28 / 33
第28話:限界勇者と来訪者
しおりを挟む
最近、新聞を読むようになった。
といっても、定期購読しているわけじゃない。冒険者組合に行った時に、置いてある新聞をたまに見るくらいだ。
生活が落ち着いて来て、世間に目を向ける余裕が出てきたってことなのかもしれない。
「……今頃か」
組合の狭い部屋で、その記事を見つけて眉をひそめた。そこそこ大きな記事で『ルーンハイト王国、勇者会議を解散』という見出しのものだ。
内容に関しては大きく現実から歪められている。勇者クウトは役目を終え、天界に昇っていった、という感じだ。それに伴い、勇者会議も解散。
記事では、勇者消失によるルーンハイト王国の今後についても予想が書かれていた。世界で唯一の存在を保持していたのは大きいが、政治的な利用を避けていた向きがある。
そのため、大国としての地位は大きく変わることはないだろう。活発に外交を行っているという情報も入っていて、国としてもその点は自覚的なのではないだろうか、とのことだ。
俺一人いなくなっても、あの国は問題ないくらい大きくなっていたらしい。
同時に、この記事が今更掲載された所に、勇者消失はそれなりの大事だったのも間違いないのは理解できた。
正式発表するまでに表に裏に色々あったのだろう。もう俺には関係のないことだけど。
「なにか面白い記事でもあったのかのう?」
近くでバリオン、マイサと三人で会話に花を咲かせていたエンネが聞いてきた。
「いや、そんな大したことは書いてなかったよ。それより、大分盛り上がってたみたいだね」
新聞を折り畳みながら聞く。先程からこの三人は随分と熱心に話し込んでいた。内容は主に料理だ。トリプルヘッドパイソン事件以降、バリオンさんはよく料理のことを話すようになった。
「バリオンさんにね、ホヨラの美味しいお店のことを聞いてたんだよ。知らない所が沢山あるんだー」
「こう見えて安くて美味い店を探し歩いてるからな」
「さすがは料理人じゃのう。かつてないほど有用な情報じゃよ」
「バリオンさんおすすめの店なら外れは無さそうだね」
今度、三人で食べに行ってみようか。たまには外食も悪くない。
「おお、お前もその新聞を読んだか。ルーンハイトも大変だよな。ま、勇者様も長く戦ってくれたし、良かったんじゃないか」
新聞の見出しに気づいて、バリオンさんは感慨深げに頷く。
認識が阻害されている。
最近になって、今更気付いた事実だ。
女神ユーネルマ様が俺に与えた新たな加護。その一つに、認識阻害があるようだ。
明らかに不自然なタイミングで現れた我が家、思い返せば異常な労働をこなす俺とエンネ。勇者会議解散と俺の出現を紐づける人がいないこと。
有り体にいってしまえば、俺達がこの町に馴染めているのは新たな加護による面が大きい。普通ならとっくに正体がバレているだろう。
なるほど。スローライフを送るための加護と考えれば、これは有り難い。エンネとマイサを守る上でも作用しているようだし、今後も利用させてもらおう。
「それよりもオススメの店を詳しく教えて下さいよ。俺は肉料理がいいですね」
新聞を裏返しつつ、俺は席を立ってバリオンさんとの会話に加わった。
◯◯◯
我が家の財政事情の改善ぶりを思えば、外食も気楽にできる。この日は家に食材があるからということで、家に帰ることにした。
「いいのか? 別に外食でも良かったんだけど」
「うん! ボク、こうやって三人で家に帰って食べるのが好きなんだ」
「マイサが良いならそうするとするのじゃ」
城門の外、茜色に染まる空。それを僅かに反射する大地。夏の夕暮れ時を、三人で歩く。マイサが好きだというのもわかる時間だ。
「今日は何を作るかのう。バリオンから教わった味付けでも試すとするか」
「ボクにも手伝わせて」
最近、マイサがエンネの手伝いをすることが多い。楽しそうに、彼女の周りで料理を教わっている。俺もキッチンに入るとスペースがなくなってしまうので、見ていることが多い。
俺達が家族という形になっているかわからないけど、悪くない関係にはなれている。そう思いたい。
家の前に人がいた。それも、あまり見たくない顔だ。
「…………」
「どうしたんじゃ、クウト。あれは良くない知り合いかの?」
突然立ち止まった俺の表情を見て、エンネが怪訝な顔をする。
彼女の言う通り、知り合いだった。
金髪に白い神官服。柔和な雰囲気を漂わせている女性が、俺を見つけて歩み寄ってくる。
「ああ、良かったです。ご挨拶に来たのですが不在なようで。困っていましたの」
その女性は、俺の前に来るとそう言った。
まるで、あの時のことなどなかったかのように。
「何のようだ、フィラーシャ」
光の神の神官。元勇者会議の一員。俺の仲間の子孫。
ここにいるはずのない女は、俺の棘を含んだ物言いを気にもせずににっこりと笑った。
「少し、お願いがあって来ましたの」
◯◯◯
