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「推測ですが、墜落したという遺跡は空中庭園かもしれません」
宿に戻って一息つくなり、ユニアは俺に向かってそう言ってきた。
クルトスの町の冒険者協会を出た頃にはもう日が暮れていた。俺達は宿に戻り、食堂剣酒場になっている一階で夕食を済ませて、俺の部屋に集まっていた。
宿のランクは中くらい、一応部屋は分けてある。治安もいいし、ユニアの部屋に何か入ってきても返り討ちだ。
ベッドと簡素な机だけの部屋で、俺は椅子、ユニアはベッドに腰掛ける形で冒険者協会支部での話を改めて検討を始めた。
「空中庭園か、聞いたことはないな」
「遙か昔、神々がもっと気軽にこの世界にやって来られた頃に作られた場所です。そこには庭園の管理者として登録されたワルキューレがおり、神々をもてなしていました」
「相当古い遺跡だな……」
神々がこの世界にいたというのは数万年は昔の話だ。歴史書や各地の神殿の伝承によると、自らの力で世界を壊すことを恐れた神々は神界を作り、そこに移住したということになっている。
神界と世界の間には、星界というもう一つの世界が横たわり、それは青空や星空として目に見ることができる。世界、星界、神界、三つの空間が三段重ねになっているというのが、この世界の構造だ。
「空中庭園は一つの巨大な神具です、ヒルガルドというワルキューレが今も管理、運営していたはずです」
「神々が去って数万年たった後でもか……」
途方も無い話だ。もはや客の来る見込みのない場所にひたすら居続けるなんて。
「今ではわたし達ワルキューレのサボり場として利用されていました。本人も「面倒な神々の相手をしなくて気楽でいいわー」と楽しんでいる様子でしたね」
まるで悲壮感のない話だった。気楽すぎる。
「その空中庭園が墜落した理由は推測できるか?」
俺の問いかけに、ユニアはしばらく顔を落として考え込む。すぐに答えを返す彼女にしては、珍しい反応だった。
「……わかりません。可能性としては経年劣化でしょうか。あるいは、一人で巨大な庭園を維持管理することに飽きたか」
「神具をそんな雑に扱うもんなのか、ワルキューレって」
しかし、一人で庭園の管理とかブラック極まりない環境だな。それ用の特別なワルキューレなんだから大丈夫なんだろうが、労働環境に同情してしまう。
「後者の推測は冗談です。ヒルガルドの性格的にも考えにくいですし。目撃されたワイバーンが気になります」
「ワルキューレがワイバーン如きに後れを取るとは思えないな。そうすると、もっと上位のなにかと戦ったとかか」
協会で見たスケッチからは廃墟に戦いの跡があったかすら判別できなかった。ワイバーンという魔物は群れで行動することがある。その中でも特に厄介なのは強大な上位種に使役されて集まっている場合だ。
「どのくらいのドラゴンなら、空中庭園を落とせると思う?」
「エルダードラゴンの一匹や二匹では返り討ちですね。相当上位の個体が、群れを総出でやってきてどうか、というところでしょうか」
その可能性をずっと検討していたのだろう。ユニアの答えは今度は早かった。
俺の脳裏によぎるのは銀の森の記憶だ。魔王のキメラ、『魔王戦役』の名残。かつて魔王が指した一手が、今も生きているとしたら?
その可能性を俺には否定できない。
「魔王の置き土産という可能性がある。人知れず、俺達の知らない場所で攻撃を受け続けていたのかもしれない」
「その可能性は排除できませんね。迷惑な話です」
銀の森の一件を知るユニアは、反論することなく、俺の推測に納得した。
「なんにしろ、放っておくわけにはいかないな。墜落したのが空中庭園なら神具の塊だ。大騒ぎになる。危ないものを先に見つけて、ハスティさんに押しつけるなりしてしまおう」
「わたしはヒルガルドが心配です」
短いが、率直なユニアの言葉。神に作られたワルキューレは心のない人形というわけじゃない。協会で食い入るようにスケッチを見ていた時といい、彼女は心の底から心配しているようだった。
「参考までに聞くけど、そのワルキューレとどういう関係だったんだ?」
俺の問いかけに、ユニアは何かを懐かしむ表情をしたあと、穏やかな声音でこう答えた。
「友達です。それも、大切な」
「……明日は朝一番に宿を出よう。街道から離れたら、魔法で高速移動だ」
現地で何が起きるかわからないし、後始末で誤魔化す方法も考えてない。しかし、これは最優先で対処すべき事柄だ。俺はそう判断した。
「ありがとうございます。店長」
どうせならもっと早く神託をくれれば良かったのに。頭を下げるユニアを見ながら、俺はそんなことを考えていた。
宿に戻って一息つくなり、ユニアは俺に向かってそう言ってきた。
クルトスの町の冒険者協会を出た頃にはもう日が暮れていた。俺達は宿に戻り、食堂剣酒場になっている一階で夕食を済ませて、俺の部屋に集まっていた。
宿のランクは中くらい、一応部屋は分けてある。治安もいいし、ユニアの部屋に何か入ってきても返り討ちだ。
ベッドと簡素な机だけの部屋で、俺は椅子、ユニアはベッドに腰掛ける形で冒険者協会支部での話を改めて検討を始めた。
「空中庭園か、聞いたことはないな」
「遙か昔、神々がもっと気軽にこの世界にやって来られた頃に作られた場所です。そこには庭園の管理者として登録されたワルキューレがおり、神々をもてなしていました」
「相当古い遺跡だな……」
神々がこの世界にいたというのは数万年は昔の話だ。歴史書や各地の神殿の伝承によると、自らの力で世界を壊すことを恐れた神々は神界を作り、そこに移住したということになっている。
神界と世界の間には、星界というもう一つの世界が横たわり、それは青空や星空として目に見ることができる。世界、星界、神界、三つの空間が三段重ねになっているというのが、この世界の構造だ。
「空中庭園は一つの巨大な神具です、ヒルガルドというワルキューレが今も管理、運営していたはずです」
「神々が去って数万年たった後でもか……」
途方も無い話だ。もはや客の来る見込みのない場所にひたすら居続けるなんて。
「今ではわたし達ワルキューレのサボり場として利用されていました。本人も「面倒な神々の相手をしなくて気楽でいいわー」と楽しんでいる様子でしたね」
まるで悲壮感のない話だった。気楽すぎる。
「その空中庭園が墜落した理由は推測できるか?」
俺の問いかけに、ユニアはしばらく顔を落として考え込む。すぐに答えを返す彼女にしては、珍しい反応だった。
「……わかりません。可能性としては経年劣化でしょうか。あるいは、一人で巨大な庭園を維持管理することに飽きたか」
「神具をそんな雑に扱うもんなのか、ワルキューレって」
しかし、一人で庭園の管理とかブラック極まりない環境だな。それ用の特別なワルキューレなんだから大丈夫なんだろうが、労働環境に同情してしまう。
「後者の推測は冗談です。ヒルガルドの性格的にも考えにくいですし。目撃されたワイバーンが気になります」
「ワルキューレがワイバーン如きに後れを取るとは思えないな。そうすると、もっと上位のなにかと戦ったとかか」
協会で見たスケッチからは廃墟に戦いの跡があったかすら判別できなかった。ワイバーンという魔物は群れで行動することがある。その中でも特に厄介なのは強大な上位種に使役されて集まっている場合だ。
「どのくらいのドラゴンなら、空中庭園を落とせると思う?」
「エルダードラゴンの一匹や二匹では返り討ちですね。相当上位の個体が、群れを総出でやってきてどうか、というところでしょうか」
その可能性をずっと検討していたのだろう。ユニアの答えは今度は早かった。
俺の脳裏によぎるのは銀の森の記憶だ。魔王のキメラ、『魔王戦役』の名残。かつて魔王が指した一手が、今も生きているとしたら?
その可能性を俺には否定できない。
「魔王の置き土産という可能性がある。人知れず、俺達の知らない場所で攻撃を受け続けていたのかもしれない」
「その可能性は排除できませんね。迷惑な話です」
銀の森の一件を知るユニアは、反論することなく、俺の推測に納得した。
「なんにしろ、放っておくわけにはいかないな。墜落したのが空中庭園なら神具の塊だ。大騒ぎになる。危ないものを先に見つけて、ハスティさんに押しつけるなりしてしまおう」
「わたしはヒルガルドが心配です」
短いが、率直なユニアの言葉。神に作られたワルキューレは心のない人形というわけじゃない。協会で食い入るようにスケッチを見ていた時といい、彼女は心の底から心配しているようだった。
「参考までに聞くけど、そのワルキューレとどういう関係だったんだ?」
俺の問いかけに、ユニアは何かを懐かしむ表情をしたあと、穏やかな声音でこう答えた。
「友達です。それも、大切な」
「……明日は朝一番に宿を出よう。街道から離れたら、魔法で高速移動だ」
現地で何が起きるかわからないし、後始末で誤魔化す方法も考えてない。しかし、これは最優先で対処すべき事柄だ。俺はそう判断した。
「ありがとうございます。店長」
どうせならもっと早く神託をくれれば良かったのに。頭を下げるユニアを見ながら、俺はそんなことを考えていた。
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