異世界モヒカン転生

みなかみしょう

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21.最後の仕事

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 その日が、最後の仕事だった。

 山賊狩りの報酬は莫大だった。おかげで俺達は目標である金貨二百枚をかなり早い段階で達成していた。目標達成後も山賊狩りをしていたのは、ヴルミナの治安に貢献するためと、「金は多い方がいい」と思ったからだ。
 ついでに言うと、この一連の仕事で、俺のステータスも良い感じに上昇していたので経験値稼ぎのつもりというのもあった。

【モヒ―・カーン】
種族:天使
職業:傭兵兼犯罪者(馬車を襲ったため)

力 :185
魔法:100
速さ:140
防御:250
魔防:170

スキル:
・超成長:物凄く能力値とかが上昇しやすい。
・肉体系魔法の素質(超):肉体系の魔法の素質がある。
・神のご加護(超):神様からの数々のご加護がある。
・投石L9
・投擲L5
・光神騎士団剣術L2
・斧戦闘L9
・サバイバルL3

 今の俺のステータスはこんな感じである。大分戦い慣れて来た。
 しかし、山賊退治くらいではステータスも変化しなくなっている。いろいろな意味で、潮時だ。


 そして、ついにその時が来た。
 俺達は今日の仕事で凶悪な山賊団の最後の一つを壊滅させた。街道の護衛などで小銭を稼いでいた山賊もどきはヴルミナの街に投降しはじめているという。
 これ以上この街に留まる理由は薄い。


「もうすぐ去ると思うと名残惜しいぜ……」

 街道を一人バギーで行きながら、俺は呟いた。
 仲間達は山賊のアジトで捕まっていた人や金品の確認している。俺は一足先に街へ知らせに走ったライクレイ姉妹と合流すべく、のんびり街道を走っているわけだ。
 
 ヴルミナの街の方角に紅い夕日がかかる。黄昏時だ。街に来てからのことを思い出し、俺は少しばかり感傷的になっていた。
 バギーの速度を少し落とし、心地よい風を受ける。街道から見える草原が夕焼けに映える。 
 このままゆっくり街に帰ろう、そう思った時だった。
 前方で街道が爆発した。
 轟く爆音と巻き上がる土煙。距離にして数百メートル程度の場所で、何かが起きている。

「……やべぇ予感がするな」

 俺は片手で斧を持ってから、バギーの速度を上げた。
 現場にはすぐに到着した。俺への攻撃はなかったが、かわりにとんでもない光景が広がっていた。

 街道の瓦礫が散乱し、そばに横たわる二人の人間。
 シーニャ・ライクレイとセイン・ライクレイ。

「……っ! 二人とも、何があった!」

 倒れた二人から返事はない。俺はバギーを慌てて降りる。

「へぇ、そんな見た目だったんだぁ。おっもしろーい」

 そんな言葉と共に、土煙の向こうから一人の女が現れた。
 赤い髪の少女だ。まだ十代前半くらいに見える。胸や肩といった場所だけを防御する鎧に身を包んだ軽装の剣士。
 状況的に、こいつが今の爆発を起こしたって事か。

「……てめぇ。何もんだ」

 俺は斧を構えて言った。姉妹のことが気になるが、こいつから目を離せない。
 シーニャとセインは強い。それをたった一人で倒したというなら、油断していい相手じゃない。
 少女は抜き身の剣を俺に向け、言い放った。

「ボクはフィーティア。女神の三騎士の一人さ。神の使徒モヒー・カーン。君の力を見せてちょうだい!」

 言うなり、フィーティアはその場で跳躍した。助走無しに十メートルはある彼我の距離を一気に飛ぶ。人間にはありえない跳躍力だ。しかも早い。

「さあ! 神の使徒の力を見せてよ!」

 言いながら振りかぶられた剣は光輝いている。やべぇ、魔法の剣か。

「チッ! 何がなんだかっ!」

 俺は素直に魔法剣の一撃を斧で受け止めた。

「うおおおおおお!」

 攻撃を受けた瞬間、全身を衝撃が駆け抜けた。気絶するほどではないが、結構な痛みだ。

「このっ、しゃらくせぇ!」
「うわわっ」

 次撃にうつろうとしていたフィーティアに向けて斧を振り回すと、それは予想外だったらしく慌てて回避された。
 数メートル先に着地したフィーティアが驚きの目で俺を見た。

