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第24話:限界勇者と秘密の仕事2
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「酷い目にあった。帰りもこれなのか……」
「文句を言うでない。ワシとて研究中の魔法なんじゃからな」
着地の時についた埃を払いながらエンネが言う。
「で、あれなんじゃが。ブラックドラゴンのゾンビじゃな。魔王城の地下におったやつじゃ」
「? 俺はそんなもの倒した覚えはないぞ」
かつて、仲間達と魔王城に殴り込んだ時、邪魔する魔族も魔物も全部斬った。でも、その中にドラゴンはいなかったはずだ。そもそも、あんなデカブツが何で城の地下にいたんだ?
「そりゃそうじゃ。元々あやつはこの地域に飛んできた個体でな。魔王様が倒された後、地下で魔力を吸い出す苗床にされとった」
「なんでそんなことを……。もしかして、この辺の土地がおかしくなったのってそれか?」
問いかけにエンネが頷く。
「ドラゴンの内包する魔力は莫大。特にあれは言葉を話せる知恵ある竜じゃったからな。半死状態でその魔力を色んな実験に使われておった」
「酷いもんだ」
俺の短い感想に、エンネは苦笑して返す。
「魔王様とお主達が決戦に挑む頃には、あやつは魔力を搾り取られ、死んでおったはずなんじゃが」
「ドラゴンは強大だからな。死んだ後もその無念から魂がとどまり、アンデッドとなって復活したんだろう」
この世界のアンデッドは、何かしらの未練があったり、しっかり弔われなかった場合に発生する。とはいえ、基本的に確率としては低い。例外は高い魔力を保有している生き物。
「運命神の使徒として、あれは浄化できるかの?」
神聖魔法にはアンデッドを浄化する魔法がある。むしろ、神官達は積極的にアンデッドは浄化するよう務めている。もちろん、俺も使えるし。積極的に安らかな終わりを迎えさせてあげたい。
問題は、俺の神聖魔法の使い手としての能力が、勇者だった時より落ちていることだ。一発で浄化は難しい。
対抗策はある。力押しだ。
「弱ってれば、何とかなるかな。あれ、既に結構弱くなってるだろ?」
「うむ。生前の残りカスじゃからな。大したことはない」
空から見た感じ、それほど脅威には感じなかった。知性を持たないドラゴン並に性能は落ちていると見ていい。
「魔物がホヨラの方まで溢れてきたの、あれが原因だと思うか?」
「恐らくはな。あんなのがおったら、周りの魔物達は山を越えてでも逃げるじゃろうしのう」
方向性としては、あのドラゴンゾンビを浄化すれば、何とかなる気がする。
そう結論に至った俺達は、元魔王城に向かうのだった。
◯◯◯
「キシュウゥゥゥゥ!」
半分骨格が見え隠れしたブラックドラゴン・ゾンビ。かつては大地を震わす咆哮をあげていたであろう喉からは、空気を切り裂く音が漏れるのみだ。
それでも、全長十メートルはある体躯と、まだ体表に残る黒光りする鱗、怒りに燃えて白濁した瞳は殺意の塊といえた。
ブラックドラゴン・ゾンビは俺達を視認するなり、魔王城の跡地から飛び出して襲いかかってきた。骨が剥き出しの翼は羽ばたけず、半分這うような動きでこちらに突撃をかけてくる。
「多分、魔族のワシに反応したんじゃろうな。……行け」
エンネが両手に魔力を集め、巨大な光の槍として次々と射出する。ほぼ無詠唱の無属性魔法。早さが売りで威力がいまいちなはずだが、彼女が使うと早くて強力な凶器と化す。
射出された光の槍が次々とドラゴンゾンビの鱗を貫く。もはや恨みだけで動くアンデッドは、速度を落としつつも接近する。
「む。ちと効きが弱いのう。ああ、全身に魔力が鎧のように巡っておるわ。ドラゴンは凄いのう。本能であれをやるんじゃ」
「もう少し、痛めつけなきゃ駄目そうだな」
往時は相当強力なドラゴンだったんだろう。弱体化している今ですら、エンネの魔法を受けて無事なんだから。以前見たトリプルヘッドパイソンだったら、頭が吹き飛んでいるはずだ。
「援護を頼むよ」
「うむ。気を付けてな」
全身と手に持った鎌と斧に強化魔法をかける。今回は得物を二つにしてみた。こういう時、もっとちゃんとした武器を用意すべきか悩むな。でも、女神の用意したミスリル製の農具より強い武器は見つけるのが難しい。
そんなことを考えつつ、俺はドラゴンゾンビに接近。
「ジャアァァァア!」
近づいて来た邪魔者を払うため、巨大な前足が振るわれる。当然、避ける。ついでに鎌でお思い切り切り裂く。
魔力によって延長された斬撃は、ドラゴンの左前足をほぼ切り裂いた。全身に魔力のバリアを張ってるけど、そんなに厚くないな。武器の力で押せそうだ。
アンデッドは痛みを感じない。負傷を気にせず、更に俺に攻撃を加えるべく体をくねらせる。
そこに、エンネの魔法が直撃した。
ドラゴンゾンビの右半身に巨大な魔法の槍が一本突き刺さる。
「シュルルルルッ」
痛みはなくとも、不利は自覚したのだろう。巨体をうねらせながら、一歩引いた。それも、空高く首をもたげながら。
この手のアンデッドの欠点は、知性が大幅に落ちることだ。話によると、生前は言語も介したというブラックドラゴン。その知性が失われたのは致命的だろう。
俺を前にして、喉笛を晒しているのだから。
「悪い。この後成仏してもらうから」
そう詫びてから、全力で魔力を注ぎ込んだ斧と鎌の一撃を、ドラゴンゾンビの首に叩き込んだ。
思った以上にあっさりと首は切断され、轟音と共にブラックドラゴンゾンビは大地に倒れ伏した。
「やはり強いのう。クウトは」
「エンネの援護のおかげだよ」
「そうかのう。まだまだ勘が戻らぬわ……」
やってきたエンネはそう呟きつつ、ドラゴンゾンビの死体をじっと見つめる。
「すまぬな。ワシらの勝手で好き放題されて。さぞ無念じゃったろう……」
そう言って静かに手を合わせた。両手を合わせるのは運命神の祈りの形だ。俺が前世の癖でやったのが広まった形で、定着してしまった。マイサの祈る姿を毎日見ていて覚えたんだろう。
「せめて、浄化してあげようか」
「よろしく頼む。これはワシにはできん仕事じゃ」
俺は一歩前に出て運命神ユーネルマ様に祈る。エンネと同じく両手を合わせて。
「運命を司る女神よ。哀れな魂あり、使徒クウトが、ここに浄化の奇跡を願わん……」
いつもと違い、自分の名前を名乗るのは祈りをより強く届けるためだ。一応、加護持ちで使徒である俺の願いは強く作用するはず。
祈りは通じた。ブラックドラゴン・ゾンビの骸が天から差し込んだ光によって、光る霧として分解されていく。
「おぉ……」
エンネが声上げた。これほどまでの浄化は、なかなか目にする機会がない。
「ありがとうございます。ユーネルマ様……」
俺が祈りを届け、最後まで浄化を見守る。
浄化の魔法は特殊だ。最後の瞬間に対象の意思が伝わってくることがある。神官はそれを関係者に伝える役目も担う。
「…………ブラックドラゴンから意思が来た」
「なんて言っておったかの?」
どこか憂いを帯びた様子のエンネ。浄化の光で輝く銀髪と、潤んだ瞳が美しく輝いている。
「もっと暴れたり奪ったり殺したりしたかった。残念……だってさ」
ブラックドラゴンは基本的に凶暴で強欲。ゾンビになってもその魂は健在だったようだ。
「……無念ではあったんじゃろうが。台無しじゃ」
「こういうこともある」
むしろ、死して尚アンデッドになるのは、こうした強い妄念に囚われていた場合に多いくらいだ。
「原因らしいものをすぐ確認できて良かったよ。少し、周りを調べてから帰ろうか」
「そうじゃな。魔物の様子だけは見ておかねば」
どうにか気分を取り直したエンネが、黒く変色した大地を見渡してそう言った。この地面も、性格の悪いブラックドラゴンの魔力を利用したから変質したんじゃないだろうか?
周辺を調査したうえで、ちゃんと夕食前には家に帰ることが出来た。マイサはとても喜んでいた。
ちなみに、勝手に動いたこの件を報告して、エルフの女王ヴィフレアから結構な怒られが発生したのはまた別の話だ。
「文句を言うでない。ワシとて研究中の魔法なんじゃからな」
着地の時についた埃を払いながらエンネが言う。
「で、あれなんじゃが。ブラックドラゴンのゾンビじゃな。魔王城の地下におったやつじゃ」
「? 俺はそんなもの倒した覚えはないぞ」
かつて、仲間達と魔王城に殴り込んだ時、邪魔する魔族も魔物も全部斬った。でも、その中にドラゴンはいなかったはずだ。そもそも、あんなデカブツが何で城の地下にいたんだ?
「そりゃそうじゃ。元々あやつはこの地域に飛んできた個体でな。魔王様が倒された後、地下で魔力を吸い出す苗床にされとった」
「なんでそんなことを……。もしかして、この辺の土地がおかしくなったのってそれか?」
問いかけにエンネが頷く。
「ドラゴンの内包する魔力は莫大。特にあれは言葉を話せる知恵ある竜じゃったからな。半死状態でその魔力を色んな実験に使われておった」
「酷いもんだ」
俺の短い感想に、エンネは苦笑して返す。
「魔王様とお主達が決戦に挑む頃には、あやつは魔力を搾り取られ、死んでおったはずなんじゃが」
「ドラゴンは強大だからな。死んだ後もその無念から魂がとどまり、アンデッドとなって復活したんだろう」
この世界のアンデッドは、何かしらの未練があったり、しっかり弔われなかった場合に発生する。とはいえ、基本的に確率としては低い。例外は高い魔力を保有している生き物。
「運命神の使徒として、あれは浄化できるかの?」
神聖魔法にはアンデッドを浄化する魔法がある。むしろ、神官達は積極的にアンデッドは浄化するよう務めている。もちろん、俺も使えるし。積極的に安らかな終わりを迎えさせてあげたい。
問題は、俺の神聖魔法の使い手としての能力が、勇者だった時より落ちていることだ。一発で浄化は難しい。
対抗策はある。力押しだ。
「弱ってれば、何とかなるかな。あれ、既に結構弱くなってるだろ?」
「うむ。生前の残りカスじゃからな。大したことはない」
空から見た感じ、それほど脅威には感じなかった。知性を持たないドラゴン並に性能は落ちていると見ていい。
「魔物がホヨラの方まで溢れてきたの、あれが原因だと思うか?」
「恐らくはな。あんなのがおったら、周りの魔物達は山を越えてでも逃げるじゃろうしのう」
方向性としては、あのドラゴンゾンビを浄化すれば、何とかなる気がする。
そう結論に至った俺達は、元魔王城に向かうのだった。
◯◯◯
「キシュウゥゥゥゥ!」
半分骨格が見え隠れしたブラックドラゴン・ゾンビ。かつては大地を震わす咆哮をあげていたであろう喉からは、空気を切り裂く音が漏れるのみだ。
それでも、全長十メートルはある体躯と、まだ体表に残る黒光りする鱗、怒りに燃えて白濁した瞳は殺意の塊といえた。
ブラックドラゴン・ゾンビは俺達を視認するなり、魔王城の跡地から飛び出して襲いかかってきた。骨が剥き出しの翼は羽ばたけず、半分這うような動きでこちらに突撃をかけてくる。
「多分、魔族のワシに反応したんじゃろうな。……行け」
エンネが両手に魔力を集め、巨大な光の槍として次々と射出する。ほぼ無詠唱の無属性魔法。早さが売りで威力がいまいちなはずだが、彼女が使うと早くて強力な凶器と化す。
射出された光の槍が次々とドラゴンゾンビの鱗を貫く。もはや恨みだけで動くアンデッドは、速度を落としつつも接近する。
「む。ちと効きが弱いのう。ああ、全身に魔力が鎧のように巡っておるわ。ドラゴンは凄いのう。本能であれをやるんじゃ」
「もう少し、痛めつけなきゃ駄目そうだな」
往時は相当強力なドラゴンだったんだろう。弱体化している今ですら、エンネの魔法を受けて無事なんだから。以前見たトリプルヘッドパイソンだったら、頭が吹き飛んでいるはずだ。
「援護を頼むよ」
「うむ。気を付けてな」
全身と手に持った鎌と斧に強化魔法をかける。今回は得物を二つにしてみた。こういう時、もっとちゃんとした武器を用意すべきか悩むな。でも、女神の用意したミスリル製の農具より強い武器は見つけるのが難しい。
そんなことを考えつつ、俺はドラゴンゾンビに接近。
「ジャアァァァア!」
近づいて来た邪魔者を払うため、巨大な前足が振るわれる。当然、避ける。ついでに鎌でお思い切り切り裂く。
魔力によって延長された斬撃は、ドラゴンの左前足をほぼ切り裂いた。全身に魔力のバリアを張ってるけど、そんなに厚くないな。武器の力で押せそうだ。
アンデッドは痛みを感じない。負傷を気にせず、更に俺に攻撃を加えるべく体をくねらせる。
そこに、エンネの魔法が直撃した。
ドラゴンゾンビの右半身に巨大な魔法の槍が一本突き刺さる。
「シュルルルルッ」
痛みはなくとも、不利は自覚したのだろう。巨体をうねらせながら、一歩引いた。それも、空高く首をもたげながら。
この手のアンデッドの欠点は、知性が大幅に落ちることだ。話によると、生前は言語も介したというブラックドラゴン。その知性が失われたのは致命的だろう。
俺を前にして、喉笛を晒しているのだから。
「悪い。この後成仏してもらうから」
そう詫びてから、全力で魔力を注ぎ込んだ斧と鎌の一撃を、ドラゴンゾンビの首に叩き込んだ。
思った以上にあっさりと首は切断され、轟音と共にブラックドラゴンゾンビは大地に倒れ伏した。
「やはり強いのう。クウトは」
「エンネの援護のおかげだよ」
「そうかのう。まだまだ勘が戻らぬわ……」
やってきたエンネはそう呟きつつ、ドラゴンゾンビの死体をじっと見つめる。
「すまぬな。ワシらの勝手で好き放題されて。さぞ無念じゃったろう……」
そう言って静かに手を合わせた。両手を合わせるのは運命神の祈りの形だ。俺が前世の癖でやったのが広まった形で、定着してしまった。マイサの祈る姿を毎日見ていて覚えたんだろう。
「せめて、浄化してあげようか」
「よろしく頼む。これはワシにはできん仕事じゃ」
俺は一歩前に出て運命神ユーネルマ様に祈る。エンネと同じく両手を合わせて。
「運命を司る女神よ。哀れな魂あり、使徒クウトが、ここに浄化の奇跡を願わん……」
いつもと違い、自分の名前を名乗るのは祈りをより強く届けるためだ。一応、加護持ちで使徒である俺の願いは強く作用するはず。
祈りは通じた。ブラックドラゴン・ゾンビの骸が天から差し込んだ光によって、光る霧として分解されていく。
「おぉ……」
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「ありがとうございます。ユーネルマ様……」
俺が祈りを届け、最後まで浄化を見守る。
浄化の魔法は特殊だ。最後の瞬間に対象の意思が伝わってくることがある。神官はそれを関係者に伝える役目も担う。
「…………ブラックドラゴンから意思が来た」
「なんて言っておったかの?」
どこか憂いを帯びた様子のエンネ。浄化の光で輝く銀髪と、潤んだ瞳が美しく輝いている。
「もっと暴れたり奪ったり殺したりしたかった。残念……だってさ」
ブラックドラゴンは基本的に凶暴で強欲。ゾンビになってもその魂は健在だったようだ。
「……無念ではあったんじゃろうが。台無しじゃ」
「こういうこともある」
むしろ、死して尚アンデッドになるのは、こうした強い妄念に囚われていた場合に多いくらいだ。
「原因らしいものをすぐ確認できて良かったよ。少し、周りを調べてから帰ろうか」
「そうじゃな。魔物の様子だけは見ておかねば」
どうにか気分を取り直したエンネが、黒く変色した大地を見渡してそう言った。この地面も、性格の悪いブラックドラゴンの魔力を利用したから変質したんじゃないだろうか?
周辺を調査したうえで、ちゃんと夕食前には家に帰ることが出来た。マイサはとても喜んでいた。
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