【連載版】微妙に残念美人な先輩が部室に来るようになった件

みなかみしょう

文字の大きさ
11 / 26

11.先輩と園芸部

しおりを挟む
 一見暇なようで実際暇な郷土史研究部だが、ごく希に客が来る。
 その日の放課後は、そのごく希な珍しい日だった。
 俺と先輩がいつも通り思い思いに過ごしているとドアがノックされた。
 珍しい現象に先輩は硬直し。俺は驚きつつも返事を返す。

「どうぞ」

 ドアが開き現れたのはジャージ姿の女子だった。
 色からすると二年生。茶色っぽい癖毛に穏やかそうな目元の優しそうな外見。
 見覚えるのある人、というか知り合いだ。

「納谷君。ちょっとお手伝いを頼みたいんだけど。いいかな?」
「ああ、もうそんな時期ですか。ジャージに着替えていきますね」

 短いやり取りで全ては了解された。
 俺は席を立ち、ジャージの置いてある教室に向かうべく外に向かう。

「ちょっと納谷君。私に何の説明もないんだけどっ」

 ジャージの先輩と外に出ようとしたところで二上先輩が鋭い声を飛ばしてきた。

「えっと、こちらは下村さんと言って園芸部の部長さんです。実は郷土史研究部と園芸部は縁がありまして、畑を耕す時期とサツマイモの収穫の時期に手伝いをするのです」
「初耳よ……。というか、部員の私を置いていくなんてどういうこと?」
「えっ、先輩も来るんですか?」
「えっ、二上さんも来るの?」

 俺と下村先輩が同時に同じ反応をした。

「なんで二人して同じ反応なの。私だって部員として活動するわよ。なんか楽しそうだし」
「ごめんなさい。二上さん、東京の人だから汚れるのが嫌かと思って」
「すいません。先輩の性格的に、そういうの嫌がると思って」
「そんなことないわ。えっと、下村さん……でいいかしら? 私も手伝わせて。あと、そこの一言多い後輩は後でお説教だから」
「えぇ……」

 とりあえず、郷土史研究部は全員で園芸部を手伝うことになった。二人しかいないけどな。

○○○


 我が校の園芸部は校内の花壇とは別に結構広めの畑を持っている。
 現在の部員は五名。顧問の先生と一緒に元気に活動している姿をよく見かける、割と知名度の高い部活だ。少なくとも幽霊部活状態の郷土史研究部とは大分違う。

 一見縁の無さそうなそれぞれの部活だが、昔の先輩が仲良しだった縁で今も手伝いを頼まれるのである。
 春先に畑を耕し、秋になったらサツマイモの収穫。報酬はイモとその時々の収穫物。
 悪くない関係性である。

 そんなわけで俺はジャージを着て軍手をつけるとせっせとイモ掘りに勤しんでいた。
 芋掘りなど小学校の低学年以来だが、久しぶりにやるとなかなか楽しい。

「納谷。気を付けないと腰にくるからなー」
「はい。気を付けます。それにしても……イモ畑広すぎませんか?」

 心配してくれた園芸部の顧問の先生に言いながら、俺は周囲を見回した。
 サツマイモばかり植え付けられた畑が教室二つ分。園芸部の畑の半分はサツマイモだ。
 手塩にかけて育てられたイモはよく育っており、大きめのやつがゴロゴロとれる。
 楽しいが、終わる気がしない。

「ほら、サツマイモってあまり手間がかからないし。配ると喜ばれるからついな」
「そうですか……」
「後で分けるから、手伝ってくれ……」
「はい……」

 口を動かしても何の解決にもならないので、俺と先生は黙々とイモを掘り返す。

「びっくりしたよー。二上さんが郷土史研究部なんて」
「そうかしら?」
「そうよー」

 作業をしていると、すぐそばで女性と三人で固まっている二上先輩達の声が聞こえてきた。
 二上先輩もジャージ姿に軍手だ。髪をまとめて上げており、完全に運動する構え。
 下村先輩に教えて貰いながら、熱心にイモを掘り返している。
 とはいえ、雑談くらいはするし、聞こえてくる。

「気になってたんだけど。あの部室で納谷君と二人きりなのよね? どういう話してるの?」
「基本的に本を読んだり好きにしてるかな。あ、でも雑談はするわよ」
「へぇ、どんな?」
「本とか映画の感想を話したりとか」
「あ、いいね。それで盛り上がっちゃったりして。こう、グッって」

 下村先輩が謎の反応を示している。グッって何だ。

「言葉の意味はわからないけど。盛り上がることはあるかな」
「へぇー、じゃあ納谷君とは結構仲いいんだね。ちょっと意外かも」
「意外?」
「二上さん、ちょっと孤高な感じがしたから」

 その意見には同意だ。先輩はちょっと近寄りがたい雰囲気があった。

「そんなことないわよ。変なのでなきゃ普通にするわ」
「変なのって……。じゃあ、納谷君は変なのじゃないのね」
「ええ、そうね、納谷君は……」
 
 先輩は少し考えた後、

「面白い玩具ってところかしら」

 とんでもない発言をした。
 マジか。俺は玩具扱いか・・・・・・。
 愕然として作業の手がとまった。

「納谷……。女は恐いぞ」

 それを見ていた顧問の先生がぼそりと呟いたのが一番恐かった。

○○○

 その後、作業を終えた俺達は着替えて部室に荷物を取りに行った。

「あ、あのね納谷君。さっきの畑でのことだけど」

 制服姿だが髪を上げたままの先輩が慌て気味に話しかけてきた。

「はい。俺が先輩の面白い玩具って話ですね」
「ちがっ。あれはそう、話の流れというか、その場のノリっていうかね」
「ああいう時に本音って出ますよね」
「違うの。違うのよ納谷君……あれはちょっと見栄をはったというか」

 微妙に涙目になりながら先輩が俺に何かを訴えていた。
 俺はため息をつき、静かに言葉を吐く。

「知ってますよ。先輩の性格くらい。……半分は本気でしたよね?」
「…………」

 俺の問いかけに、先輩はしばらく考えた後、

「……うん」

 と答えた。

「帰ります」
「あ、ちょっとまって。もう一度チャンスを! チャンスを!」

 ベタな悪役みたいなことを言い出した先輩を置いて、俺は部室をさっさと出るのだった
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...