「すごいね。今の攻撃、普通の人なら死んでたよ?」
「あん? ちょっと痛い程度だったぞ」

 俺はただでさえ魔法防御が高い上に、天使の種族特性もある。そのおかげだ。
 しかし、いきなり人が死ぬような攻撃をしてくる奴にシーニャとセインはやられたのか……。

 俺が倒れた二人に目を向けると、それに気づいたフィーティアがにんまり笑いながら言った。

「大丈夫! 死んでないよ! ボクがあなたに会うのを邪魔しようとしたから、ちょっと痛めつけただけ! 楽しかったぁー」
「てめえ……っ」

 憤りながら斧を構えるが、俺は斬り込まない。こういう時こそ冷静な行動を取らなきゃならない。幸い、俺は感情を制御できる種族だ。
 まずは、ステータス鑑定だな。

【フィーティア・スオン】
種族:人間
職業:女神の騎士

力 :76(152)
魔法:48(96)
速さ:123(246)
防御:67(134)
魔防:65(130)

スキル:
・女神の加護(弱)(ステータスを2倍する)
・一般攻撃魔法全般L6:属性に関係なく攻撃魔法全般を使える。
・一般防御魔法全般L4:結界に代表される魔法全般を使える。
・一般援護魔法全般L6:回復、能力強化などの援護魔法全般を使える。
・魔剣技L10:魔法と剣を組み合わせた秘剣。

備考:魔剣技と呼ばれる非常に珍しい剣技の使い手。


 ……こいつ、やべぇな。ステータスだけなら俺と互角くらいだけど、持ってるスキルからして戦いの練度が高い。
 山賊相手に経験を積んだとはいえ、自分と互角に戦いうる敵に会ったのは初めてだ。
 いや、不安があるのは事実だが、落ち着け。こいつを倒さなきゃ、姉妹の治療もできないし、先に進めない。
 それに、せっかく女神の三騎士なんてあっちの国の重要そうな奴が出てきてくれたんだ。倒して情報を得るチャンスだ。

「悪いが……いや、悪くねぇな。とっとと片づけて二人の治療をさせて貰うぜ」
「へぇ、自信あるねぇ」
「もちろんよ!」

 叫ぶと同時、俺は斧を投擲した。高速回転する斧がフィーティアに向かって飛来する。

「そんなの当たらないよ!」

 結構な速度の斧をやすやすと回避し、俺に接近するフィーティア。握った長剣が青い輝きを放っている。
 あれを食らうわけにはいかねぇ。

「はぁっ!」
「ぬおおおりゃあ!」

 見苦しい雄叫びをあげて、俺は全力で回避した。こんなことなら盾でも買っときゃ良かったか。いや、受け止めた瞬間に魔剣とやらにやられる気がする。
 ここは逃げの一手だ。向こうの方が速いが、形振り構わなければ、ある程度は避けれそうだ。
 的確にこちらを捕らえる動きと速度で斬り込んでくるフィーティア。
 俺はそれを地面に転がったりしながらも、無様ながら何とか回避する。たまに攻撃がかすめて凄く痛い。

「このっ! 図体の割に早い! このぉ!」
「うおおっ、あぶねえっ!」

 魔剣から青い光が飛び出してきた。避けた先にあった岩が砕けたぞ。おっかねぇ。

「避けることしかできないの? がっかりだよ」
「そうかいっ」

 そう言って、俺は手の中にあったものを連続で指先で弾いた。
 いきなり自分の顔目掛けて何かが飛んできて、反射的にフィーティアが剣を振るう。

「なっ……! ……石?」
「その通りだ」
 
 俺の攻撃の正体は地面を転がった時に拾った小石だ。俺の怪力と投石レベル9を合わせれば、小石を指で弾くだけで鳥くらい撃ち落とせる凶悪な飛び道具となる。

「そらそらそら!」
 
 両手いっぱいの小石を連続で弾く。女神の加護とやらで強化されていても無視できない攻撃だ。

「面白い技だけど正体がわかれば大した事無いよ!! 風の魔剣!!」

 フィーティアの剣が眩しいくらいの輝きを放った。まるで、セインの魔法剣の力を全開にした時のようだ。
 魔法の力と共に、周囲の風がフィーティア目掛けて集まっていく。俺の周りに台風みたいな強風が吹き荒れた。
 放った石弾はフィーティアの周りで吹き荒れる風に巻かれて地面に落ちた。

「いっけぇ!」
「やっべぇ!」

 俺は本能的にその場を飛び退いた。
 風の音なんて生ぬるいものじゃないくらいの轟音が響く。
 フィーティアの直線上の地面が剣から放たれた暴風によって抉れていく。魔剣の攻撃は一瞬で先ほど俺がいた場所を通過し、地面に豪快な爪痕を残した。

「……なんておっかねぇ奴だ」
「勘のいい人だね。でも、避けてくれてありがとう。うっかり殺しちゃうところだったよ」

 言いながら、再び光り輝く剣を構えるフィーティア。……俺に押し勝てると思ってるな。

「俺に勝てると思ってるな?」
「もちろん! 楽しいけれど、もう実力は見切ったからね!」

 笑顔で肯定したフィーティアに俺は言う。

「それはどうかな?」

 俺がそう言うのと同時に、この場に飛来するものがあった。
 右手を掲げ、それを手にする。
 最初に投擲した斧が、俺の手に返ってきていた。

「ウソっ! なんで戻ってくるの!」
「こいつは俺の手元に必ず戻ってくるんだよ!」

 俺の斧は特別製。ブーメランモードで投げれば、「元の場所」ではなく、「俺のところ」に戻ってくる。最初に剣で叩き落とされたりしなければ、いきなり手元に戻って相手の意表をつくこともできる。

 そして、斧の能力はそれだけじゃない。神様の嫌がらせなコマンドワードを仕込まれた、スペシャルな機能。

「汚物は消毒だあああああ!」

 俺はフィーティア目掛けて、爆炎を放った。

「風よ、巻け!」

 俺の視界にフィーティアが剣を身体の前に構えた。彼女の周りに風が吹き荒れ、爆炎から護るバリアになるのが見えた。
 すぐに炎に包まれ、フィーティアの姿は見えなくなる。
 俺は即座に、右手に填めた妖精の腕輪を発動させ姿を隠した。

 既に炎はないが、熱くなった空気の中を一気に駆け抜ける。
 フィーティアは無事だった。爆炎を受けてほぼ無傷だ。おっかねぇ。

「なっ! いない!」

 しかし、俺の姿は見失っている様子。ここは容赦なくいかせて貰う!

「少し大人しくしてな!」

 俺は姿を隠したまま、フィーティアを殴り飛ばした。

「ごふっ」

 呻き声ですらない音を残して、女神の三騎士の一人とやらが吹き飛び、地面に転がった。
 俺は姿を現し、動けなくなったフィーティアを観察する。倒れているが、死んだわけじゃ無さそうだ。でも、しっかり意識は失っている、結構強く殴ったからな。
 女の殴るのは気が引けたけど、防御力も高いみたいだからと思い切ってやってみた。内蔵とか、大変なことになってなきゃいいが。

「おっと、先にシーニャとセインだな」

 倒れて動かないフィーティアは置いといて、俺はシーニャとセインの様子を見に向かった。
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