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正直なところ、エルダードラゴンとユニアの戦いよりも、その後が大変だった。
ユニアの一撃を受けて墜落したエルダードラゴン。
それはすぐに俺が収納魔法で回収した。これを冒険者協会で買い取って貰えばかなりの財産だが、素材として出回った後がちょっと恐い。エルダードラゴンともなると、牙一本がかなりの力を持つ。
それとは別の問題は、戦闘開始と同時にユニアのスリープで眠ったドラゴンとワイバーンである。連中はまだ健在で、落下したダメージを受けてなお元気な個体が多かった。特にドラゴン。
幸い、ユニアの魔法はまだ効いていた。
そんなわけで俺達は、地面に落ちたドラゴンとワイバーンに一匹ずつ丁寧にトドメを刺していったのである。
始末したのは合計十九体、結構な数である。
空の上から落ちた範囲が広かったので、ちょっと難儀した。なにせ空中庭園の周辺は山なので。
一応、ドラゴンは小型のものを残して、収納。ワイバーンは全部残した。
「なぜ全ての魔物を収納してしまわないのですか?」
全てが終わった後、ヒルガルドの家の中で一息つくとユニアが聞いてきた。
「これは俺の打算なんだが、報告したあと冒険者がここに派遣されてくるはずだ。そこでお宝を発見すれば、どうなると思う?」
問いに対するユニアの反応は早かった。
「この地域の冒険者相手へ需要を創出するつもりですか」
「そうだ。銀の森が安定しちゃったからな。他の何かが必要なんだ。出来たての遺跡と聞けば冒険者がこの地域に帰ってくるはず」
空中庭園はヒルガルドと共にもうすぐ停止する。その後の扱いは、俺達に委ねられた。
とはいえ、大きい上に既に崩壊しているので、これくらいしか使い道を思いつけない。
「やっぱり駄目か?」
友人が長年管理していた場所が冒険者に荒らされるわけだ。ユニアは嫌がるだろう。
「……いえ、良いと思います。元に戻すのは不可能ですし、神話の時代の品は遺跡になるのが今の世の中に相応しいかと」
少し考えた後、ユニアはそう言ってくれた。その様子は想像以上に穏やかだ。先ほどの戦いで、彼女も心の整理がついたといったところか。
「遺跡……ですか。そうですね、私もその案に賛成です。遙か昔に神々は去っています、空中庭園が今でも稼働しているのは望ましくない状況だったのでしょう」
お茶を淹れながら、柔和な笑みをたたえつつ、ヒルガルドが言った。
テーブル上に並ぶカップは二つ。俺とユニアの分だ。彼女自身のカップは無い。
そろそろ時間だ。
「最後の記憶がこの家の中で、友人と共にあることを嬉しく思います。神託があったとはいえ、来てくださったことを、心からお礼申し上げます。イスト様、ユニア」
鎧姿ではなく、薄い緑色のワンピース姿のヒルガルドはそう言って一礼した。よく見ると、体の端々が輝いている。魔力の光だ。
神々の権能で生み出されたワルキューレは死体を残してこの世界から去ることもできない。
「できればもっと話したかったよ」
もっと早く空中庭園のことを知っていれば、俺の日々は楽しいものになっていただろう。空の上でキャンプだってできたはずだ。それに、エルダードラゴン迎撃も。
「…………」
隣を見れば、ユニアはカップに口をつけたまま、考え込んでいた。
「ユニア……」
ヒルガルドに見つめられ、ユニアが動く。表情の変化が少ない彼女だが、今は別だ。古い友人を見つめるその瞳は僅かに揺れている。
「ヒルガルド。神々から与えられた使命ではなく、自らの役目を見つけたワルキューレ。あなたの友人であることを誇りに思います。どうか、安らかに」
「ええ、貴方も。元気でね」
それは、ユニアとヒルガルドが交わした、最後の言葉となった。
空中庭園のワルキューレは俺達の前で、数秒で全身を光へと変えて、この世を去った。
まるで、彼女の存在自体が夢か幻だったかのような、美しい最後だった。
「これは……?」
ヒルガルドが消えた場所に、一つだけ彼女の痕跡を示す物があった。
細身の優美な槍。ワルキューレたる彼女の神具だ。
「推測ですが、今回の件の報酬ではないでしょうか?」
「戦神は結構律儀なところがあるよな」
神託を受けて行動してくれた礼ということだろうか。あるいは、お気に入りの場所の最後を見届けたからか。この世界の神様は人間くさいところがあるから後者かもしれない。
剣、槍、弓に変形するワルキューレの神具。強敵相手に戦うとミスリルの武具でも足りない俺には有り難いが……。
「ユニア、これはお前が持っていてくれ」
手に取った神具を、俺はそのままユニアに手渡した。
「良いのですか? これは店長への報酬だと判断しますが」
「ヒルガルドの形見だよ。……でも、困ったときに貸してくれると嬉しいな」
「ありがとうございます。いつでも使える状態に手入れすることを誓います」
礼を言われたが、大したことじゃない。ふさわしいと思う人に渡しただけだ。
「ワルキューレって、この後どうなるんだ?」
「個体によります。元いた神の所へ魂が戻りますが、神界で再生されるかは不確定です。特に、ヒルガルドやわたしのような、複数の神によって創造されたワルキューレはどうなるかわかりませんね」
「そうか。神界へ行った時の楽しみが増えるかと思ったんだけどな」
「少なくとも、魂は保管されるかと思います」
彼女は戦神のお気に入りだ。あれだけ手出ししてきたんだから、神界で魂を確保しているだろう。
「戦神と話す機会があったら、その後を聞いてみよう」
「宜しくお願いします。それで、帰りはどうします?」
ユニアがテーブル上に空のカップを置いて、聞いてきた。俺の方もすでに飲み終わっている。さすがは神々を出迎えた腕前。お茶はとても美味しかった。
「ゆっくり歩いて帰ろう。早すぎると怪しまれる。それに、ヒルガルドの話を聞いてみたい」
「喜んでお話します。店長」
どこか、空中庭園の主を思わせる柔和な笑顔で答えたユニアと共に、俺は帰途についた。
ちなみに帰りの道すがら、ヒルガルドについての話をひたすら聞かされ続け、四ループはしたのは別の話。
ユニアの一撃を受けて墜落したエルダードラゴン。
それはすぐに俺が収納魔法で回収した。これを冒険者協会で買い取って貰えばかなりの財産だが、素材として出回った後がちょっと恐い。エルダードラゴンともなると、牙一本がかなりの力を持つ。
それとは別の問題は、戦闘開始と同時にユニアのスリープで眠ったドラゴンとワイバーンである。連中はまだ健在で、落下したダメージを受けてなお元気な個体が多かった。特にドラゴン。
幸い、ユニアの魔法はまだ効いていた。
そんなわけで俺達は、地面に落ちたドラゴンとワイバーンに一匹ずつ丁寧にトドメを刺していったのである。
始末したのは合計十九体、結構な数である。
空の上から落ちた範囲が広かったので、ちょっと難儀した。なにせ空中庭園の周辺は山なので。
一応、ドラゴンは小型のものを残して、収納。ワイバーンは全部残した。
「なぜ全ての魔物を収納してしまわないのですか?」
全てが終わった後、ヒルガルドの家の中で一息つくとユニアが聞いてきた。
「これは俺の打算なんだが、報告したあと冒険者がここに派遣されてくるはずだ。そこでお宝を発見すれば、どうなると思う?」
問いに対するユニアの反応は早かった。
「この地域の冒険者相手へ需要を創出するつもりですか」
「そうだ。銀の森が安定しちゃったからな。他の何かが必要なんだ。出来たての遺跡と聞けば冒険者がこの地域に帰ってくるはず」
空中庭園はヒルガルドと共にもうすぐ停止する。その後の扱いは、俺達に委ねられた。
とはいえ、大きい上に既に崩壊しているので、これくらいしか使い道を思いつけない。
「やっぱり駄目か?」
友人が長年管理していた場所が冒険者に荒らされるわけだ。ユニアは嫌がるだろう。
「……いえ、良いと思います。元に戻すのは不可能ですし、神話の時代の品は遺跡になるのが今の世の中に相応しいかと」
少し考えた後、ユニアはそう言ってくれた。その様子は想像以上に穏やかだ。先ほどの戦いで、彼女も心の整理がついたといったところか。
「遺跡……ですか。そうですね、私もその案に賛成です。遙か昔に神々は去っています、空中庭園が今でも稼働しているのは望ましくない状況だったのでしょう」
お茶を淹れながら、柔和な笑みをたたえつつ、ヒルガルドが言った。
テーブル上に並ぶカップは二つ。俺とユニアの分だ。彼女自身のカップは無い。
そろそろ時間だ。
「最後の記憶がこの家の中で、友人と共にあることを嬉しく思います。神託があったとはいえ、来てくださったことを、心からお礼申し上げます。イスト様、ユニア」
鎧姿ではなく、薄い緑色のワンピース姿のヒルガルドはそう言って一礼した。よく見ると、体の端々が輝いている。魔力の光だ。
神々の権能で生み出されたワルキューレは死体を残してこの世界から去ることもできない。
「できればもっと話したかったよ」
もっと早く空中庭園のことを知っていれば、俺の日々は楽しいものになっていただろう。空の上でキャンプだってできたはずだ。それに、エルダードラゴン迎撃も。
「…………」
隣を見れば、ユニアはカップに口をつけたまま、考え込んでいた。
「ユニア……」
ヒルガルドに見つめられ、ユニアが動く。表情の変化が少ない彼女だが、今は別だ。古い友人を見つめるその瞳は僅かに揺れている。
「ヒルガルド。神々から与えられた使命ではなく、自らの役目を見つけたワルキューレ。あなたの友人であることを誇りに思います。どうか、安らかに」
「ええ、貴方も。元気でね」
それは、ユニアとヒルガルドが交わした、最後の言葉となった。
空中庭園のワルキューレは俺達の前で、数秒で全身を光へと変えて、この世を去った。
まるで、彼女の存在自体が夢か幻だったかのような、美しい最後だった。
「これは……?」
ヒルガルドが消えた場所に、一つだけ彼女の痕跡を示す物があった。
細身の優美な槍。ワルキューレたる彼女の神具だ。
「推測ですが、今回の件の報酬ではないでしょうか?」
「戦神は結構律儀なところがあるよな」
神託を受けて行動してくれた礼ということだろうか。あるいは、お気に入りの場所の最後を見届けたからか。この世界の神様は人間くさいところがあるから後者かもしれない。
剣、槍、弓に変形するワルキューレの神具。強敵相手に戦うとミスリルの武具でも足りない俺には有り難いが……。
「ユニア、これはお前が持っていてくれ」
手に取った神具を、俺はそのままユニアに手渡した。
「良いのですか? これは店長への報酬だと判断しますが」
「ヒルガルドの形見だよ。……でも、困ったときに貸してくれると嬉しいな」
「ありがとうございます。いつでも使える状態に手入れすることを誓います」
礼を言われたが、大したことじゃない。ふさわしいと思う人に渡しただけだ。
「ワルキューレって、この後どうなるんだ?」
「個体によります。元いた神の所へ魂が戻りますが、神界で再生されるかは不確定です。特に、ヒルガルドやわたしのような、複数の神によって創造されたワルキューレはどうなるかわかりませんね」
「そうか。神界へ行った時の楽しみが増えるかと思ったんだけどな」
「少なくとも、魂は保管されるかと思います」
彼女は戦神のお気に入りだ。あれだけ手出ししてきたんだから、神界で魂を確保しているだろう。
「戦神と話す機会があったら、その後を聞いてみよう」
「宜しくお願いします。それで、帰りはどうします?」
ユニアがテーブル上に空のカップを置いて、聞いてきた。俺の方もすでに飲み終わっている。さすがは神々を出迎えた腕前。お茶はとても美味しかった。
「ゆっくり歩いて帰ろう。早すぎると怪しまれる。それに、ヒルガルドの話を聞いてみたい」
「喜んでお話します。店長」
どこか、空中庭園の主を思わせる柔和な笑顔で答えたユニアと共に、俺は帰途についた。
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