限界勇者のスローライフ~追放気味に田舎暮らしに突入したけど、元魔王やら魔族の子と出会って何だか幸せに暮らせています~

みなかみしょう

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第27話:限界勇者と夏野菜

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 五日もしないうちに、家具が我が家に揃っていった。城門の外に家があるので、荷車を借りて自分たちで運びこむことになり、エンネと協力してどんどん運び込んだ。
 家の中にはテーブルと椅子を始めとした家具類が入り、寝室もようやくそれらしく整った。生活環境が充実すると、思ったよりも満足度が高い。前世で友人が俺の部屋に来た時、なにも無くてドン引きしていた理由がようやくわかった気がする。

「ふんふんふんふんふん!」
「ほいほいほいほいほい!」

 それはそれとして、労働である。
 家の東側で人々が本格的に畑仕事を始めた。家の建築が始まったりと動きも早い。それに伴い、俺達も依頼された柵の設置を始めていた。
 町の方で用意してくれた資材を使って、とにかく地面に杭を叩き込む。それから横板を止める。指示された範囲でそれをひたすら繰り返す。出来は本職に及ばなくても設置速度は圧倒的だろう。……たまにこっそり夜にやったりもするので。

 また、暮らし始めに伐採した木材も町が全て買い取ってくれた。大量に積まれた丸太は、近くで加工されて建材へと生まれ変わるだろう。家の周りが少しスッキリしたのでエンネが喜んでいた。空いた土地でマイサと魔法の練習をしている。

 もちろん、合間に冒険者組合の採取依頼を受けるのも忘れない。働いてばかりだが、毎日の生活に不満はない。ちゃんと休めるし。命のやり取りも起きない。俺にも日常生活というものを理解できるようになったのだろう。このままいけば、スローライフを極める日も案外近いかもしれない。

 そんな感慨に耽りながら、一日分の柵設置を終えて、俺は家に向かっていた。
 今日はエンネがマイサのお迎えで先に帰っている。今頃、二人で掃除なり夕飯の準備でもしているだろうか。
 夏の夕暮れ、赤く染まった空の下を歩くのは悪い気分はしない。
 
「? 畑の野菜が減ってるな」

 家庭菜園の前で気付いた。トマトやキュウリなど、いよいよ収穫時になった野菜類がかなり減っていた。今朝がた、三人でそろそろ頃合いだと話していたので、エンネ達が収穫したんだろうか。
 できれば俺も混ぜてほしかったけど、収穫の機を逃すのも良くない。そう納得しつつ、俺は玄関を開けた。

「ただいま。畑の野菜、収穫したの?」
「おかえりなさい。今日は夏野菜のカレーよ」

 やたらと良い匂いのする鍋をかき回しながら、運命の女神ユーネルマがにこやかに俺を出迎えた。

「なんで……いや、まさか、本当に夏野菜の収穫に合わせて?」

 前に別れ際に言っていた。「夏野菜の収穫時に来る」と。本当に来るとは思わなかった。

「驚いたでしょう。ちなみにエンネさんとマイサさんはもっと驚きました」
「祭壇からにゅるんと出てきたんじゃぞ。驚くわ」
「こんな気軽に女神様とお話ししていいのかな……」

 見れば、エンネ達はちゃぶ台の周りに座っている。そして、そこには見覚えのない座布団も敷かれていた。

「せっかくだから、座布団も持ってきました。ささ、もう出来ますから貴方もお待ちなさい」

 十分後、俺達は再び女神と食卓を囲むことになった。

「いただきます!」
「いただきます」

 有無を言わせない圧を感じ、全員が目の前に置かれたカレーに手を出す。オクラ、ナス、ズッキーニ、トマト、赤パプリカなどが入った夏野菜のカレーだ。

「オクラってうちの畑にあったかな?」
「そこは私が持ってきました。カレー、この世界にないから懐かしいでしょう?」
「それはもう」

 久しぶりに食べるカレーの味は、凄まじく鮮烈だった。恐らく、ユーネルマ様は特別なことはしていない。なにせ、日本で普通に買えるカレールーの箱が台所にあったくらいだ。
 しかし、調味料に乏しいこの世界で生きてきた俺の舌に、日本のカレーの味はあまりにも強烈かつ芳醇で美味い。

「うお。これ美味いの! 天界の食べ物か?」
「女神様の料理、見たことないものばかりだけど、美味しいです」

 エンネ達は感想を言いつつ夢中で食べている。ブーケガルニみたいに野菜から出汁をとったりもするけど、ここまで濃厚な味のものは、まずないもんね。

「えっと、今日は何か御用ですか? まさかカレーを振る舞うために来たわけではないですよね」
「半分はこれが目的です。貴方に関しては少しアフターケアを念入りにしようと思っていますので」

 食事を終えるなり素直に質問すると、ユーネルマ様はそう答えた。

「放っておくとどうなるかわかりませんからね。クウトは」
「それはわかるのう。涼しい顔でとんでもないことをしおる」

 何故かエンネが同意していた。そこまで変わったことはしていないと思うけど。

「祭壇経由で多少は情報が読み取れるのですが、実際に現界しないと見えないものもあります」

 俺達三人に視線を走らせながら、ユーネルマ様は二言三言、何かを呟く。

「少し、運命に大きな流れが来ていますね。神託は……やめておきましょう。私の神託、評判悪いですから」
「ああ、たしかに……」

 運命の女神の神託は、謎めいていてわかりにくい。それと、酷く不穏に聞こえる。しかも、割と外れる。運命というのは一定ではなく常に揺らいでいるから。

「一番予言とかできそうなのに、評判悪いんじゃのう……」

 エンネの指摘はもっともで、そんな所が運命神がいまいち流行らない理由なんじゃないかと思う。
 
「私にも得意不得意があるのです。そうですねぇ……三人とも、自分を信じなさい。このくらいがいいでしょう」

 神託どころか個人的な励ましみたいなことを言い出した。

「これはつまり、近い内に何かあるってことですよね?」
「多分? かなりの確率ですね。運命は一定ではありません」
「あ、神殿のご本によく出てくる台詞だ。本当に言うんですね「運命は一定ではありません」って」
「そういうしかない場面があるのですよ。信徒マイサ。神とはいえ万能ではありませんから」
「運命神も苦労しているんじゃのう」
「まあ、ちょっと私は特殊な立ち位置ですから。あ、残った野菜も少し貰っていきますね。供物ってことで」
「もう帰るんですか?」

 急に立ち上がったユーネルマ様はそのまま俺達を見下ろしながら言う。

「私が顕現できるのはこの屋内、それも時間制限つきです。女神の用意した種から作った料理ですから、少しはご加護がありますよ。それでは、三人に良き運命がありますように」

 そんな言葉と共に、にこやかな笑みを残して、ゆっくりと光の粒になって消えていってしまった。

「この料理、そんな凄いものじゃったのか……」
「なんか気軽に食べちゃってたけど、良かったのかな?」
「本人が食べろって言ってたんだから大丈夫だよ」

 女神が残していってカレー鍋を見ながら俺は考える。
 加護付きの料理を振る舞うのもアフターケアの範疇ってことなんだろう。あの人、意外と無意味なことはしないはずだから。
 大した事が起きなきゃいいけど。
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