転生チートで英雄になったんですが、スローライフしたいです(切実)

みなかみしょう

文字の大きさ
42 / 58

42.

しおりを挟む
 カンガルースタイルというキャンプ用語がある。四方を覆うことができる大型のスクリーンタープなどの中に小さなテントを配置するというやり方だ。見た目としては二重のテントの中で過ごすようになる。
 テントの中にテント。言葉にすると奇妙に聞こえるが、実際に見てみるとなかなか好奇心をくすぐるやり方だ。

 閉じることができる巨大な前室と、その奥にある休息用の部屋。なんというか、ちょっとした秘密基地のような形になるのが個人的にとても好ましい。
 タープの中に薪ストーブでも置けば、自分だけの空間がキャンプ場に出現だ。四方を閉じれば外からの視線を完全に閉じることができるし、内部のテントの汚れも減るのが良い。

 前世でちょっと憧れだったこの形式に、俺はついに辿り着いた。
 さる筋に依頼していた、大きめのスクリーンタープ……のようなものがついに届いたのである。これといつも使っているテントを組み合わせれば、カンガルースタイルの完成だ。
 残念なのは今の季節が初夏であることで、せっかくつけてもらった小型薪ストーブの煙突用の穴は活用できない。

 ともあれ、準備は出来た。俺は新しいキャンプギアが入荷したその日の夜に、しかるべき場所でカンガルースタイルの実践を行った。

「思った通り、いいもんだな」

 ランタンの明かりに照らされたタープの中、小型のテーブルと椅子に座ってお茶を楽しみながら、俺は一人そうこぼした。
 軽く振り返ればそこには小型テントがある。周囲の視界は閉ざされていて、なんだか落ち着く。ここは俺が作った、自分のための即席プライベートスペース。何とも言えない満足感が、湧き上がってくる。
 この静かな時間を大切に使いたい。そう思った時だった。

「お、いたいた。お前さん、なんで自分ちの庭で野営しとるんじゃ。……って、二重テントとか意味わからんな」

 俺の静かな時間は、ハーフ・ハイエルフのぶしつけな言葉で崩壊した。

「ハ、ハスティさん。近くに来たなら声かけてくださいよ! 気配感じなかったし!」

「うむ。新しい隠行の魔法は優秀なようじゃな。いや、店の方にいったらユニアからここにいると聞いてのう。それで、テントが二重になっている意味はなんかあるんじゃろう?」

「こうすることで、落ち着いた空間を作れるんですよ。空間が二重になるんで暖かいですし」

「冷暖房なら魔法でどうにかできるじゃろうに……」

「魔法が一般的じゃない世界もあるんですよ……」

 言いながら折りたたみの小型椅子を用意する。ファンタジー世界の住人にアウトドア趣味の概念を理解して貰う難しさが身に染みるな。

「この前の話からまだ三日なんですけど、早いですね」

 ハスティさんの分のカップを用意して、お茶をいれつつ聞く。ついでに光の魔法を天井付近に飛ばして光源も増やす。キャンプの雰囲気を味わうためにランタンだけにしていたので、中は薄暗かったのだ。

「うむ。ウジャスの町で優秀な職員が加入したのが大きかったのう。おかげで情報の精査が早かった」

 例の魔法使いの気の毒な息子か。元気にやっているようで何よりだ。
 ハスティさんは俺の淹れたお茶を一口飲んで、満足気に頷いてから話を続ける。

「お前さんとユニアに、辺境大陸でやってもらいたいことがある。クリスの周りがちょっと一触即発の状況になっておっての」

「……それは、ちょっとという状況に聞こえないんですが」

 クリスというのは『魔王戦役』時の俺の仲間のことだ。太陽神の神官で、魔王討伐後は辺境大陸の復興を担うリーダーとして活動している。元々は地方神殿で下働きをしていたところ、俺達に会って旅をする内にメキメキと力を付けた叩き上げ。実力も人望も、見た目も優れた女性の聖職者だ。

 そんな彼女の周囲が一色触発とは、どういうことだ?

「辺境大陸では、魔王軍に壊された町の復興を続けておる。同時に、土地の調査や開拓もしておるのは知っておるな?」

「ええ、新聞で読む限りは順調みたいですけれど」

「うむ。順調じゃ。ただ、力関係が最近おかしい。食料輸入のため、このビフロ王国から出向しておる人間の周辺がおかしいのじゃよ」

「人材選定は相当慎重にやったはずですよ」

 魔王によってボロボロになった辺境大陸の復興は重要だ。未開の陸地は全体が資源なのだから。ビフロ王国からは食糧支援を円滑に行うため、信頼できる人材が派遣されている。

「うむ。慎重にやっておった。おかしいのはここ数ヶ月の話じゃ。クリス達が大規模な調査に出ておる間、ビフロ王国出身の官僚が雇った傭兵と組んで、権力の拡大を画策しておる」

「クリスの立場が悪くなるくらいですか? 下手すれば前の俺より人気があるのに?」

「そこが怪しいんじゃ。雇った傭兵がとんでもなく強力での。クリスを差し置いて、侵入した魔物達相手に連戦連勝。後ろ盾からの食糧供給も潤沢で急成長なのじゃ」

 辺境大陸はまだ土地が貧しい。ビフロ王国からの輸入は命綱だ。話だけ聞くと、上手く状況を利用しているようだが。

「一触即発っていいましたけど、権力争いでそこまでいくんですか?」

「辺境大陸の開拓民は寄せ集めじゃ。できるだけ一枚岩に近い方が良い。派閥が出来て、片方が野心を隠しもしなければ、火が点くのは思ったよりも早いものじゃよ」

「今はまだ目に見えないだけか……」

 恐らくクリスは状況をどうにかしようと奔走しているだろう。だが、ずっと戦ってたタイプの聖職者なので政治の方は上手くない。しかも相手がやる気となれば、乗せられてしまう可能性が高い。

「儂はこの件、例の魔物達が絡んでいると思っておる。ビフロ王国からの人材が、野心を急に抱いた理由があるはずじゃ」

「それを、俺達に確かめてこいと? なにもなかったらどうするんです?」

 内偵に向かうのは異論はない。仲間のピンチだし。でも、空振りという可能性だってある

「その時はその時で別の手を打つのじゃ。現在進行形で、一番怪しいのはこの件なのでな」

「……わかりました。転送はお願いしても?」

「まかせるのじゃ。ユニアが戻ってきたら再度打ち合わせして、魔法で送るのじゃよ」

「戻ってきたら?」

 時刻は夜、ユニアは店を閉めて家に居るはずなんだが。

「お前さん、キャンプをする時に使う高級食材をユニアに分ける約束しとるじゃろ。今日の分をもらったら、例のフレナという娘と食べると言って、料理しにでかけたぞい」

「……彼女が帰り次第打ち合わせをしましょう」

 俺が自由に過ごしているなら、ワルキューレも自由に過ごしていたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...