限界勇者のスローライフ~追放気味に田舎暮らしに突入したけど、元魔王やら魔族の子と出会って何だか幸せに暮らせています~

みなかみしょう

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第16話:限界勇者と偉い人1

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 時間は少し前後する。

 三人で目覚めた朝。座布団はないけどクッションは買えたのでそれを敷いて朝食を囲んでいた。

「朝ごはん、ポリッジじゃなくてパンなんだね」
「ワシもクウトも苦手なんじゃよな、あれ」
「マイサが好きならそれにするけど?」

 ポリッジというのはオーツ麦を使った粥のことを指す。多くの家庭で食されている食べ物で、大体の場合、味があんまりない。自分で味付けすれば食べられるけど、選べる環境にあるから選んでいない、我が家はそんな感じだ。

「ううん。ボクもこっちの方が好き。孤児院だと安いからって薄くて味のないポリッジでね。飽きちゃってたんだ。お腹もすぐに空くし」
「食べたいものがあったら何でも言ってね」
「うむ。リクエストがあるなら言うのじゃ。できる限りワシが作るぞ」

 俺とエンネの口から、思わずそんな言葉が飛び出した。
 それから改めて、今後の生活の話になった。

 まず、一日は三食。これは孤児院でも同じだったらしい。昔はこの世界、一日二食出せれば豪華なくらいだったんだけど、平和な時代が続いたおかげで少し豊かになった。
 それに合わせて、俺とエンネは極力マイサと食事を取ることに決めた。

「俺とエンネはちょっと色々あって、その気になれば食事も睡眠も無しで働き続けられる」
「えぇ……それってどういうこと?」
「鍛え続けるとこうなるということじゃ。マイサは魔族の血が濃いようじゃから、そのうちできるかもしれんぞ」
「そっか。いっぱい働けるね! あ、でもちゃんと食べたいし、眠りたいかな」
「そうだな。食事と睡眠は大事だ」

 今更だけど、当たり前のことに気付かされた。これが子供と暮らすということなのだろう。気づきに満ちている。

「では、三食食べて。夜は眠るとするのじゃ」
「それって普通のことだと思うんだけど……」
「そうか。普通か……」

 普通、なんとも感慨深い言葉だ。百二十年間、年中無休、二十四時間営業からは程遠い言葉だった。

「なんじゃ、気持ち悪い顔をして」
「俺も大分スローライフに近づいたなと思ってな」
「まあ、たしかに前進はしとるな。さすがワシらじゃ」
「二人は何を目指してるの?」

 疑問顔のマイサに、俺達がここで暮らす目的を話す。単純に、働きすぎたから、のんびり暮らしたいという、当たり障りのないところを。

「それじゃあ、ボクがいると迷惑じゃないの? 子育てしててのんびりはできないんじゃ?」
「いや、マイサはいい子だから問題ない。あと、家に帰れる時点でのんびりできてる」
「全く持ってその通りじゃ。眠っておる自分にびっくりじゃよ」
「二人とも、どんな生活してたの……」

 何やらマイサが驚いているが、問題ない。むしろ、俺達の目的まで伝えられたのは上々だ。
 次に、今後の行動方針の話に入る。

「とりあえず、毎日の畑の世話。あと、衝立はもっと作ろう。そのうち増築もしたい」

 本人達はいいと言っているけど、やはり女性二人と一室というのは気になる。せめて目隠しは欲しいし、そのうち部屋は分けたい。特にマイサは近い将来思春期が本格化するはずだ。自分の部屋がある方がいいだろう。前世で友人が部屋を貰えなくて苦労していた。

「ふむ。クウトにしては上出来じゃな。ワシとしても異存はない」
「ボクは何をすればいいかな? 畑の手伝いでも、冒険者の手伝いでも何でもするよ!」
「そうだなぁ……」

 悩みどころだ。うちが農家なら、畑の手伝いをしてもらえば良かった。しかし、現状の畑の規模だとそれほど必要じゃない。冒険者の仕事は魔物退治もあって危険だ。

「当面は、ワシが魔法でも教えるとしよう。あとは採取依頼くらいなら一緒に行けるじゃろ」
「それでいこう。他のことを思いついたらやってもらおうかな」
「やった! 凄い魔法を教えてもらえるんだね!」

