限界勇者のスローライフ~追放気味に田舎暮らしに突入したけど、元魔王やら魔族の子と出会って何だか幸せに暮らせています~

みなかみしょう

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第28話:限界勇者と来訪者

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 最近、新聞を読むようになった。
 といっても、定期購読しているわけじゃない。冒険者組合に行った時に、置いてある新聞をたまに見るくらいだ。
 生活が落ち着いて来て、世間に目を向ける余裕が出てきたってことなのかもしれない。

「……今頃か」

 組合の狭い部屋で、その記事を見つけて眉をひそめた。そこそこ大きな記事で『ルーンハイト王国、勇者会議を解散』という見出しのものだ。
 内容に関しては大きく現実から歪められている。勇者クウトは役目を終え、天界に昇っていった、という感じだ。それに伴い、勇者会議も解散。
 記事では、勇者消失によるルーンハイト王国の今後についても予想が書かれていた。世界で唯一の存在を保持していたのは大きいが、政治的な利用を避けていた向きがある。
 そのため、大国としての地位は大きく変わることはないだろう。活発に外交を行っているという情報も入っていて、国としてもその点は自覚的なのではないだろうか、とのことだ。

 俺一人いなくなっても、あの国は問題ないくらい大きくなっていたらしい。 
 同時に、この記事が今更掲載された所に、勇者消失はそれなりの大事だったのも間違いないのは理解できた。
 正式発表するまでに表に裏に色々あったのだろう。もう俺には関係のないことだけど。

「なにか面白い記事でもあったのかのう?」

 近くでバリオン、マイサと三人で会話に花を咲かせていたエンネが聞いてきた。

「いや、そんな大したことは書いてなかったよ。それより、大分盛り上がってたみたいだね」

 新聞を折り畳みながら聞く。先程からこの三人は随分と熱心に話し込んでいた。内容は主に料理だ。トリプルヘッドパイソン事件以降、バリオンさんはよく料理のことを話すようになった。

「バリオンさんにね、ホヨラの美味しいお店のことを聞いてたんだよ。知らない所が沢山あるんだー」
「こう見えて安くて美味い店を探し歩いてるからな」
「さすがは料理人じゃのう。かつてないほど有用な情報じゃよ」
「バリオンさんおすすめの店なら外れは無さそうだね」

 今度、三人で食べに行ってみようか。たまには外食も悪くない。

「おお、お前もその新聞を読んだか。ルーンハイトも大変だよな。ま、勇者様も長く戦ってくれたし、良かったんじゃないか」

 新聞の見出しに気づいて、バリオンさんは感慨深げに頷く。

 認識が阻害されている。
 最近になって、今更気付いた事実だ。

 女神ユーネルマ様が俺に与えた新たな加護。その一つに、認識阻害があるようだ。
 明らかに不自然なタイミングで現れた我が家、思い返せば異常な労働をこなす俺とエンネ。勇者会議解散と俺の出現を紐づける人がいないこと。

 有り体にいってしまえば、俺達がこの町に馴染めているのは新たな加護による面が大きい。普通ならとっくに正体がバレているだろう。

 なるほど。スローライフを送るための加護と考えれば、これは有り難い。エンネとマイサを守る上でも作用しているようだし、今後も利用させてもらおう。

「それよりもオススメの店を詳しく教えて下さいよ。俺は肉料理がいいですね」

 新聞を裏返しつつ、俺は席を立ってバリオンさんとの会話に加わった。

◯◯◯


 我が家の財政事情の改善ぶりを思えば、外食も気楽にできる。この日は家に食材があるからということで、家に帰ることにした。

「いいのか? 別に外食でも良かったんだけど」
「うん! ボク、こうやって三人で家に帰って食べるのが好きなんだ」
「マイサが良いならそうするとするのじゃ」

 城門の外、茜色に染まる空。それを僅かに反射する大地。夏の夕暮れ時を、三人で歩く。マイサが好きだというのもわかる時間だ。
「今日は何を作るかのう。バリオンから教わった味付けでも試すとするか」
「ボクにも手伝わせて」

