い出せない。

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