 さっそくエンネの授業を受けることになったマイサは素直に喜んでいた。
 この町に学校ってあるんだったかな。あったとしても、魔族のマイサは通えるだろうか。
 知り合いに相談してみようかな。
 心のなかでそう決めて、俺は食器を片付けた。

 それから畑の草取りをして。水をやって。家の側に積んだ丸太を加工して衝立を作った。
 日曜大工も若干慣れたのか、前よりも出来栄えが良くて満足だ。
 起きた時間が早かったのでまだ昼前。町にいってみようかと相談していると、家の外に気配を感じた。
 すぐに玄関がノックされる。

「はい。どちら様でしょう」

 ドアを開けると、そこにいたのは複数の人影。いや、一団と呼ぶべき集団だった。
 きらびやかな鎧や仕立ての良い服に身を包んだ人々の先頭には、白を基調とした優雅な服を着た女性が立っていた。
 
「久しぶりですねクウト。元気そうで何よりです。……色々と、聞きたいことがあります」

 その人物こそ、ミスラート王国の女王ヴィフレアだった。

 ◯◯◯

 女王ヴィフレアはエルフである。年齢ははっきりしない。恐らく数千年を生きている。この世界のエルフの中でも高齢な方だけど、見た目は若々しい。せいぜい、二十代前半くらいに見える。
 エルフやドワーフに見られる尖った耳。太陽の光を浴びて輝く流れるような金の髪に、宝石のような青い瞳。大抵の人が出会った時に驚くという顔の造形に、すらっとした体型が綺麗に調和する。
 いわゆる美女の見本みたいなのが、ヴィフレアその人である。

 ミスラート王国を長く治める確かな政治的手腕に加えて、剣と魔法の扱いにも優れている。魔王戦の時、最後の戦いに同行してくれた一人だ。

 そんな女性に伴っていたのは、初老をといった感じの太り気味の人間の男性。
 ホヨラ周辺を治める領主ワービンである。

 他にも護衛である親衛隊のエルフが十名ほど。完全装備だ。
 
 多すぎて家には入れない。なので、まずは玄関先でその旨を伝える。

「この人数、うちには入れないんだが」
「わかっています。魔族の子がいるのでしょう? まずはそちらをお願いできるかしら?」

 言われるまま、エンネと共にマイサがやってきた。
 すぐに、護衛の騎士二人がその前に立つ。
 忘れもしない、先日、エンネとマイサに因縁をつけた二人だ。

「先日は失礼した。過去のことはあれど、子供に手を挙げるとは短慮だった」
「女王陛下からお叱りを受け、反省した。あの戦いの後に産まれた子には関係のないことだった」

 そう言って、エルフの騎士達は「申し訳ない」と頭を下げた。

「え、えっと……。ボクは、もう元気になったし。大丈夫です……ああ、でも」

 頭を下げるエルフ達に困りながらも、マイサはどうにか言葉を続ける。

「……魔族相手でも、悪い子じゃなかったら優しくしてください」

 絞り出すように、精一杯という様子でそれだけ言った。

「承知した。これからの行動でお見せしよう」
「女王陛下に誓って」

 騎士達はそれぞれ、顔を上げて生真面目に返答した。
 この前とは別人だ。これはヴィフレアに相当怒られたか?

「では、この件はこれで解決ということで。今後、私も彼らをしっかり見守りますから。お許しくださいね」
 
 にこやかに微笑んで、エルフの女王はマイサにいった。相手が権力者であることは雰囲気で伝わったんだろう。マイサはガクガクと首を縦に振る。

「次の話は屋内でさせてくださいね。私とワービン以外は屋外で護衛を。危険はありませんから。絶対に」
「御意!」

 周囲の騎士達が一斉に叫んだ。怖いよ。マイサが怯えてる。

「とりあえず、どうぞ」
「ええ、お邪魔します」
「ぐふふ、失礼しますぞ」

 どういうわけか、権力者二名を家に上げることになってしまった。
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