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第25話:限界勇者と夏の始まり
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ブラックドラゴン・ゾンビを浄化した後、元魔王城周辺や、近くの森など気になる場所を軽く探索した。
マイサを迎えに行きたかったので、早めに退散したけど、俺とエンネの見解は一致した。
ブラックドラゴン・ゾンビが目覚め。それによって元魔王城から追い出された魔物達が外に拡散。更に、ゾンビとはいえドラゴンという強力な存在の登場に本能的に逃走を開始した個体も多数。
結果、山を越えてホヨラの町西方まで来てしまったのだろう。
もう少し山の周辺を調べる必要があるので、今後も調査は必要だ。
俺はその辺りのことを手紙にしたためて、調査隊に直接報告した。ヴィフレアと共に来た彼らは女王の親衛隊。俺の正体も知っているのですんなり話は進んだ。
「俺の報告だけでなく、調査隊も調べにいくらしい。もしかしたら定期的に向こうの様子を見に行く依頼が来るかもって話だったな」
「ふむ。それが良いじゃろうな。日帰りできることも証明されたし、受けようではないか」
「報酬も多いしね。問題は移動方法くらいだ」
「なんじゃ。まだ言っておるのか」
王国から直の依頼は報酬が多めだ。多分、ヴィフレアが俺に気を使っている部分もあるんだろう。ただの支援金名目でお金を貰うより、仕事の対価として貰うほうが気楽ではある。
「飛行魔法、俺も考えてみようかな」
エンネ自慢の飛行魔法だけど、素直に怖い。俺も自分用の移動方法を開発すべきだろう。いっそ、飛行機とか作って貰えないものだろうか。駄目だ。エンジンの仕組みなんて知らないから上手く伝えられない。
「二人とも、仕事の話ばっかりじゃつまらないよー」
離れた場所からマイサの声が聞こえてきた。それと、小さな水音も続く。
「おお、すまぬな。どれ、少し遊ぶとするかのう」
「あんまり奥に行かないようにね。深くなってるから」
今、俺達はこの前作った貯水池に遊びに来ている。
川から流れ込んだ水を溜めた巨大な池で、段々深くなる構造をしている。こうして水遊びすることも考えて、浅めの範囲を広く設けてあった。
すっかり暑くなり、いよいよ夏が来た。前世の日本ほどじゃないけど、この世界でも夏は十分暑い。幸いなのは、湿気がそこまでじゃないことくらいだろうか。
今日は休日ということもあり、三人で水遊びでもしようということになった。貯水池に溜まった水は綺麗だし、周りに人もいない。弁当やら着替えやらを用意して、昼前に外に出た。
俺は水場の近くに腰掛け、荷物を見張っている。
マイサとエンネはこのために服を買った。タンクトップにハーフパンツみたいな作りの安物だ。濡れて透けないように、黒いのを選んでもらった。この世界はまだ水着がないので、これでも上出来だろう。
「クウトよ。お主も来たらどうじゃ? 存外涼しいぞ?」
「いや、俺は荷物を……」
「盗る者なんぞおらんじゃろ? 周囲に誰もおらんぞ?」
「それもそうか……」
本当はこういう所でどう遊ぶかがわからなかっただけだ。とりあえず、水に入ってみよう。
「おおっ」
足首くらいまで入ってみると、思ったより低い水温のおかげで、一気に体感温度が下がった。
「水の中にいるだけで気持ちいいな」
「そうじゃのう。案外、これだけで楽しいかもしれん」
「ねぇ、二人とも見て! 万物の根源たる魔力よ……水よ……流れよ……」
俺達の見ている前で、マイサが属性魔法の詠唱を始めた。これは水属性かな? すぐそばに本物の水があるから、利用できる。
「ウォーターシュートッ」
マイサの魔法が完成し。彼女の足元の水面が大きくうねり、ちょっとした大波となって俺達を襲った。
「ぶわっ、派手にやったのう」
「もうこんなに使いこなしてるのか」
「ご、ごめんなさい。もっと小さいのができるはずだったんだけど」
謝るマイサだが、俺は感心していた。連日、エンネの授業を受けているおかげか、属性魔法をかなり使いこなしている。思ったより威力が出てしまったのは、彼女の内包している魔力が大きく、制御しにくいからだろう。
「ま、教師がいいからのう。では、ワシが手本を見せてやるのじゃ」
今度はエンネが詠唱を始めた。彼女の周囲で、水面が渦を巻く。
「……羽ばたけ」
短い呟きと共に、水面にいくつも水音が立った。
それはすぐには終わらない。なぜなら、水で出来た小鳥がいくつも水の中から飛び立っているからだ。
スズメくらいの大きさの水鳥が無数に産まれ、頭の上を周回する。
それはなかなかに幻想的な光景だった。
「わぁ。すごいや」
「大したもんだ」
恐らく、即興でこんな魔法を作ったんだろう。材料である水が沢山あるとはいえ、魔法に慣れていなければ、とてもできることじゃない。
「ふふふ。褒めるのはそこまでじゃ。即席じゃからな、もう終わる」
「え?」
俺とマイサが同時に聞いた直後だった。
空を待っていた水鳥達が、ただの水滴になった。当然、地面に向かってそれらは降り注ぐ。俺達の頭上に。
シャワーというか、短時間の豪雨だった。
「俺、まだ一歩入っただけなのにびしょ濡れなんだが」
「濡れてもいい服なんだからいいじゃろう!」
エンエが楽しそうに笑いながら言った。即興の魔法だから、解除の部分が甘かったんだな。いや、この前の飛行魔法も着地が適当だった。もしかしたら、こいつは詰めが甘いのか?
「なんじゃ、嫌な感じの納得顔をして」
「いや、なんでもない」
「ねぇねぇ、今のボクにもできる?」
「出来るとも。まずは一羽飛ばす所からじゃな」
「俺にも教えてくれ」
水遊びはどこへやら、そのまま水鳥を生み出す魔法の練習に突入してしまった。
一時間後、どういうわけか俺が一番上手に水鳥を生み出せるようになった。
周囲に数百の水鳥を周回させ、たまに水面に着水。少し泳がせてからまた飛び立たせられるようになった。
「水面で水に戻せば濡れる心配はないな」
「お主、今から属性魔法を極めたらどうじゃ? どうせ加護で早々死なんじゃろうし、時間はあるじゃろう」
「クウトさん、なにかコツとかあるんですか?」
「いや、なんというか、勘です……」
本当に何となく、魔力で水を操るのが上手くいった。そんな感じなので、マイサに教えることはできない。
「クウトも魔法を使い始めて長いからのう。こういうのは経験じゃよ」
「じゃあ、頑張ってみる!」
そう言うとマイサが呪文を唱え、水鳥を生み出す。小さな群れではなく、大きな白鳥のような水鳥だ。
「いけ!」
水の白鳥は羽ばたき、水面から少し浮くと、破裂してしまう。
「上手いね、さっきより浮いた」
「これ、魔力制御の練習に良いかもしれんのう」
「も、もう一回やってみる!」
練習は昼食を挟み、そのまま夕方まで続いた。
「いやぁ、楽しかったのう」
「うん! またやりたい! 水遊び!」
「二人が楽しかったようで何よりだ」
「ワシらじゃなくてお主はどうなんじゃ? 楽しんでおるように見えたが」
荷物をまとめ、家に帰る道すがら、そんなことを聞かれた。
思い返す。戦うこともなく、仕事をすることもなく、三人で楽しく過ごす休日。
「そうだな。楽しかったと思う」
「……そうか、何よりじゃ」
エンネが満足気に頷く。何か、深い意味のある質問だったのだろうか。たまに彼女はこういう顔をする。
「ねぇねぇ、あっちの畑は手伝わなくていいの? もうすぐ始まるんでしょ?」
マイサが東の方を指差して言った。そこには俺が耕して放置されている大地がある。
我が家から離れた東側、明日にでも農家が入り種を撒く予定だ。
秋の終わり頃に収穫できる野菜やら、主にイモ類を育てるらしい。ジャガイモが見つかったのは魔王戦の途中だ。食糧としてその頃から大量生産されている。
「俺達は柵を作るとかの仕事が回ってくる予定だ。小さな村を作るつもりらしい」
「あの領主、ケチで有名らしいんじゃが、思い切ったことしとるのう。王都から金でも出てるんじゃろか?」
「ありそうだな。耕したのが無駄にならなくて良かったよ」
意外と物事というのは早く動くものだ。来年の今頃は、どうなっていることやら。
「……来年か」
「どうかしたのかの?」
「いや、先の事を考えるようになったみたいだ、俺が」
「そうか、良いことじゃ」
「うん。明日のご飯のこと心配しなくていいもんね!」
「……帰ったらマイサの好きなものを作ってあげよう」
「そうするのじゃ」
その日の夕飯はマイサのリクエストでハンバーグになった。ちゃっかりエンネが作り方を教わっていたようだ。
材料の関係で豚肉になったけれど、とても美味しかった。
マイサを迎えに行きたかったので、早めに退散したけど、俺とエンネの見解は一致した。
ブラックドラゴン・ゾンビが目覚め。それによって元魔王城から追い出された魔物達が外に拡散。更に、ゾンビとはいえドラゴンという強力な存在の登場に本能的に逃走を開始した個体も多数。
結果、山を越えてホヨラの町西方まで来てしまったのだろう。
もう少し山の周辺を調べる必要があるので、今後も調査は必要だ。
俺はその辺りのことを手紙にしたためて、調査隊に直接報告した。ヴィフレアと共に来た彼らは女王の親衛隊。俺の正体も知っているのですんなり話は進んだ。
「俺の報告だけでなく、調査隊も調べにいくらしい。もしかしたら定期的に向こうの様子を見に行く依頼が来るかもって話だったな」
「ふむ。それが良いじゃろうな。日帰りできることも証明されたし、受けようではないか」
「報酬も多いしね。問題は移動方法くらいだ」
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王国から直の依頼は報酬が多めだ。多分、ヴィフレアが俺に気を使っている部分もあるんだろう。ただの支援金名目でお金を貰うより、仕事の対価として貰うほうが気楽ではある。
「飛行魔法、俺も考えてみようかな」
エンネ自慢の飛行魔法だけど、素直に怖い。俺も自分用の移動方法を開発すべきだろう。いっそ、飛行機とか作って貰えないものだろうか。駄目だ。エンジンの仕組みなんて知らないから上手く伝えられない。
「二人とも、仕事の話ばっかりじゃつまらないよー」
離れた場所からマイサの声が聞こえてきた。それと、小さな水音も続く。
「おお、すまぬな。どれ、少し遊ぶとするかのう」
「あんまり奥に行かないようにね。深くなってるから」
今、俺達はこの前作った貯水池に遊びに来ている。
川から流れ込んだ水を溜めた巨大な池で、段々深くなる構造をしている。こうして水遊びすることも考えて、浅めの範囲を広く設けてあった。
すっかり暑くなり、いよいよ夏が来た。前世の日本ほどじゃないけど、この世界でも夏は十分暑い。幸いなのは、湿気がそこまでじゃないことくらいだろうか。
今日は休日ということもあり、三人で水遊びでもしようということになった。貯水池に溜まった水は綺麗だし、周りに人もいない。弁当やら着替えやらを用意して、昼前に外に出た。
俺は水場の近くに腰掛け、荷物を見張っている。
マイサとエンネはこのために服を買った。タンクトップにハーフパンツみたいな作りの安物だ。濡れて透けないように、黒いのを選んでもらった。この世界はまだ水着がないので、これでも上出来だろう。
「クウトよ。お主も来たらどうじゃ? 存外涼しいぞ?」
「いや、俺は荷物を……」
「盗る者なんぞおらんじゃろ? 周囲に誰もおらんぞ?」
「それもそうか……」
本当はこういう所でどう遊ぶかがわからなかっただけだ。とりあえず、水に入ってみよう。
「おおっ」
足首くらいまで入ってみると、思ったより低い水温のおかげで、一気に体感温度が下がった。
「水の中にいるだけで気持ちいいな」
「そうじゃのう。案外、これだけで楽しいかもしれん」
「ねぇ、二人とも見て! 万物の根源たる魔力よ……水よ……流れよ……」
俺達の見ている前で、マイサが属性魔法の詠唱を始めた。これは水属性かな? すぐそばに本物の水があるから、利用できる。
「ウォーターシュートッ」
マイサの魔法が完成し。彼女の足元の水面が大きくうねり、ちょっとした大波となって俺達を襲った。
「ぶわっ、派手にやったのう」
「もうこんなに使いこなしてるのか」
「ご、ごめんなさい。もっと小さいのができるはずだったんだけど」
謝るマイサだが、俺は感心していた。連日、エンネの授業を受けているおかげか、属性魔法をかなり使いこなしている。思ったより威力が出てしまったのは、彼女の内包している魔力が大きく、制御しにくいからだろう。
「ま、教師がいいからのう。では、ワシが手本を見せてやるのじゃ」
今度はエンネが詠唱を始めた。彼女の周囲で、水面が渦を巻く。
「……羽ばたけ」
短い呟きと共に、水面にいくつも水音が立った。
それはすぐには終わらない。なぜなら、水で出来た小鳥がいくつも水の中から飛び立っているからだ。
スズメくらいの大きさの水鳥が無数に産まれ、頭の上を周回する。
それはなかなかに幻想的な光景だった。
「わぁ。すごいや」
「大したもんだ」
恐らく、即興でこんな魔法を作ったんだろう。材料である水が沢山あるとはいえ、魔法に慣れていなければ、とてもできることじゃない。
「ふふふ。褒めるのはそこまでじゃ。即席じゃからな、もう終わる」
「え?」
俺とマイサが同時に聞いた直後だった。
空を待っていた水鳥達が、ただの水滴になった。当然、地面に向かってそれらは降り注ぐ。俺達の頭上に。
シャワーというか、短時間の豪雨だった。
「俺、まだ一歩入っただけなのにびしょ濡れなんだが」
「濡れてもいい服なんだからいいじゃろう!」
エンエが楽しそうに笑いながら言った。即興の魔法だから、解除の部分が甘かったんだな。いや、この前の飛行魔法も着地が適当だった。もしかしたら、こいつは詰めが甘いのか?
「なんじゃ、嫌な感じの納得顔をして」
「いや、なんでもない」
「ねぇねぇ、今のボクにもできる?」
「出来るとも。まずは一羽飛ばす所からじゃな」
「俺にも教えてくれ」
水遊びはどこへやら、そのまま水鳥を生み出す魔法の練習に突入してしまった。
一時間後、どういうわけか俺が一番上手に水鳥を生み出せるようになった。
周囲に数百の水鳥を周回させ、たまに水面に着水。少し泳がせてからまた飛び立たせられるようになった。
「水面で水に戻せば濡れる心配はないな」
「お主、今から属性魔法を極めたらどうじゃ? どうせ加護で早々死なんじゃろうし、時間はあるじゃろう」
「クウトさん、なにかコツとかあるんですか?」
「いや、なんというか、勘です……」
本当に何となく、魔力で水を操るのが上手くいった。そんな感じなので、マイサに教えることはできない。
「クウトも魔法を使い始めて長いからのう。こういうのは経験じゃよ」
「じゃあ、頑張ってみる!」
そう言うとマイサが呪文を唱え、水鳥を生み出す。小さな群れではなく、大きな白鳥のような水鳥だ。
「いけ!」
水の白鳥は羽ばたき、水面から少し浮くと、破裂してしまう。
「上手いね、さっきより浮いた」
「これ、魔力制御の練習に良いかもしれんのう」
「も、もう一回やってみる!」
練習は昼食を挟み、そのまま夕方まで続いた。
「いやぁ、楽しかったのう」
「うん! またやりたい! 水遊び!」
「二人が楽しかったようで何よりだ」
「ワシらじゃなくてお主はどうなんじゃ? 楽しんでおるように見えたが」
荷物をまとめ、家に帰る道すがら、そんなことを聞かれた。
思い返す。戦うこともなく、仕事をすることもなく、三人で楽しく過ごす休日。
「そうだな。楽しかったと思う」
「……そうか、何よりじゃ」
エンネが満足気に頷く。何か、深い意味のある質問だったのだろうか。たまに彼女はこういう顔をする。
「ねぇねぇ、あっちの畑は手伝わなくていいの? もうすぐ始まるんでしょ?」
マイサが東の方を指差して言った。そこには俺が耕して放置されている大地がある。
我が家から離れた東側、明日にでも農家が入り種を撒く予定だ。
秋の終わり頃に収穫できる野菜やら、主にイモ類を育てるらしい。ジャガイモが見つかったのは魔王戦の途中だ。食糧としてその頃から大量生産されている。
「俺達は柵を作るとかの仕事が回ってくる予定だ。小さな村を作るつもりらしい」
「あの領主、ケチで有名らしいんじゃが、思い切ったことしとるのう。王都から金でも出てるんじゃろか?」
「ありそうだな。耕したのが無駄にならなくて良かったよ」
意外と物事というのは早く動くものだ。来年の今頃は、どうなっていることやら。
「……来年か」
「どうかしたのかの?」
「いや、先の事を考えるようになったみたいだ、俺が」
「そうか、良いことじゃ」
「うん。明日のご飯のこと心配しなくていいもんね!」
「……帰ったらマイサの好きなものを作ってあげよう」
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その日の夕飯はマイサのリクエストでハンバーグになった。ちゃっかりエンネが作り方を教わっていたようだ。
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