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12.曇り山の戦い1
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そこから山頂までの道のりは順調だった。
岩だらけの足場の悪い山道を俺達は慎重に登った、それだけだ。
隠れる場所が多いので不意打ちに対して神経を使ったが、幸いなことに魔物とは出くわさなかった。
山頂に近づくにつれて嫌な予感が強くなったので、出来るだけこっそり接近することにした。
周囲がどす黒く枯れた植物と黒く変色した岩なのが不気味だったのが、より慎重に行動させたと言える。
休憩を挟みながら到着した山頂。
そこにシャドウ・リザードはいた。
見た目通りの平らな山頂。瓦礫と建物の痕跡が見てとれるその場所に、奴はいた。
岩陰から覗く俺達は、シャドウ・リザードを見て絶句していた。
「……なあ、あれをこの世界じゃリザードって言うのか? 俺の知識はドラゴンって言ってるんだが」
「ご安心を。カーン様の知識は正しいですわ。わたくしもそう思いますもの」
「…………」
セインは驚きのあまり何も言えなくなっている。
黒い鱗の巨大なトカゲ、ってかドラゴンがそこにいた。翼はないが、明らかにドラゴンだ。
ドラゴンは俺達の接近に気づいた様子もなく眠っている。たまに豪快に寝息を吐き、そのたびに周囲がうっすらと黒い瘴気に包まれる。
「ど、どうする? とりあえず気づいてないみたいだから奇襲で……」
「ドラゴンにしては小ぶりですから、しっかり魔法を準備すれば攻撃は通るはずですの」
「……長期戦になると危険です。あのドラゴン、瘴気を出していますから」
「…………それ、ヤバそうだな」
セインの言葉を聞いて、俺とシーニャの士気がわかりやすく下がった。
「人間が濃度の高い瘴気にさらされると、体調や精神に変調を来します。私の神聖魔法で軽減できますが。――そもそも、ドラゴンに勝てるのでしょうか?」
セインは実戦経験豊富な元聖騎士だ。彼女の意見を無下にはできない。ここで何も考えず突撃して返り討ちなんてのは御免被る。
「よし、ちょっと戻って作戦を練ろう」
ドラゴンに気づかれないようにこっそりと途中まで下山した俺達は、岩陰を見つけてそこで話し合うことにした。
「ちょっと待っててくれ」
俺は神様ノートとペンを取り出す。あの神様、かなりの即レス対応だからすぐに返事をしてくれるはずだ。
[カーンのノートへの記述]
妖精からの依頼でシャドウ・リザードとかいうのを退治に来たんですが、なんかドラゴンっぽいです。ステータスを教えてください。
一分後、返事が来た。ちょっと恐い速さだ。
[神様からの返信]
【スモール・ダークドラゴン】
種族:ドラゴン
職業:曇り山の支配者
力 :265
魔法:44
速さ:65
防御:180
魔防:62
スキル:
・ブレス:闇のブレスを吐く。準備動作を必要とする。
・瘴気の王:体内から吹き出す瘴気によって周囲を汚染する。
※翼を持たず、力の強いドラゴンです。シンプルなパワー型と思いきや、瘴気によって徐々に周囲を汚染し、自分の住みやすい環境に変えていきます。
※非常に危険な魔物です。放置していれば近い将来、妖精の里を滅ぼすでしょう。
※天使は瘴気を初めとした邪悪な属性攻撃を無効化できます。また、ブレスも半減です。貴方なら耐えられるでしょう。
※ステータス的に格上ですが、3人で戦いを挑めば攻略可能です。仲間を信じて盾になりましょう。
「やっぱりドラゴンじゃねぇか……」
神様からの返信を読んで頭を抱える俺を見て、ライクレイ姉妹が心配そうに聞いてくる。
「その本に何が書いてあったんですの?」
「もしかして、神からの啓示ですか? 流石はカーン殿ですっ」
「セインの言うとおりだ。あの魔物について神様に聞いてみた。……残念ながら、ドラゴンで間違いないそうだ」
「…………」
一気にテンションが下がる二人。気持ちはわかる。
「一応、神様が言うには俺達三人で倒せると書いてある。対処法も教えてくれた」
「本当ですのっ!」
「い、一体どのような秘策が!」
二人とも期待に満ちた目で見ている。きっと、楽勝できるような奥の手を期待してるんだろうなぁ。
「俺が盾になって、頑張って戦えばいいそうだ」
二人のテンションが再び一気に下がった。
話し合いの結果、俺が肉壁になってドラゴン退治をすることになった。
ファンタジー世界は地獄だ……。
作戦(というほどのものではないが)が決まったので、俺達は早速準備を開始した。
「光の神よ……。我らに災いを退ける加護を……」
セインが信仰する神に祈りを捧げると、俺達三人がうっすらと青白く輝く光に覆われた。
ダークドラゴンの瘴気から身を守る加護だ。
「おお、俺にもちゃんとかかったな」
「驚きですわね」
別の神の使徒である俺には、この世界の光の神の加護が効かないのではと危惧していたのだが、問題ないようだ。懐の広い神様で助かった。
「光の神は寛容です。例え別の神の使徒であろうと、意義ある戦いに赴くならば護ってくださるのです」
セインはそう言うと、剣を抜いて、そこにも加護を願う。
「シーニャの魔法じゃダメなんだな」
「ダークドラゴン相手ならセインの神聖魔法で武器を強化する方が良いのですわ。わたくしはカーン様とセインの防御と、攻撃魔法の担当ですわね」
「カーン殿の斧への加護は必要ないのですか?」
「ああ、これは神具みたいだからな。試しに攻撃して駄目だったら頼む」
ドラゴンお約束の高い防御力はこの世界でも同様らしいが、俺の斧なら通用するはずだ。
とはいえ、この戦いでの俺の役目は基本は盾だ。防御魔法を貰ってドラゴンの攻撃を捌きつつ囮になり、その間にセインとシーニャがドラゴンにダメージを与える。弱って動きが悪くなれば、とどめに俺の出番だ。
大丈夫、防御力には自信がある。ステータスで一番高いしな。
「カーン様に守りを、さらに守りを、もっともっと守りを……」
俺相手に杖を振りながらシーニャが適当な感じの呪文を唱えた。
「なんか適当な呪文で不安なんだが」
「しっかり効果はありますのよ、ほら」
俺の不安に答えるように、全身を分厚い白い魔力の壁が包み込みはじめた。セインの加護との二重がけだ。
「魔法というのは準備につきます。呪文なんて、発動の合図程度なのですわ」
「そうなのか。いつか教えてくれ」
「この戦いを切り抜けたらですわね」
軽口のような口調でいうシーニャだが。表情は真剣そのものだった。
さて、ボス戦だ。最初の強敵がドラゴンなんて、冗談キツイぜ。
岩だらけの足場の悪い山道を俺達は慎重に登った、それだけだ。
隠れる場所が多いので不意打ちに対して神経を使ったが、幸いなことに魔物とは出くわさなかった。
山頂に近づくにつれて嫌な予感が強くなったので、出来るだけこっそり接近することにした。
周囲がどす黒く枯れた植物と黒く変色した岩なのが不気味だったのが、より慎重に行動させたと言える。
休憩を挟みながら到着した山頂。
そこにシャドウ・リザードはいた。
見た目通りの平らな山頂。瓦礫と建物の痕跡が見てとれるその場所に、奴はいた。
岩陰から覗く俺達は、シャドウ・リザードを見て絶句していた。
「……なあ、あれをこの世界じゃリザードって言うのか? 俺の知識はドラゴンって言ってるんだが」
「ご安心を。カーン様の知識は正しいですわ。わたくしもそう思いますもの」
「…………」
セインは驚きのあまり何も言えなくなっている。
黒い鱗の巨大なトカゲ、ってかドラゴンがそこにいた。翼はないが、明らかにドラゴンだ。
ドラゴンは俺達の接近に気づいた様子もなく眠っている。たまに豪快に寝息を吐き、そのたびに周囲がうっすらと黒い瘴気に包まれる。
「ど、どうする? とりあえず気づいてないみたいだから奇襲で……」
「ドラゴンにしては小ぶりですから、しっかり魔法を準備すれば攻撃は通るはずですの」
「……長期戦になると危険です。あのドラゴン、瘴気を出していますから」
「…………それ、ヤバそうだな」
セインの言葉を聞いて、俺とシーニャの士気がわかりやすく下がった。
「人間が濃度の高い瘴気にさらされると、体調や精神に変調を来します。私の神聖魔法で軽減できますが。――そもそも、ドラゴンに勝てるのでしょうか?」
セインは実戦経験豊富な元聖騎士だ。彼女の意見を無下にはできない。ここで何も考えず突撃して返り討ちなんてのは御免被る。
「よし、ちょっと戻って作戦を練ろう」
ドラゴンに気づかれないようにこっそりと途中まで下山した俺達は、岩陰を見つけてそこで話し合うことにした。
「ちょっと待っててくれ」
俺は神様ノートとペンを取り出す。あの神様、かなりの即レス対応だからすぐに返事をしてくれるはずだ。
[カーンのノートへの記述]
妖精からの依頼でシャドウ・リザードとかいうのを退治に来たんですが、なんかドラゴンっぽいです。ステータスを教えてください。
一分後、返事が来た。ちょっと恐い速さだ。
[神様からの返信]
【スモール・ダークドラゴン】
種族:ドラゴン
職業:曇り山の支配者
力 :265
魔法:44
速さ:65
防御:180
魔防:62
スキル:
・ブレス:闇のブレスを吐く。準備動作を必要とする。
・瘴気の王:体内から吹き出す瘴気によって周囲を汚染する。
※翼を持たず、力の強いドラゴンです。シンプルなパワー型と思いきや、瘴気によって徐々に周囲を汚染し、自分の住みやすい環境に変えていきます。
※非常に危険な魔物です。放置していれば近い将来、妖精の里を滅ぼすでしょう。
※天使は瘴気を初めとした邪悪な属性攻撃を無効化できます。また、ブレスも半減です。貴方なら耐えられるでしょう。
※ステータス的に格上ですが、3人で戦いを挑めば攻略可能です。仲間を信じて盾になりましょう。
「やっぱりドラゴンじゃねぇか……」
神様からの返信を読んで頭を抱える俺を見て、ライクレイ姉妹が心配そうに聞いてくる。
「その本に何が書いてあったんですの?」
「もしかして、神からの啓示ですか? 流石はカーン殿ですっ」
「セインの言うとおりだ。あの魔物について神様に聞いてみた。……残念ながら、ドラゴンで間違いないそうだ」
「…………」
一気にテンションが下がる二人。気持ちはわかる。
「一応、神様が言うには俺達三人で倒せると書いてある。対処法も教えてくれた」
「本当ですのっ!」
「い、一体どのような秘策が!」
二人とも期待に満ちた目で見ている。きっと、楽勝できるような奥の手を期待してるんだろうなぁ。
「俺が盾になって、頑張って戦えばいいそうだ」
二人のテンションが再び一気に下がった。
話し合いの結果、俺が肉壁になってドラゴン退治をすることになった。
ファンタジー世界は地獄だ……。
作戦(というほどのものではないが)が決まったので、俺達は早速準備を開始した。
「光の神よ……。我らに災いを退ける加護を……」
セインが信仰する神に祈りを捧げると、俺達三人がうっすらと青白く輝く光に覆われた。
ダークドラゴンの瘴気から身を守る加護だ。
「おお、俺にもちゃんとかかったな」
「驚きですわね」
別の神の使徒である俺には、この世界の光の神の加護が効かないのではと危惧していたのだが、問題ないようだ。懐の広い神様で助かった。
「光の神は寛容です。例え別の神の使徒であろうと、意義ある戦いに赴くならば護ってくださるのです」
セインはそう言うと、剣を抜いて、そこにも加護を願う。
「シーニャの魔法じゃダメなんだな」
「ダークドラゴン相手ならセインの神聖魔法で武器を強化する方が良いのですわ。わたくしはカーン様とセインの防御と、攻撃魔法の担当ですわね」
「カーン殿の斧への加護は必要ないのですか?」
「ああ、これは神具みたいだからな。試しに攻撃して駄目だったら頼む」
ドラゴンお約束の高い防御力はこの世界でも同様らしいが、俺の斧なら通用するはずだ。
とはいえ、この戦いでの俺の役目は基本は盾だ。防御魔法を貰ってドラゴンの攻撃を捌きつつ囮になり、その間にセインとシーニャがドラゴンにダメージを与える。弱って動きが悪くなれば、とどめに俺の出番だ。
大丈夫、防御力には自信がある。ステータスで一番高いしな。
「カーン様に守りを、さらに守りを、もっともっと守りを……」
俺相手に杖を振りながらシーニャが適当な感じの呪文を唱えた。
「なんか適当な呪文で不安なんだが」
「しっかり効果はありますのよ、ほら」
俺の不安に答えるように、全身を分厚い白い魔力の壁が包み込みはじめた。セインの加護との二重がけだ。
「魔法というのは準備につきます。呪文なんて、発動の合図程度なのですわ」
「そうなのか。いつか教えてくれ」
「この戦いを切り抜けたらですわね」
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