光の神の神官、フィラーシャ。俺は彼女についてはよく知らない。勇者会議では静かな方だったし、時折神殿からの意向を伝えていたくらいだ。なんとなく、権力志向というか、地位を上げたいという雰囲気は感じていた。
光の神は、重箱世界の人間界では最大勢力の神だ。ユーネルマ様と違い、名前は知られていない。どうもあえてそのように振る舞っているようだ。
ユーネルマ様から言わせると「気取ってる」というこの手法だけど、上手くいっていると俺は感じている。
下手に名前がつくと人格と紐づいて親しみを感じてしまいそうだし。身近に例がある。
ちなみに光の神は運命神にベタ惚れでしつこく求婚しているというのが、この世界の共通認識だ。実際、ユーネルマ様はそれが原因で色々なところを逃げ回っているらしい。
「まさか、本当に家にあげて貰えるとは思いませんでした。ちょっと向こうの人の目線が怖いですけど」
まさか、来客用に買ったテーブルの初仕事が彼女相手になるとは思わなかった。俺が対面に座り、エンネが渋々といった様子でお茶を用意してくれた。マイサは寝室で待機だ。
「クウトが許したんじゃ。ワシは従う。ま、気に入らんのは事実じゃがの」
「それは私も同じ事。魔王軍の生き残りが堂々としたものですね」
「…………」
「…………」
睨み合う二人。空気は最悪だ。早めに用件だけ話して帰ってもらおう。
「デルタン王国をご存知ですか? ルーンハイトから少し北に行った所にある、小さな国です」
「昔、訪れたことがあるな。もう何十年も前の話だ」
記憶も大分怪しいけど、迫害されている魔族を逃がした記憶がある。
「今、デルタン内の領地でちょっとした内乱が起きています」
「内乱って、他国の事情じゃないのか?」
俺の問いかけに、フィラーシャはいかにも困りましたという顔をする。
「そこが問題なのです。事件の概要は魔法を使った実験。魔族絡みの何かを使って魔物を強化、使役しようとしたようです。それでまあ、反乱を企てていたようですの」
「魔族絡みの何かか……」
「詳細は不明ですの。どうも、元々王家と反りが合わなかった領主が爆発したみたいですね。元を辿れば大昔に良からぬことをしていたようですけれど」
子孫の代になってもしっかり冷遇されてたのが気に入らなかったんだろうか。
「それで、この話のどこに俺が関係あるんだ?」
今のところ、俺が関わる余地はない。遠い国の遠い出来事だ。わざわざフィラーシャが教えに来るような事件とも思えない。
「この事件にゲイルが関わっていますの。鎮圧側の傭兵として参加。多分、このままだと死ぬと思いますわ」
ゲイル。かつての俺の親友の子孫。勇者会議で最も俺を冷遇して来た男。
傭兵になっているのは驚きだけど、納得はいく。あいつは戦闘に関してだけは才能を受け継いでいた。家を出て、剣一つで身を立てるのは不思議な話じゃない。
「なんで死ぬってわかってるんだ?」
「光の神から神託を受けましたの。避けるには貴方の力が必要だと」
さらりと言われた。フィラーシャも高位の神官。神託がくだってもおかしくはない。特に今回のような場合は。
光の神はユーネルマ様に惚れているからか、ちょっとお節介なくらい、俺に絡んだ神託をすることがあるのだ。どうも、本人はそれでポイントを稼いでいるつもりらしい。
「行ってはならんぞ、クウト。もうお主には関係のない話じゃ。助ける理由もあるまい」
ちゃぶ台の横に座り静かに話を聞いていたエンネが冷たく言い切った。
その通りだ。勇者会議の面々がどうなろうと俺にはもう関係ない。
「そう言うと思いましたわ。でも私、これで諦めるならわざわざ国境を越えてきませんの」
フィーラシャは胸元から黄色い宝石のはまったペンダントを取り出す。
太陽をかたどったそれは、光の神の聖印だ。
「光を司る神の名の下に、私、フィラーシャは偽り無き言の葉を紡ぐことを誓います。もし違えることあれば、神罰を賜りますよう」
祈りの応じるように聖印の宝石が輝いた。同時に室内の空気が変わった。どこか緊張感のある、静謐な感覚。
「今、私はこの場において嘘をつけなくなりました。その上で、知る限りのことをお話します。証拠がありませんので、このような形でしか真実を証明できませんの」
聖印を輝かせながら、フィラーシャは語る。彼女の見てきた勇者会議を。
全てはゲイルとスランドの計画であり。その目的は俺が自主的に勇者を辞めるようにするため。
また、勇者を政治利用されないため、そうする必要があったことを。
ゲイルが全ての責を受け、傭兵に身を落とし戦い続けていることを。
フィラーシャは静かに、しかし流れるように語った。
神罰は最後まで下らなかった。
「以上が、私の知ること全てですわ。事情があったとはいえ、先祖がお世話になった貴方への仕打ちは許されるものではないことは重々承知しております」
ゆっくりと頭を下げて、フィラーシャは言う。
「どうか、ゲイルを助けに行ってくれませんか。神託は彼の死を予言していました。それを捻じ曲げる強さを持つのは、世界で貴方だけ……」
「…………」
神の名の元で語られた以上、これが真実なのは間違いない。あくまで、フィラーシャから見た真実ではある。
「今の話が本当かどうか、本人に聞いて確かめる必要があるね」
「それでは……!」
喜色を浮かべて顔を上げたフィラーシャ。それに横合いから冷水をかけたのはエンネだった。
「話はわかったし、クウトの決断じゃから止めはせんが。デルタンって遠いんじゃろ? 間に合うんか?」
ここからルーンハイトまで馬車を使っても十日以上かかる。既に事件は起きているんだから、到着した頃にゲイルが生きているかは怪しい。
「そうだ。フィラーシャは神託を受けてから来た。なにか特殊な移動方法があるんじゃないか?」
「いえ、たまたまこちらの国に来たタイミング神託を受けましたの……。ですが、不可能なことを我が神が伝えるとも思えません」
ルオンノータが、運命神からもたらされた神剣があれば一瞬で現地に向かえた。今、あれは天界に帰ってしまった。
かくなる上は、あれを使うしかない。
「エンネ、すまないが手伝ってくれるか?」
「もちろんじゃとも。そもそも、ワシもついていくつもりだったわい」
こうして、二度目の飛行魔法の実施が決まった。しかも、今回は長距離だ。
といっても、定期購読しているわけじゃない。冒険者組合に行った時に、置いてある新聞をたまに見るくらいだ。
生活が落ち着いて来て、世間に目を向ける余裕が出てきたってことなのかもしれない。
「……今頃か」
組合の狭い部屋で、その記事を見つけて眉をひそめた。そこそこ大きな記事で『ルーンハイト王国、勇者会議を解散』という見出しのものだ。
内容に関しては大きく現実から歪められている。勇者クウトは役目を終え、天界に昇っていった、という感じだ。それに伴い、勇者会議も解散。
記事では、勇者消失によるルーンハイト王国の今後についても予想が書かれていた。世界で唯一の存在を保持していたのは大きいが、政治的な利用を避けていた向きがある。
そのため、大国としての地位は大きく変わることはないだろう。活発に外交を行っているという情報も入っていて、国としてもその点は自覚的なのではないだろうか、とのことだ。
俺一人いなくなっても、あの国は問題ないくらい大きくなっていたらしい。
同時に、この記事が今更掲載された所に、勇者消失はそれなりの大事だったのも間違いないのは理解できた。
正式発表するまでに表に裏に色々あったのだろう。もう俺には関係のないことだけど。
「なにか面白い記事でもあったのかのう?」
近くでバリオン、マイサと三人で会話に花を咲かせていたエンネが聞いてきた。
「いや、そんな大したことは書いてなかったよ。それより、大分盛り上がってたみたいだね」
新聞を折り畳みながら聞く。先程からこの三人は随分と熱心に話し込んでいた。内容は主に料理だ。トリプルヘッドパイソン事件以降、バリオンさんはよく料理のことを話すようになった。
「バリオンさんにね、ホヨラの美味しいお店のことを聞いてたんだよ。知らない所が沢山あるんだー」
「こう見えて安くて美味い店を探し歩いてるからな」
「さすがは料理人じゃのう。かつてないほど有用な情報じゃよ」
「バリオンさんおすすめの店なら外れは無さそうだね」
今度、三人で食べに行ってみようか。たまには外食も悪くない。
「おお、お前もその新聞を読んだか。ルーンハイトも大変だよな。ま、勇者様も長く戦ってくれたし、良かったんじゃないか」
新聞の見出しに気づいて、バリオンさんは感慨深げに頷く。
認識が阻害されている。
最近になって、今更気付いた事実だ。
女神ユーネルマ様が俺に与えた新たな加護。その一つに、認識阻害があるようだ。
明らかに不自然なタイミングで現れた我が家、思い返せば異常な労働をこなす俺とエンネ。勇者会議解散と俺の出現を紐づける人がいないこと。
有り体にいってしまえば、俺達がこの町に馴染めているのは新たな加護による面が大きい。普通ならとっくに正体がバレているだろう。
なるほど。スローライフを送るための加護と考えれば、これは有り難い。エンネとマイサを守る上でも作用しているようだし、今後も利用させてもらおう。
「それよりもオススメの店を詳しく教えて下さいよ。俺は肉料理がいいですね」
新聞を裏返しつつ、俺は席を立ってバリオンさんとの会話に加わった。
◯◯◯
我が家の財政事情の改善ぶりを思えば、外食も気楽にできる。この日は家に食材があるからということで、家に帰ることにした。
「いいのか? 別に外食でも良かったんだけど」
「うん! ボク、こうやって三人で家に帰って食べるのが好きなんだ」
「マイサが良いならそうするとするのじゃ」
城門の外、茜色に染まる空。それを僅かに反射する大地。夏の夕暮れ時を、三人で歩く。マイサが好きだというのもわかる時間だ。
「今日は何を作るかのう。バリオンから教わった味付けでも試すとするか」
「ボクにも手伝わせて」
最近、マイサがエンネの手伝いをすることが多い。楽しそうに、彼女の周りで料理を教わっている。俺もキッチンに入るとスペースがなくなってしまうので、見ていることが多い。
俺達が家族という形になっているかわからないけど、悪くない関係にはなれている。そう思いたい。
家の前に人がいた。それも、あまり見たくない顔だ。
「…………」
「どうしたんじゃ、クウト。あれは良くない知り合いかの?」
突然立ち止まった俺の表情を見て、エンネが怪訝な顔をする。
彼女の言う通り、知り合いだった。
金髪に白い神官服。柔和な雰囲気を漂わせている女性が、俺を見つけて歩み寄ってくる。
「ああ、良かったです。ご挨拶に来たのですが不在なようで。困っていましたの」
その女性は、俺の前に来るとそう言った。
まるで、あの時のことなどなかったかのように。
「何のようだ、フィラーシャ」
光の神の神官。元勇者会議の一員。俺の仲間の子孫。
ここにいるはずのない女は、俺の棘を含んだ物言いを気にもせずににっこりと笑った。
「少し、お願いがあって来ましたの」
◯◯◯
光の神の神官、フィラーシャ。俺は彼女についてはよく知らない。勇者会議では静かな方だったし、時折神殿からの意向を伝えていたくらいだ。なんとなく、権力志向というか、地位を上げたいという雰囲気は感じていた。
光の神は、重箱世界の人間界では最大勢力の神だ。ユーネルマ様と違い、名前は知られていない。どうもあえてそのように振る舞っているようだ。
ユーネルマ様から言わせると「気取ってる」というこの手法だけど、上手くいっていると俺は感じている。
下手に名前がつくと人格と紐づいて親しみを感じてしまいそうだし。身近に例がある。
ちなみに光の神は運命神にベタ惚れでしつこく求婚しているというのが、この世界の共通認識だ。実際、ユーネルマ様はそれが原因で色々なところを逃げ回っているらしい。
「まさか、本当に家にあげて貰えるとは思いませんでした。ちょっと向こうの人の目線が怖いですけど」
まさか、来客用に買ったテーブルの初仕事が彼女相手になるとは思わなかった。俺が対面に座り、エンネが渋々といった様子でお茶を用意してくれた。マイサは寝室で待機だ。
「クウトが許したんじゃ。ワシは従う。ま、気に入らんのは事実じゃがの」
「それは私も同じ事。魔王軍の生き残りが堂々としたものですね」
「…………」
「…………」
睨み合う二人。空気は最悪だ。早めに用件だけ話して帰ってもらおう。
「デルタン王国をご存知ですか? ルーンハイトから少し北に行った所にある、小さな国です」
「昔、訪れたことがあるな。もう何十年も前の話だ」
記憶も大分怪しいけど、迫害されている魔族を逃がした記憶がある。
「今、デルタン内の領地でちょっとした内乱が起きています」
「内乱って、他国の事情じゃないのか?」
俺の問いかけに、フィラーシャはいかにも困りましたという顔をする。
「そこが問題なのです。事件の概要は魔法を使った実験。魔族絡みの何かを使って魔物を強化、使役しようとしたようです。それでまあ、反乱を企てていたようですの」
「魔族絡みの何かか……」
「詳細は不明ですの。どうも、元々王家と反りが合わなかった領主が爆発したみたいですね。元を辿れば大昔に良からぬことをしていたようですけれど」
子孫の代になってもしっかり冷遇されてたのが気に入らなかったんだろうか。
「それで、この話のどこに俺が関係あるんだ?」
今のところ、俺が関わる余地はない。遠い国の遠い出来事だ。わざわざフィラーシャが教えに来るような事件とも思えない。
「この事件にゲイルが関わっていますの。鎮圧側の傭兵として参加。多分、このままだと死ぬと思いますわ」
ゲイル。かつての俺の親友の子孫。勇者会議で最も俺を冷遇して来た男。
傭兵になっているのは驚きだけど、納得はいく。あいつは戦闘に関してだけは才能を受け継いでいた。家を出て、剣一つで身を立てるのは不思議な話じゃない。
「なんで死ぬってわかってるんだ?」
「光の神から神託を受けましたの。避けるには貴方の力が必要だと」
さらりと言われた。フィラーシャも高位の神官。神託がくだってもおかしくはない。特に今回のような場合は。
光の神はユーネルマ様に惚れているからか、ちょっとお節介なくらい、俺に絡んだ神託をすることがあるのだ。どうも、本人はそれでポイントを稼いでいるつもりらしい。
「行ってはならんぞ、クウト。もうお主には関係のない話じゃ。助ける理由もあるまい」
ちゃぶ台の横に座り静かに話を聞いていたエンネが冷たく言い切った。
その通りだ。勇者会議の面々がどうなろうと俺にはもう関係ない。
「そう言うと思いましたわ。でも私、これで諦めるならわざわざ国境を越えてきませんの」
フィーラシャは胸元から黄色い宝石のはまったペンダントを取り出す。
太陽をかたどったそれは、光の神の聖印だ。
「光を司る神の名の下に、私、フィラーシャは偽り無き言の葉を紡ぐことを誓います。もし違えることあれば、神罰を賜りますよう」
祈りの応じるように聖印の宝石が輝いた。同時に室内の空気が変わった。どこか緊張感のある、静謐な感覚。
