27 / 58
27.
しおりを挟む
廃墟というのは灰色だ。遺跡だったら、長い年月をかけて水や緑が浸食し、そこに自然や生命を感じる見た目になる。
でも、廃墟は違う。ただ破壊され、瓦礫になり果てた場所は、命を感じられない寒々しい灰色一色の光景になる。
この世界に転生してから、何度となく、俺はそういう光景を見てきた。見るたびに否応なく本来の姿を想起させられ、もの悲しい気持ちになる。
俺達の前に広がるのは、そんな光景だった。
クレストの町から歩いて三日くらいの距離。景色が広がる畑から、低い山々になっている地域。銀の森に接してはいないが、付近にあるのは小さな集落が一つ。
そんな場所の山中に、できたての廃墟が広がっていた。
「少なくとも、元々ここにあったものじゃないな」
相当な衝撃で地面にぶつかったのだろう、半球状をしていたらしい構造体は地面に衝突して砕けていた。元々の巨大さのおかげで原型はなんとかわかるが、半球の上部にあった庭園部分は一度ひっくり返したかのようにぐちゃぐちゃになっている。
そこに生えていたであろう植物は折れ、埋まり、葉も花も殆ど無い。大理石のような白一色で構築されていたらしい建築物も半ばで折れたり崩れたりしている。
なにより、全てがないまぜになってしまって、全体の色彩が灰色になってしまっていることが、ここが廃墟であることを如実に示していた。
「間違いありません、空中庭園です」
ユニアの声は上から来た。今は、出会った時の水晶体の中にいた時と同じ、鎧姿だ。背中にたまに魔法陣を瞬かせて、空に浮かんでいる。
ワルキューレは飛翔の魔法の力を生まれつき備えている。彼女はそれを利用して上からの偵察だ。
移動の時もそれで運んで貰った。おかげで歩いて三日のところを半日で到着した。空を飛ぶ魔法というのは難しくて、俺は得意じゃない。移動に関してはユニアの手を借りるのが最速だ。
「建物の雰囲気が神界で見たものに似てるな。最近落ちてきたのは間違いなさそうだ。近くに敵は?」
「敵影無し。報告にあったワイバーンは周辺にもいないようです」
「巣に帰ったかな? ユニア、友達のワルキューレがどのあたりにいると思う?」
「彼女は多くの場合、庭園中心部でお茶をしていました。ワルキューレ相手の時は出迎えに赴かない人でしたので」
「じゃあ、そこを目指そう。上から頼めるか?」
「はい。最短ルートでご案内致します」
そう言って差し出して来たユニアの手を掴むと、俺の体は自然と浮かび上がった。翼による飛翔ではなく、魔法による飛翔。魔法の力で重力を振り切るその感覚は自分がいきなり風船になったみたいで不思議な感覚だ。
五メートルくらいの高度に達したユニアは、そのまま俺を目的地に向かって運び出した。手で持ち上げられているが痛みは無い。周辺に結界を張って飛んでいるようだ。握った手は、あくまで魔法の影響範囲内にするためだ。
「なあ、あの辺、ブレスの跡じゃないか?」
「ワイバーンとは違う爪痕も見えます。建物の崩れ方が酷くて正確に判断できませんが、広範囲での戦闘があったようです」
崩れた建物のをよく見ると、焼けた跡や、巨大な獣による爪痕がある。ワイバーンはブレスを吐かないし、巨大な柱を斜めに引き裂くほどの攻撃もできない。
「ドラゴンの痕跡が複数。レッサーではありませんね」
「よく見ると、死体が埋まってるな。空中庭園の戦力ってのは大したもんだな」
よく見ると瓦礫の隙間から尻尾なんかが覗いていた。全部で五匹分くらいだろうか。
ドラゴンはその大きさから、レッサー、エルダー、エンシェントなどに分類される。長く生きるほど大きくなり、賢く、強い。レッサーとエルダーの間が普通のドラゴンとされるが、それが数匹飛来するだけで小国が傾いてもおかしくない。
「ヒルガルドの任務は空中庭園の管理。その中には防衛も含まれます。神具であるこの庭園と共にあることで、通常のワルキューレよりも高い戦闘力を発揮できます」
「……まさか、神具と同調しているワルキューレなのか?」
俺の問いに、ユニアは無言で頷いた。物憂げな視線は瓦礫の山を見つめている。
ヒルガルドというワルキューレが神具と共にあるなら、庭園が廃墟と化した今、どうなっているのか。
さすがにその問いを口に出すことはできなかった。ただ、彼女の友達がまだ健在であることを祈っておく。神界で出会った、どの神でもいい。どうか、ユニアを友達と再会させてほしい。
「反応ありです」
俺の祈りを知ってか知らずか、淡々と告げてから、ゆっくりと高度を下げた。
降り立った先は庭園の中央から少し外れた建物の前。誰の趣味かわからないが、可愛らしいデザインの小さな小屋だ。周囲の壊れ具合と比べると、不自然なくらい健在な建物だった。
「ここは無事だな」
「彼女のお気に入りの建物です。魔法で保護したのかも知れません」
先を歩くユニアは、閉まったドアを軽くノックする。乾いた木を叩く音が静かな廃墟に響いた。
「…………」
中から返事は無かった。
「……入ります」
少しの逡巡を見せてから、ユニアは扉を開けて中に入った。勿論、俺もそれに続く。
「ユニア、これは……」
室内に入って、すぐにそれは見つかった。
「はい。彼女がヒルガルドです」
座り心地の良さそうな木製の椅子。そこに座る人影があった。
長い金髪に長身の、優しそうな印象を受ける女性。
ユニアと同じ細工の鎧を身につけていることが、ワルキューレの証だ。
「…………」
「…………」
俺もユニアも挨拶の言葉が出ない。
なぜならば、空中庭園の管理者は穏やかに眠っているかのように目を閉じていたからだ。
でも、廃墟は違う。ただ破壊され、瓦礫になり果てた場所は、命を感じられない寒々しい灰色一色の光景になる。
この世界に転生してから、何度となく、俺はそういう光景を見てきた。見るたびに否応なく本来の姿を想起させられ、もの悲しい気持ちになる。
俺達の前に広がるのは、そんな光景だった。
クレストの町から歩いて三日くらいの距離。景色が広がる畑から、低い山々になっている地域。銀の森に接してはいないが、付近にあるのは小さな集落が一つ。
そんな場所の山中に、できたての廃墟が広がっていた。
「少なくとも、元々ここにあったものじゃないな」
相当な衝撃で地面にぶつかったのだろう、半球状をしていたらしい構造体は地面に衝突して砕けていた。元々の巨大さのおかげで原型はなんとかわかるが、半球の上部にあった庭園部分は一度ひっくり返したかのようにぐちゃぐちゃになっている。
そこに生えていたであろう植物は折れ、埋まり、葉も花も殆ど無い。大理石のような白一色で構築されていたらしい建築物も半ばで折れたり崩れたりしている。
なにより、全てがないまぜになってしまって、全体の色彩が灰色になってしまっていることが、ここが廃墟であることを如実に示していた。
「間違いありません、空中庭園です」
ユニアの声は上から来た。今は、出会った時の水晶体の中にいた時と同じ、鎧姿だ。背中にたまに魔法陣を瞬かせて、空に浮かんでいる。
ワルキューレは飛翔の魔法の力を生まれつき備えている。彼女はそれを利用して上からの偵察だ。
移動の時もそれで運んで貰った。おかげで歩いて三日のところを半日で到着した。空を飛ぶ魔法というのは難しくて、俺は得意じゃない。移動に関してはユニアの手を借りるのが最速だ。
「建物の雰囲気が神界で見たものに似てるな。最近落ちてきたのは間違いなさそうだ。近くに敵は?」
「敵影無し。報告にあったワイバーンは周辺にもいないようです」
「巣に帰ったかな? ユニア、友達のワルキューレがどのあたりにいると思う?」
「彼女は多くの場合、庭園中心部でお茶をしていました。ワルキューレ相手の時は出迎えに赴かない人でしたので」
「じゃあ、そこを目指そう。上から頼めるか?」
「はい。最短ルートでご案内致します」
そう言って差し出して来たユニアの手を掴むと、俺の体は自然と浮かび上がった。翼による飛翔ではなく、魔法による飛翔。魔法の力で重力を振り切るその感覚は自分がいきなり風船になったみたいで不思議な感覚だ。
五メートルくらいの高度に達したユニアは、そのまま俺を目的地に向かって運び出した。手で持ち上げられているが痛みは無い。周辺に結界を張って飛んでいるようだ。握った手は、あくまで魔法の影響範囲内にするためだ。
「なあ、あの辺、ブレスの跡じゃないか?」
「ワイバーンとは違う爪痕も見えます。建物の崩れ方が酷くて正確に判断できませんが、広範囲での戦闘があったようです」
崩れた建物のをよく見ると、焼けた跡や、巨大な獣による爪痕がある。ワイバーンはブレスを吐かないし、巨大な柱を斜めに引き裂くほどの攻撃もできない。
「ドラゴンの痕跡が複数。レッサーではありませんね」
「よく見ると、死体が埋まってるな。空中庭園の戦力ってのは大したもんだな」
よく見ると瓦礫の隙間から尻尾なんかが覗いていた。全部で五匹分くらいだろうか。
ドラゴンはその大きさから、レッサー、エルダー、エンシェントなどに分類される。長く生きるほど大きくなり、賢く、強い。レッサーとエルダーの間が普通のドラゴンとされるが、それが数匹飛来するだけで小国が傾いてもおかしくない。
「ヒルガルドの任務は空中庭園の管理。その中には防衛も含まれます。神具であるこの庭園と共にあることで、通常のワルキューレよりも高い戦闘力を発揮できます」
「……まさか、神具と同調しているワルキューレなのか?」
俺の問いに、ユニアは無言で頷いた。物憂げな視線は瓦礫の山を見つめている。
ヒルガルドというワルキューレが神具と共にあるなら、庭園が廃墟と化した今、どうなっているのか。
さすがにその問いを口に出すことはできなかった。ただ、彼女の友達がまだ健在であることを祈っておく。神界で出会った、どの神でもいい。どうか、ユニアを友達と再会させてほしい。
「反応ありです」
俺の祈りを知ってか知らずか、淡々と告げてから、ゆっくりと高度を下げた。
降り立った先は庭園の中央から少し外れた建物の前。誰の趣味かわからないが、可愛らしいデザインの小さな小屋だ。周囲の壊れ具合と比べると、不自然なくらい健在な建物だった。
「ここは無事だな」
「彼女のお気に入りの建物です。魔法で保護したのかも知れません」
先を歩くユニアは、閉まったドアを軽くノックする。乾いた木を叩く音が静かな廃墟に響いた。
「…………」
中から返事は無かった。
「……入ります」
少しの逡巡を見せてから、ユニアは扉を開けて中に入った。勿論、俺もそれに続く。
「ユニア、これは……」
室内に入って、すぐにそれは見つかった。
「はい。彼女がヒルガルドです」
座り心地の良さそうな木製の椅子。そこに座る人影があった。
長い金髪に長身の、優しそうな印象を受ける女性。
ユニアと同じ細工の鎧を身につけていることが、ワルキューレの証だ。
「…………」
「…………」
俺もユニアも挨拶の言葉が出ない。
なぜならば、空中庭園の管理者は穏やかに眠っているかのように目を閉じていたからだ。
10
あなたにおすすめの小説
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる