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23.先輩と冬休みの始まり
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色々とあった二学期が終わった。
終業式とホームルームを終えた俺は荷物を持って部室に向かう。
郷土史研究部は冬休みは休業だ。本来なら部室に行く必要は無い。
しかし、なんとなくこの日は立ち寄りたくなった。
「…………掃除でもしておくか」
部室の鍵を開けると、見慣れた景色が広がっている。時刻は昼前。昼の日差しが注ぐ室内はちょっと不思議な感じだ。
俺は掃除用具を取り出し、部室の掃除を始めた。
文化祭の片付けの時に結構頑張ったので室内は割と綺麗だ。すぐに終わるだろう。
「あら、あいてる。こんにちは、納谷君」
俺が箒でゴミを集めていると、何故か二上先輩がやってきた。
「なにしに来たんですか。今日は活動してませんよ?」
「しっかり掃除しながら言う台詞では無いわ。納谷君」
仰るとおりだった。
「見たところ。大掃除をしてるのかしら?」
「ええまあ。しばらく来ないわけですし。そのくらいはしておこうかなと」
「私も手伝うわね」
先輩は俺の返事を聞かずに荷物を置いて作業を始めた。
俺が手出ししていなかった棚の各所の掃除を始める。
「その辺、文化祭の時に片づけたから手出ししない方がいいですよ」
「ええ、本気でやりだすと大変なことになるから、軽くやっておくわ」
良かった。先輩もここで本格的な大掃除をするつもりはないみたいだ。
二人がかりのおかげで掃除はすぐに終わった。
そのまま解散するのも何なのでとりあえず一服することにした。
暖房が入って以来、俺の向かいに机を設置した先輩が品の良いしぐさでコーヒーを飲んでいる。
「二学期は色々あったわね。ここに来るようになったし」
「ええ、本当に驚きですよ。三年間、ここで一人で過ごすつもりでしたから」
「予想外のことがあって楽しめたでしょう?」
「ええ、まあ。割と」
先輩の悪戯っぽい表情に反射的に反抗しかけたが、ここは素直に肯定した。
二上先輩という郷土史研究部への予想外の新入部員。
最初はどうなることかと思ったが、振り返ってみると基本的に穏やかでたまに程よい刺激があって悪くなかった。
「文化祭とか、いい思い出よね。私、納谷君の写真を大切にとっておくわ」
「まだ持ってたんですか。消してくださいよ」
「いやよ」
「じゃあ、俺もこれをとっておきますよ」
先輩は時々俺の女装写真をネタでからかってくる。いい加減うざったいのでここらで切り札を切るべきだろう。
「……えっ。なにこれ。えっ」
俺がスマホに表示した写真を見て、先輩は明らかに狼狽えた。それもかつて無いほど。
「こ、こんなものをいつ……?」
「文化祭の終わりですよ。俺が先輩を起こす前に念のため」
それは、椅子に座って無防備に眠りこける二上先輩の写真だった。
「こ、こんなものを撮るなんて。へ、変態よ納谷君。これは変態的行為よ」
「ことあるごとに俺の嫌がる写真を使うくせに、立場が変わったらそれですか」
俺の言葉に先輩は一瞬だけ「うっ」と唸った。
しかし、
「いえ、違うわ。納谷君の写真は文化祭のイベントの一風景。オフィシャルなものよ。他に持ってる人もいっぱいいる。でも私の寝顔はとてもプライベートなものよ。だから、納谷君のやったことは変態的行為なの」
「微妙に理屈が通るような言い分をよくぞ思いつきますね」
あと、変態と連呼するのはやめて頂きたい。人によっては変なものに目覚めるぞ。
「とはいえこの写真が俺の手元にあるのは事実です。ここ最近の俺への行いを反省してくれなら消してもいいです」
「うっ。それも嫌よ。納谷君のことだからしっかりクラウドストレージに保管してるんでしょう?」
ばれていたか。
「じゃあ、俺と先輩で同時に削除を……あ、すいません」
話を進めようとしたところでSNSアプリにメッセージが来た。妹からだ。
『ごん兄知ってる? 二上先輩がクリスマス前に市でやる合唱の公演に出るんだって。先輩に詳しく聞いて欲しいんだけど』
初耳の情報だった。ナイスだ、妹よ。
合唱自体は知っている。クリスマスの少し前に、市で毎年やっているイベントだ。
「先輩、第九の合唱に参加するんですか?」
「うっ」
明確な返事をしなかったが、その反応が全てを物語っていた。
「するんですね。オフィシャルな場の写真ならいいんですよね? 望遠レンズどこにやったかな。暗所での写真も練習しないと……」
部室に来て良かった。道具が一通り揃ってる。
席を立って行動に移ろうとする俺に向かって、二上先輩が上目遣いに懇願するように行ってくる。