 最近、マイサがエンネの手伝いをすることが多い。楽しそうに、彼女の周りで料理を教わっている。俺もキッチンに入るとスペースがなくなってしまうので、見ていることが多い。
 俺達が家族という形になっているかわからないけど、悪くない関係にはなれている。そう思いたい。

 家の前に人がいた。それも、あまり見たくない顔だ。

「…………」
「どうしたんじゃ、クウト。あれは良くない知り合いかの?」

 突然立ち止まった俺の表情を見て、エンネが怪訝な顔をする。
 彼女の言う通り、知り合いだった。
 金髪に白い神官服。柔和な雰囲気を漂わせている女性が、俺を見つけて歩み寄ってくる。

「ああ、良かったです。ご挨拶に来たのですが不在なようで。困っていましたの」

 その女性は、俺の前に来るとそう言った。
 まるで、あの時のことなどなかったかのように。

「何のようだ、フィラーシャ」

 光の神の神官。元勇者会議の一員。俺の仲間の子孫。
 
 ここにいるはずのない女は、俺の棘を含んだ物言いを気にもせずににっこりと笑った。

「少し、お願いがあって来ましたの」

◯◯◯

 光の神の神官、フィラーシャ。俺は彼女についてはよく知らない。勇者会議では静かな方だったし、時折神殿からの意向を伝えていたくらいだ。なんとなく、権力志向というか、地位を上げたいという雰囲気は感じていた。

 光の神は、重箱世界の人間界では最大勢力の神だ。ユーネルマ様と違い、名前は知られていない。どうもあえてそのように振る舞っているようだ。
 ユーネルマ様から言わせると「気取ってる」というこの手法だけど、上手くいっていると俺は感じている。
 下手に名前がつくと人格と紐づいて親しみを感じてしまいそうだし。身近に例がある。

 ちなみに光の神は運命神にベタ惚れでしつこく求婚しているというのが、この世界の共通認識だ。実際、ユーネルマ様はそれが原因で色々なところを逃げ回っているらしい。

「まさか、本当に家にあげて貰えるとは思いませんでした。ちょっと向こうの人の目線が怖いですけど」

 まさか、来客用に買ったテーブルの初仕事が彼女相手になるとは思わなかった。俺が対面に座り、エンネが渋々といった様子でお茶を用意してくれた。マイサは寝室で待機だ。

「クウトが許したんじゃ。ワシは従う。ま、気に入らんのは事実じゃがの」
「それは私も同じ事。魔王軍の生き残りが堂々としたものですね」
「…………」
「…………」

 睨み合う二人。空気は最悪だ。早めに用件だけ話して帰ってもらおう。

「デルタン王国をご存知ですか? ルーンハイトから少し北に行った所にある、小さな国です」
「昔、訪れたことがあるな。もう何十年も前の話だ」

 記憶も大分怪しいけど、迫害されている魔族を逃がした記憶がある。

「今、デルタン内の領地でちょっとした内乱が起きています」
「内乱って、他国の事情じゃないのか?」

 俺の問いかけに、フィラーシャはいかにも困りましたという顔をする。

「そこが問題なのです。事件の概要は魔法を使った実験。魔族絡みの何かを使って魔物を強化、使役しようとしたようです。それでまあ、反乱を企てていたようですの」
「魔族絡みの何かか……」
「詳細は不明ですの。どうも、元々王家と反りが合わなかった領主が爆発したみたいですね。元を辿れば大昔に良からぬことをしていたようですけれど」

