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ラートの町はこの辺り一帯でもっとも大きな町だ。周囲に街道が延びていて、城壁も高く頑丈。周囲に農地が広がるのはプシコラの町と同じだが、根本的に規模が違う。
フランさんから手紙を貰った翌日の夕方、俺とユニアはラートの町に到着していた。平和が長いビフロ王国は街道が良く整備されていて移動が早い。商人の馬車に同乗したら半日と少しで到着した。
「お忙しいところすみません、イストさん」
俺達の現在地は冒険者協会。この一帯の冒険者に向けて依頼を出す、組織の中心部だ。ラートがそこそこの規模の町ということもあり、協会の建物も大きくて作りが良い。
協会で挨拶するなり、俺達は会議室に通され、そこで支部長からじきじきに話を聞くことになった。
「ご心配なく。忙しくはありませんでしたので」
「なんてこと言うんだユニア」
ここの支部長さんは三十代の細面の男性。いかにも苦労人という感じでとても丁寧で腰が低いのが特徴だ。若い頃からの叩き上げで実際相当な苦労があったという。能力的にはとても優秀で、その物腰を逆に恐く感じることがある。
そんな人物がじきじきに俺達に事情を説明してくれることになった。室内には俺達三人だけだ。密室での情報共有は非常に珍しく、ことの重大さを示している。
「いえ、実際に申し訳なく思っているのです。イストさんの本業はあくまで商売だと思っておりますので」
「そう言ってくれるのは支部長さんだけですよ……」
最初は俺を上手く扱うために持ち上げてくれてるのかと思ったけど、これが本心なんだよな。本来なら現役の冒険者を上手く差配しなきゃいけない立場なんで、結構責任を感じているらしい。
「お話しする前に確認です。ユニアさんは、イストさんが同行を認める冒険者だと認識しております。ですが、今回は少々危険度が……」
「ご心配なく。わたしは店長と同じくらい腕が立ちます」
「…………」
「本当です。この辺りでパーティーを組むなら俺はユニアを選びますよ」
「……わかりました。とはいえ、危険度について言及しておきながら、はっきりと申し上げられないのですがね」
珍しい話だ。支部長さんは経験豊富なのもあって、危険な依頼への嗅覚も鋭い。場合によっては事前の情報収集すらしてくれる。それが、曖昧な物言いをするとは。
「なにがあったんですか?」
「四日ほど前のことです、ここから南西に二日ほど歩いた位置に低い山がありますが、そこに巨大な構造物が墜落しているのが発見されました」
間違いない、神託にあった『天より来たるもの』だ。俺がユニアと顔を見合わせると、彼女は静かに頷いた。
「構造物ってどんなものなんですか?」
疑問に対して、支部長さんは申し訳なさそうに首を振った。
「それがよくわからないのです。早速、偵察に冒険者を派遣したのですが、近くでワイバーンが目撃されまして」
ワイバーンはドラゴンの亜種とされる大型の魔物だ。大きいもので全長5メートル。腕の無いドラゴンといった感じの見た目で、鋭い尻尾と足の爪と牙で襲いかかってくる。幸い、魔法やブレスといったドラゴン特有の能力は使わないが、強敵である。少なくとも、この地方の冒険者では相手に出来ない。
「ワイバーンを確認して帰ってきた感じですか」
「はい。恥ずかしながら。近頃は銀の森での依頼が激減した影響で、この地域の冒険者が減っておりまして。対処できるパーティーもおらず」
「うっ……」
思わず声が出た。誤算だった。銀狼達が森の平和を守ってくれると思っていたら、冒険者離れに繋がるとは。
「少しでも良いので、構造物の外見などの特徴はわかりませんか?」
俺が自分の蒔いた種にショックを受ける横で、ユニアが静かな口調で聞いた。心なしか、その目には常には無い真剣さが宿っている。
「遠くから観察したスケッチがあります。遠くに隠れて描いたものなので、詳しいとはいえませんが」
支部長が依頼した冒険者パーティーというのはしっかり仕事をしたようだ。ワイバーンを見てすぐ逃げずに観察に切り替えただけでも十分だ。
机の上に置かれた数枚のスケッチを、俺達は覗き込む。
質の良くないガサガサした植物紙に木炭で描かれたスケッチ。そこには瓦礫の山と、倒れたり折れたりした樹木、崩れた塔などが描かれていた。相当遠くから観察したんだろう、空にはワイバーンらしき影があるが大きめの鳥くらいにしか見えない。
「せめて建物が落下で壊れたのか、魔物に壊されたのかが、分かればな……」
「残念ながら、それがわかる距離まで接近できなかったようでして。まだ経験の浅い冒険者だったもので。申し訳ありません」
「いえ、支部長さんが悪いわけじゃないですから」
できれば経験豊富な冒険者に向かわせたかっただろうに。この地方の現状が許さなかったのだから、これは仕方ない。
「ユニアはこういうの、見たことあるか?」
「……いえ、わかりませんね」
無言でスケッチを凝視しながらユニアが答えた。その視線に、紙に穴でも空きそうなくらいの力を込めながら。
「こちらからお話できる事情はこれで全てです。詳しい調査をお願いできますか? もちろん、危険と判断したら撤退してください」
ここまで話しを聞いてお願いもないが、仕事に真面目な支部長さんはわざわざ聞いてくれた。
あんな神託があった上に、目撃されたのはワイバーン。しかもユニアは明らかに何か知っている様子。
こんな依頼、断れるわけが無い。
「明日の朝にはこの町を発ちます。一応、周辺には注意喚起をお願いしますね」
「ありがとうございます」
俺の答えを聞くと、支部長さんは自ら依頼票を用意してくれた。
フランさんから手紙を貰った翌日の夕方、俺とユニアはラートの町に到着していた。平和が長いビフロ王国は街道が良く整備されていて移動が早い。商人の馬車に同乗したら半日と少しで到着した。
「お忙しいところすみません、イストさん」
俺達の現在地は冒険者協会。この一帯の冒険者に向けて依頼を出す、組織の中心部だ。ラートがそこそこの規模の町ということもあり、協会の建物も大きくて作りが良い。
協会で挨拶するなり、俺達は会議室に通され、そこで支部長からじきじきに話を聞くことになった。
「ご心配なく。忙しくはありませんでしたので」
「なんてこと言うんだユニア」
ここの支部長さんは三十代の細面の男性。いかにも苦労人という感じでとても丁寧で腰が低いのが特徴だ。若い頃からの叩き上げで実際相当な苦労があったという。能力的にはとても優秀で、その物腰を逆に恐く感じることがある。
そんな人物がじきじきに俺達に事情を説明してくれることになった。室内には俺達三人だけだ。密室での情報共有は非常に珍しく、ことの重大さを示している。
「いえ、実際に申し訳なく思っているのです。イストさんの本業はあくまで商売だと思っておりますので」
「そう言ってくれるのは支部長さんだけですよ……」
最初は俺を上手く扱うために持ち上げてくれてるのかと思ったけど、これが本心なんだよな。本来なら現役の冒険者を上手く差配しなきゃいけない立場なんで、結構責任を感じているらしい。
「お話しする前に確認です。ユニアさんは、イストさんが同行を認める冒険者だと認識しております。ですが、今回は少々危険度が……」
「ご心配なく。わたしは店長と同じくらい腕が立ちます」
「…………」
「本当です。この辺りでパーティーを組むなら俺はユニアを選びますよ」
「……わかりました。とはいえ、危険度について言及しておきながら、はっきりと申し上げられないのですがね」
珍しい話だ。支部長さんは経験豊富なのもあって、危険な依頼への嗅覚も鋭い。場合によっては事前の情報収集すらしてくれる。それが、曖昧な物言いをするとは。
「なにがあったんですか?」
「四日ほど前のことです、ここから南西に二日ほど歩いた位置に低い山がありますが、そこに巨大な構造物が墜落しているのが発見されました」
間違いない、神託にあった『天より来たるもの』だ。俺がユニアと顔を見合わせると、彼女は静かに頷いた。
「構造物ってどんなものなんですか?」
疑問に対して、支部長さんは申し訳なさそうに首を振った。
「それがよくわからないのです。早速、偵察に冒険者を派遣したのですが、近くでワイバーンが目撃されまして」
ワイバーンはドラゴンの亜種とされる大型の魔物だ。大きいもので全長5メートル。腕の無いドラゴンといった感じの見た目で、鋭い尻尾と足の爪と牙で襲いかかってくる。幸い、魔法やブレスといったドラゴン特有の能力は使わないが、強敵である。少なくとも、この地方の冒険者では相手に出来ない。
「ワイバーンを確認して帰ってきた感じですか」
「はい。恥ずかしながら。近頃は銀の森での依頼が激減した影響で、この地域の冒険者が減っておりまして。対処できるパーティーもおらず」
「うっ……」
思わず声が出た。誤算だった。銀狼達が森の平和を守ってくれると思っていたら、冒険者離れに繋がるとは。
「少しでも良いので、構造物の外見などの特徴はわかりませんか?」
俺が自分の蒔いた種にショックを受ける横で、ユニアが静かな口調で聞いた。心なしか、その目には常には無い真剣さが宿っている。
「遠くから観察したスケッチがあります。遠くに隠れて描いたものなので、詳しいとはいえませんが」
支部長が依頼した冒険者パーティーというのはしっかり仕事をしたようだ。ワイバーンを見てすぐ逃げずに観察に切り替えただけでも十分だ。
机の上に置かれた数枚のスケッチを、俺達は覗き込む。
質の良くないガサガサした植物紙に木炭で描かれたスケッチ。そこには瓦礫の山と、倒れたり折れたりした樹木、崩れた塔などが描かれていた。相当遠くから観察したんだろう、空にはワイバーンらしき影があるが大きめの鳥くらいにしか見えない。
「せめて建物が落下で壊れたのか、魔物に壊されたのかが、分かればな……」
「残念ながら、それがわかる距離まで接近できなかったようでして。まだ経験の浅い冒険者だったもので。申し訳ありません」
「いえ、支部長さんが悪いわけじゃないですから」
できれば経験豊富な冒険者に向かわせたかっただろうに。この地方の現状が許さなかったのだから、これは仕方ない。
「ユニアはこういうの、見たことあるか?」
「……いえ、わかりませんね」
無言でスケッチを凝視しながらユニアが答えた。その視線に、紙に穴でも空きそうなくらいの力を込めながら。
「こちらからお話できる事情はこれで全てです。詳しい調査をお願いできますか? もちろん、危険と判断したら撤退してください」
ここまで話しを聞いてお願いもないが、仕事に真面目な支部長さんはわざわざ聞いてくれた。
あんな神託があった上に、目撃されたのはワイバーン。しかもユニアは明らかに何か知っている様子。
こんな依頼、断れるわけが無い。
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俺の答えを聞くと、支部長さんは自ら依頼票を用意してくれた。
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