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第36話:辺境伯の娘

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 エリア・リコニア。燃えるような赤い髪が特徴的な、リコニア辺境伯の娘。『茜色の空、暁の翼』のメインヒロインであり、パッケージでもほぼ中央に位置している。
 能力的には白兵、魔法の双方が平均的に伸びていくバランス型。二次職で魔法剣士になることで、そのステータスを生かした戦い方ができるようになる。
 性格は快活かつ直情。気遣いできるが、ちょっとしたことで怒って拳が出ることがある。いわゆる暴力ヒロイン的な要素を持っている。

 彼女は帝国との戦乱において、リコニア辺境伯領で参戦。場合によっては死亡する。
 オレにとっては情報を得る上で、なんとか接触したい人物。

 それが、向こうから訪ねてきた。少しは有名になったかなとは思っていたけど、これは想定外だ。

「では、私はこれで。なにかご用件があればお呼びください」
「ありがと。無理をいってご免なさいね」
「いえ、ギルド長と領主様からの指示ですので」

 そう言って、ここまで彼女を案内したギルド職員が退室していった。なんか、物凄く上の人が動いたみたいだな。すると、エリアは領主の仕事としてオレに会いに来たのか?

「突然ごめんなさいね。……座っていい?」
「あ、ああ。どうぞ」
 
 打ち合わせ用に用意されたテーブルに二人で向かい合わせに座る。

「…………」
「…………」

 黙ってエリアを観察する。服装は赤を基調とした魔法剣士のもの。既に二次職にはなっているらしい。机に立てかけた赤い宝玉が填まった剣は、リコニア家に伝わる宝剣サラマンドラ。彼女の成長に合わせて能力が解放される特別な魔剣だ。

「……えっと、ご用件は?」

 互いに見つめ合って黙っていては話が進まないので、とりあえず聞いてみた。

「仕事で来たんだけど。あなた、本当にあの、マイス・カダント? 評判聞くと凄くまともなんだけれど。一年生の時、私を見るなり「オレと付き合え」みたいなこと言ってきた」

 こいつ、そんなことしてたのか。ゲームでは描写されて無かった気がするんだけど。あんまり良い性格してなかったから、納得ではある。

「昔のことについては謝る。オレが馬鹿だった。実家から見捨てられて、冒険者生活をしていれば、自然とまともにもなるよ」
「ごめんなさい。失礼なことを言ってしまったわ。そうね、三年もあれば変わるわよね。うん、今のあなたからは嫌な感じはしないわ。別人みたい」
「そ、そうですか」

 一瞬焦った。たしかエリアは<直感>とかいうスキルを持っているくらい勘がいい。ただ、悪意はないので誤魔化す必要は無い。

「学園卒業のウィザードが、ギルドと提携してテレポートで商売してると聞いてやってきたの。名前を聞いたら、同級生だったし」

 今のオレはウィザードではないんだが、そこは重要じゃないので黙って頷いておいた。
 どうやら、オレの作戦はうまくいったようだ。思った以上に効果的だったらしい。フォミナに申し訳ないな。

「それで、オレに何の仕事をさせる気だ」
「そんなに警戒しないで。先に失礼なこと言っちゃったし、正直にいうわ。私の仕事を手伝って欲しいの。お父様……リコニア辺境伯からいくつか頼まれたことがあるんだけれど、協力してくれる人を探すところで困ってるの」
「そんなの、ギルドに頼めば腕の良いのを紹介してくれるんじゃないのか?」
「そうなんだけれどね。できるだけ信頼できる相手が良いの。学園の卒業生で同級生ならと思ってきて、あなたの評判を聞いたのよ」

 なるほど。それで「まるで別人」という発想になったわけだ。学生時代と人物像が合致しなくて、さぞ混乱したことだろう。
 
「一応、オレは合格だったと思っていいかな?」
「ええ。なんか偉そうでごめんなさいね。辺境伯からの仕事なんで、ちょっと慎重にいきたいのよ」

 なんだろう。エリアが思ったより普通だ。ゲームだともっと頻繁に怒ったりしてたもんだが。

「なによ。不思議そうな顔して」
「いや、なんか想像より落ちついてるなと。エリアって、もっとうるさ……賑やかな感じだった気がするから」
「どういう意味よ! いえ、そーね。学園だと、なんか反射的に手が出てた気がするわ。変なの多かったし」

 変なの、というのは主人公始め他の主要人物だ。たしかに、突発的にイベントが開催されたり、トラブルが起きたり、ラッキースケベイベントが起きたりと、エリアが手を出す理由はそれなりにあったように思える。
 周りが大人であれば普通と言うことだろうか。ちょっと苦手なタイプだったから安心した。
「今の落ちついてるのが本来の姿ってことか」
「まあね。こっちじゃ私がすぐに手を出すってこと知ってるから。いえ、最近はすぐにしないように気を付けてるのよ?」

 単に実家方面だと対策がとられているだけだった。

「とりあえず、オレに何をさせるつもりなのか教えてくれないか?」

 本題に入るように促すと、エリアは少し迷った様子を見せた後、意を決したように口を開いた。

「私と一緒に、ザイアムの町にある地下水路、そこから伸びた地下通路の調査をして欲しいの。……ちょっと、訳ありなのよ」
「わかった。話を受けよう」
「……早すぎない?」

 エリアは驚いたが、オレからすると当然の回答だ。

 ザイアムの地下通路。その言葉に、聞き覚えがあった。戦争になってザイアムが市街戦になったときに使われる場所だ。
 間違いなく、これから起こる戦乱に関係する場所。オレとしては、この機会を逃す手はない。
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