 子孫の代になってもしっかり冷遇されてたのが気に入らなかったんだろうか。

「それで、この話のどこに俺が関係あるんだ?」

 今のところ、俺が関わる余地はない。遠い国の遠い出来事だ。わざわざフィラーシャが教えに来るような事件とも思えない。

「この事件にゲイルが関わっていますの。鎮圧側の傭兵として参加。多分、このままだと死ぬと思いますわ」

 ゲイル。かつての俺の親友の子孫。勇者会議で最も俺を冷遇して来た男。
 傭兵になっているのは驚きだけど、納得はいく。あいつは戦闘に関してだけは才能を受け継いでいた。家を出て、剣一つで身を立てるのは不思議な話じゃない。

「なんで死ぬってわかってるんだ?」
「光の神から神託を受けましたの。避けるには貴方の力が必要だと」

 さらりと言われた。フィラーシャも高位の神官。神託がくだってもおかしくはない。特に今回のような場合は。
 光の神はユーネルマ様に惚れているからか、ちょっとお節介なくらい、俺に絡んだ神託をすることがあるのだ。どうも、本人はそれでポイントを稼いでいるつもりらしい。

「行ってはならんぞ、クウト。もうお主には関係のない話じゃ。助ける理由もあるまい」

 ちゃぶ台の横に座り静かに話を聞いていたエンネが冷たく言い切った。
 その通りだ。勇者会議の面々がどうなろうと俺にはもう関係ない。

「そう言うと思いましたわ。でも私、これで諦めるならわざわざ国境を越えてきませんの」

 フィーラシャは胸元から黄色い宝石のはまったペンダントを取り出す。
 太陽をかたどったそれは、光の神の聖印だ。

「光を司る神の名の下に、私、フィラーシャは偽り無き言の葉を紡ぐことを誓います。もし違えることあれば、神罰を賜りますよう」

 祈りの応じるように聖印の宝石が輝いた。同時に室内の空気が変わった。どこか緊張感のある、静謐な感覚。

「今、私はこの場において嘘をつけなくなりました。その上で、知る限りのことをお話します。証拠がありませんので、このような形でしか真実を証明できませんの」

 聖印を輝かせながら、フィラーシャは語る。彼女の見てきた勇者会議を。
 全てはゲイルとスランドの計画であり。その目的は俺が自主的に勇者を辞めるようにするため。
 また、勇者を政治利用されないため、そうする必要があったことを。
 ゲイルが全ての責を受け、傭兵に身を落とし戦い続けていることを。

 フィラーシャは静かに、しかし流れるように語った。
 神罰は最後まで下らなかった。

「以上が、私の知ること全てですわ。事情があったとはいえ、先祖がお世話になった貴方への仕打ちは許されるものではないことは重々承知しております」

 ゆっくりと頭を下げて、フィラーシャは言う。

「どうか、ゲイルを助けに行ってくれませんか。神託は彼の死を予言していました。それを捻じ曲げる強さを持つのは、世界で貴方だけ……」
「…………」

 神の名の元で語られた以上、これが真実なのは間違いない。あくまで、フィラーシャから見た真実ではある。

「今の話が本当かどうか、本人に聞いて確かめる必要があるね」
「それでは……!」

 喜色を浮かべて顔を上げたフィラーシャ。それに横合いから冷水をかけたのはエンネだった。

「話はわかったし、クウトの決断じゃから止めはせんが。デルタンって遠いんじゃろ? 間に合うんか?」

 ここからルーンハイトまで馬車を使っても十日以上かかる。既に事件は起きているんだから、到着した頃にゲイルが生きているかは怪しい。

「そうだ。フィラーシャは神託を受けてから来た。なにか特殊な移動方法があるんじゃないか?」
「いえ、たまたまこちらの国に来たタイミング神託を受けましたの……。ですが、不可能なことを我が神が伝えるとも思えません」

 ルオンノータが、運命神からもたらされた神剣があれば一瞬で現地に向かえた。今、あれは天界に帰ってしまった。
 かくなる上は、あれを使うしかない。

「エンネ、すまないが手伝ってくれるか?」
「もちろんじゃとも。そもそも、ワシもついていくつもりだったわい」

 こうして、二度目の飛行魔法の実施が決まった。しかも、今回は長距離だ。
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