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第35話:マイスの作戦、そして

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 フォミナと別行動になって六日目。オレはテレポート屋を開業していた。

 知名度のため地道に依頼を受けることにして、商人の護衛をしたのがきっかけだった。近くの町に到着して、帰り道で更に別の商人をザイアムの町まで連れて行くことになった。

 そこでオレは自分のレベルが上がりまくっているおかげで、転移魔法テレポートを使えることを思い出した。
 帰り道の商人はテレポートで一瞬で移動して、物凄く感謝された。ちょっと報酬に色をつけてくれたくらいだ。

 商売において、移動の時間は少ない方がいい。
 そこに商機を見出したオレは、まず冒険者ギルドに向かった。
 のべつまくなし、商人の護衛を受けるのは良くない。それに、他の冒険者の仕事を奪うことになって面倒を抱えるのもご免だ。

 オレはギルドで正直にテレポートを使えることを話し、大商人や金持ちなどの貴重品をテレポートで即時で運ぶ仕事を回して貰うようにしてもらった。
 一言でいうと簡潔だけど、話し合いはそれなりに大変だった。ギルドの偉い人とか出てきて、それでそこらじゅうの町にテレポートをして、証明したりもした。

 オレはギルドの人と協力して、馬車と魔法を駆使して二日がかりでザイアム周辺の町を移動。一度行った町はテレポートできるという特性を最大限生かした個人輸送の準備を整えた。
「魔法屋の集団の人達、送り届けてきました」
「お疲れ様です。次の準備をしていますので、少しお休みください」
「わかりました」
 
 この辺りの魔法屋の偉い人という団体さんを、東の町へ送り届けて戻ると、受付さんが明るい笑みを浮かべて、言ってくれた。

「ギルド長から伝言で、食事など必要なら言って欲しい、だそうです。実はあの団体さん、いつも護衛や移動のスケジュールでうるさい人達だったんですよ」
「あー、なるほど。ちょっとわかりますね」

 年齢が上の面倒くさいタイプの人達だった。オレが魔法を使うまで半信半疑な様子だったし、いざ移動した後は、雇おうと勧誘されて大変だった。孫娘を嫁に、とまで言う人までいたし。

「今年は安心して送り出せた御礼ということで、遠慮しないでくださいね」
「わかりました。ゆっくりさせてもらいます」

 そういって、オレはギルド内に用意された小部屋に向かった。テレポートが使えるのはレベル六十から。そんな高レベルの冒険者はザイアムには殆どいないし、こうしてギルドに貢献しているということで特別待遇にしてもらっている。

 ちなみにギルド内での他の冒険者からの印象は完全に「テレポ屋」になってしまった。冒険に出ないで輸送ばかりしてる変わり者と思われているようだ。ただ、高レベルのウィザードなんて大体変わり者だからという共通認識があるようで、あんまり困っていない。

 ギルド側も輸送の仕事量を調節してくれていて、他の人の仕事を奪わないようにしている。敵を作りにくく、名前を売るという、オレ的には悪くない労働環境が完成していた。

「さて、一服した後の今日の業務は……と」

 ビジネスホテルくらいの狭い部屋で、椅子に座って仕事の書類を見る。今日の残務は後三件。全部行ったことのある場所だから、準備が出来次第すぐに終わる。
 仕事の後は軽くどこかで食べてしまおう。次の休みはどうしようかな……。

「……いかん。完全に気持ちが会社員になってしまった」

 朝起きてギルドに出勤、用意されてる仕事をこなして帰宅。数日、これを繰り返しただけで、気持ちが前世の会社員に戻っていた。恐ろしいな、遺伝子レベルにまで刻まれた現代社会の習慣は。

 オレがわざわざこんな仕事をしているのは、権力者に目を留めてもらうためだ。既にギルド始め、色んな方面に顔が売れ始めている。フォミナとは別ルートで、ザイアム辺境伯の娘、エリアと接触する機会ができればいいんだが。

 しかし、帝国についての情報は驚くほど入ってこないな。

 期間は短いが、既に偉い人とそこそこ接触をしている。隙あらば帝国と北方商業連合のことを聞いているんだが、返事はどれも曖昧だ。

 本当にわからないのか、容易に話せないのか。判断しかねる。もし後者なら、初対面の冒険者になど話せないくらい状況に動きがあるということになるんだが。

 せっかくだからと、軽食とドリンクを頼んでゆっくり過ごしながら、しばらく考えていたけれど、結論はでなかった。

「マイスさん、準備ができたそうです。次のテレポートをお願いします」
「わかりました。色々とありがとうございます」

 そうこうしている内にギルドの職員さんがやってきて、仕事が再開した。次に運ぶのは絵画なんかの貴重品だったかな。
 今日の仕事の内容を思い出しながら、オレはすぐに仕事に戻った。

 テレポートの魔法は一瞬で終わるので、輸送の仕事はすぐ終わる。
 本日残り三件の輸送の仕事は、準備が整っていたおかげで、すぐに終わった。
 
 後は明日の仕事の打ち合わせをして、帰宅。一仕事終えた気持ちで、ギルド内の部屋で書類にサインをしている時のことだった。

「マイスさん、お客様です」

 職員さんがノックと共にそんなことをいってきた。

「? どうぞ」

 オレに会いに来る客なんてフォミナくらいしかいないんだけど、彼女まだどこかで神殿の仕事を手伝い中のはずだ。
 怪訝に思いながら、開いたドアの向こうを見て、オレは目を疑った。

「エ、エリア・リコニア?」
「そうよ。なによその顔、驚きたいのはこっちだって一緒なんだから」

 赤い髪に特徴的な髪型をした女性、領主の娘にしてメインヒロインの一人が、ドアの向こうに立っていた。
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