「納谷君。落ちついて話し合わない?」
「そうですね。詳しい日程などについて是非伺いたいです」
とりあえず、目の前で寝顔写真を削除するという条件をつけることで、色々と話が捗った。
終業式とホームルームを終えた俺は荷物を持って部室に向かう。
郷土史研究部は冬休みは休業だ。本来なら部室に行く必要は無い。
しかし、なんとなくこの日は立ち寄りたくなった。
「…………掃除でもしておくか」
部室の鍵を開けると、見慣れた景色が広がっている。時刻は昼前。昼の日差しが注ぐ室内はちょっと不思議な感じだ。
俺は掃除用具を取り出し、部室の掃除を始めた。
文化祭の片付けの時に結構頑張ったので室内は割と綺麗だ。すぐに終わるだろう。
「あら、あいてる。こんにちは、納谷君」
俺が箒でゴミを集めていると、何故か二上先輩がやってきた。
「なにしに来たんですか。今日は活動してませんよ?」
「しっかり掃除しながら言う台詞では無いわ。納谷君」
仰るとおりだった。
「見たところ。大掃除をしてるのかしら?」
「ええまあ。しばらく来ないわけですし。そのくらいはしておこうかなと」
「私も手伝うわね」
先輩は俺の返事を聞かずに荷物を置いて作業を始めた。
俺が手出ししていなかった棚の各所の掃除を始める。
「その辺、文化祭の時に片づけたから手出ししない方がいいですよ」
「ええ、本気でやりだすと大変なことになるから、軽くやっておくわ」
良かった。先輩もここで本格的な大掃除をするつもりはないみたいだ。
二人がかりのおかげで掃除はすぐに終わった。
そのまま解散するのも何なのでとりあえず一服することにした。
暖房が入って以来、俺の向かいに机を設置した先輩が品の良いしぐさでコーヒーを飲んでいる。
「二学期は色々あったわね。ここに来るようになったし」
「ええ、本当に驚きですよ。三年間、ここで一人で過ごすつもりでしたから」
「予想外のことがあって楽しめたでしょう?」
「ええ、まあ。割と」
先輩の悪戯っぽい表情に反射的に反抗しかけたが、ここは素直に肯定した。
二上先輩という郷土史研究部への予想外の新入部員。
最初はどうなることかと思ったが、振り返ってみると基本的に穏やかでたまに程よい刺激があって悪くなかった。
「文化祭とか、いい思い出よね。私、納谷君の写真を大切にとっておくわ」
「まだ持ってたんですか。消してくださいよ」
「いやよ」
「じゃあ、俺もこれをとっておきますよ」
先輩は時々俺の女装写真をネタでからかってくる。いい加減うざったいのでここらで切り札を切るべきだろう。
「……えっ。なにこれ。えっ」
俺がスマホに表示した写真を見て、先輩は明らかに狼狽えた。それもかつて無いほど。
「こ、こんなものをいつ……?」
「文化祭の終わりですよ。俺が先輩を起こす前に念のため」
それは、椅子に座って無防備に眠りこける二上先輩の写真だった。
「こ、こんなものを撮るなんて。へ、変態よ納谷君。これは変態的行為よ」
「ことあるごとに俺の嫌がる写真を使うくせに、立場が変わったらそれですか」
俺の言葉に先輩は一瞬だけ「うっ」と唸った。
しかし、
「いえ、違うわ。納谷君の写真は文化祭のイベントの一風景。オフィシャルなものよ。他に持ってる人もいっぱいいる。でも私の寝顔はとてもプライベートなものよ。だから、納谷君のやったことは変態的行為なの」
「微妙に理屈が通るような言い分をよくぞ思いつきますね」
あと、変態と連呼するのはやめて頂きたい。人によっては変なものに目覚めるぞ。
「とはいえこの写真が俺の手元にあるのは事実です。ここ最近の俺への行いを反省してくれなら消してもいいです」
「うっ。それも嫌よ。納谷君のことだからしっかりクラウドストレージに保管してるんでしょう?」
ばれていたか。
「じゃあ、俺と先輩で同時に削除を……あ、すいません」
話を進めようとしたところでSNSアプリにメッセージが来た。妹からだ。
『ごん兄知ってる? 二上先輩がクリスマス前に市でやる合唱の公演に出るんだって。先輩に詳しく聞いて欲しいんだけど』
初耳の情報だった。ナイスだ、妹よ。
合唱自体は知っている。クリスマスの少し前に、市で毎年やっているイベントだ。
「先輩、第九の合唱に参加するんですか?」
「うっ」
明確な返事をしなかったが、その反応が全てを物語っていた。
「するんですね。オフィシャルな場の写真ならいいんですよね? 望遠レンズどこにやったかな。暗所での写真も練習しないと……」
部室に来て良かった。道具が一通り揃ってる。
席を立って行動に移ろうとする俺に向かって、二上先輩が上目遣いに懇願するように行ってくる。
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