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どうにかこうにかでようやく

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 最後まで悩んだのが、ミナちゃんの存在だった。

 シゲノブには、実は一応の話はしていた。

―― ねえ、俺さ、その日に香織ちゃんとその……遊園地の最後、ふたりきりで話したいことあって、だからさ、お前ミナちゃんとその、先に帰ってくれないかな、方向一緒だし、いいだろ? 

 その後シゲノブが
「ごめん用事入っちゃって」
 と言った時には、ほとんど泣かんばかりにこう拝み倒した。

「だったらその日、ミナちゃんのところに電話できない? 夕方、5時過ぎくらい」
「ああ? 五時過ぎ? まあ用事は済んでると思うけどさ」
 シゲノブは軽くこたえたが、
「30分くらいでいいからさ」
 のことばに
「30分も? 何話すんだよ!」
 と目を丸くしていた。
 そんなシゲノブに和人はひたすら頭を下げる。
「30分あれば、何とかできると思うんだよ、頼む」

 シゲノブは最初のうちは呆れて笑うだけだったが、ようやく真顔になって
「分かったよ……ほかならぬお前の頼みじゃあ、な」
 ぽんぽん、と和人の肩をたたいた。
「あ、ありがとう」
「泣くなよ」
 
 涙と鼻水を拭いている和人に、シゲノブはやや声のトーンをやわらげた。
「ところでオマエ、デートなんて初めてなんだろ?」
 うん、と顔を上げたところに、だったら綿密に計画スケジュールを立てた方がいいぞ、ともっともらしく忠告したのだった。

「オマエ、オレが電話する5時から5時半には最後にどこに行くんだ?」

―― 観覧車だ。

 和人は顔を上げる。

 とりあえず三人で観覧車に向かう。チケットを買うのは5時少し過ぎ。その時にはミナのところに電話が来ているはずだ。スケジュールでそこだけはきっちりと時間を決めてシゲノブに伝えてある。
 いや、シゲノブから
「そこだけはちゃんと押さえた方がいい」
 とアドバイスを受けたのだ。

 ミナは、いくら開けっぴろげな性格と言っても、さすがにカレシからの個人的な電話は聞かれたくないだろう、たぶん、いやきっと一緒に観覧車には乗らずに下で待っている。

 そして、和人は香織とふたりだけで観覧車に乗る。

 暮れかけた湖畔を眺めながら、とりとめもない話をして、真上で、告げるのだ……



 ミナはすぐに電話に気づいた。
「あ……ごめーん」
 ふたりにあいまいな笑みを向ける。
「電話入っちゃった、アタシ、下で待ってていい?」
 返事する間もなくミナは観覧車の陰に入ってしまった。
 香織が軽く肩をすくめる。
「いいよ、ふたりで乗ろう」

 和人は大きく息を吸い、それからゆっくりと吐き出して、うん、とうなずいた。


 ミナはいない。そして、
 和人と香織はふたり、観覧車に乗っていた。
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