「今、私はこの場において嘘をつけなくなりました。その上で、知る限りのことをお話します。証拠がありませんので、このような形でしか真実を証明できませんの」
聖印を輝かせながら、フィラーシャは語る。彼女の見てきた勇者会議を。
全てはゲイルとスランドの計画であり。その目的は俺が自主的に勇者を辞めるようにするため。
また、勇者を政治利用されないため、そうする必要があったことを。
ゲイルが全ての責を受け、傭兵に身を落とし戦い続けていることを。
フィラーシャは静かに、しかし流れるように語った。
神罰は最後まで下らなかった。
「以上が、私の知ること全てですわ。事情があったとはいえ、先祖がお世話になった貴方への仕打ちは許されるものではないことは重々承知しております」
ゆっくりと頭を下げて、フィラーシャは言う。
「どうか、ゲイルを助けに行ってくれませんか。神託は彼の死を予言していました。それを捻じ曲げる強さを持つのは、世界で貴方だけ……」
「…………」
神の名の元で語られた以上、これが真実なのは間違いない。あくまで、フィラーシャから見た真実ではある。
「今の話が本当かどうか、本人に聞いて確かめる必要があるね」
「それでは……!」
喜色を浮かべて顔を上げたフィラーシャ。それに横合いから冷水をかけたのはエンネだった。
「話はわかったし、クウトの決断じゃから止めはせんが。デルタンって遠いんじゃろ? 間に合うんか?」
ここからルーンハイトまで馬車を使っても十日以上かかる。既に事件は起きているんだから、到着した頃にゲイルが生きているかは怪しい。
「そうだ。フィラーシャは神託を受けてから来た。なにか特殊な移動方法があるんじゃないか?」
「いえ、たまたまこちらの国に来たタイミング神託を受けましたの……。ですが、不可能なことを我が神が伝えるとも思えません」
ルオンノータが、運命神からもたらされた神剣があれば一瞬で現地に向かえた。今、あれは天界に帰ってしまった。
かくなる上は、あれを使うしかない。
「エンネ、すまないが手伝ってくれるか?」
「もちろんじゃとも。そもそも、ワシもついていくつもりだったわい」
こうして、二度目の飛行魔法の実施が決まった。しかも、今回は長距離だ。
2
あなたにおすすめの小説
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。
異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。
真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆
【あらすじ】
どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。
神様は言った。
「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」
現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。
神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。
それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。
あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。
そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。
そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。
ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。
この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。
さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。
そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。
チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。
しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。
もちろん、攻略スキルを使って。
もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。
下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。
これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる