零式輸送機、満州の空を飛ぶ。

ゆみすけ

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テスト操縦士、米国より来満する。

遠路はるばると地球を半周して・・・

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 「いいか、スミス君。」「ハイ。」
「黄色い猿が、ちゃんと組み立てられるか見極めてこい。」
 「わかりましたサー。」と、上官へ敬礼して返すスミス操縦士だ。
かれは、退役してダグラス社のテスト操縦士に採用された元軍人だ。
 満州国から輸送機の組み立てが終わって・・・テストする操縦士がいないと、連絡があったからだ。
「まさか、組み立てられるとはおもっていなかったが・・・」
 「ヤツらの技術は侮れんかもしれん。」「詳細に検分してきてくれよ。」
「わかりました。」「で、コパイは?」(コパイとは副操縦士のことだ。)
 「そうだな、アラン君でどうだ。」「わかりました。」
「太平洋航路の日本のアジア丸のチケットを渡しておこう。」
 1等室のキップ2枚と渡航許可証2枚を受け取る。
こうして、米国から満州国の大連港までへの渡航となったのだった。
 船旅は30日余りを要した。
シスコから横浜を通り大連港までは地球を半周だ。
 15ノット程度の客船では、そんなものだ。
客船にはシナ人やら欧州人も多かった。
 太平洋航路の客船は日本船が多かったのだ。
1等客室だったので快適な船旅だった。
 ダグラスDC-3型機の操縦ライセンスを獲得して・・・DC-3の300時間あまりの飛行経験があるスミス操縦士だ。
基本、一般的白人と同じくスミス、アラン両人は人種差別を当然と思っている国民だ。
 しかし、そこは大人である。
内心は差別しても、表には・・・さすがに表さなかったようだ。
 なんせ、日本の客船だし・・・
(日本と米国は互いに牽制はしていたが・・・開戦となるほど関係は悪化していない時代だ。)

 もう、船旅は御免だ・・・と、思う頃に大連港へ到着したのだ。
港には日本側から数人の出迎えが・・・二人の操縦士を歓迎してくれた。
 「おゃあ、お待ちしておりました。」
「機体は完成したのですが、肝心のテスト操縦士が日本には皆無ですので・・・」
 「完成した機体が調子よければ、我が社がライセンス生産をしたいとの希望もあります。」と、日本側が持ち上げる。
 わざわざ、地球を半周してやってきてくれたのだ、当然のことだ。
「今日は十分に休んでいただいて・・・」「テスト飛行は明日からで・・・」
 と、つたない英語で話す日本側だった。
ヤマモト君もサイトウ君も洋書は読めるが・・・おしゃべりは・・・まったく無理だったからである。
 それでも、通訳は雇えないから・・・わからないところは筆記で・・・なんとか通じたのだった。
当時の最新の技術書は英文が多かったからである。
 当時は英語は読めるが・・・しゃべれない(米国人に慣れて無い。)技師が多かったとか・・・
「ところで、エンジンは始動しましたか?」と、スミス君が聞いた。
 「まだ、廻していません。」と、正直に答えるヤマモト技師だ。
それには、訳があったのだ。
 普通、エンジン始動はプロペラを廻して駆動するのだが・・・
内地にはエンジン始動用の日本陸軍 トヨタ エンジン起動車 があったのだが・・・
 なんせ、特殊な車両で数が少ない。
とても、満州までは・・・廻ってはこなかったのだ。
 そして、ダグラスDC-3型には、エンジン始動のマニュアルが想像だけだから・・・
失敗して壊したら・・・後が無いのだ。

 「ふむ、形はできてるようだな。」と、スミス操縦士がいう。
「ありがとうございます。」「それなりに苦労しました。」と、サイトウ技師だ。
 実際のところ、工員らは初めての米軍機(輸送機)組み立てだ。
かなり、スキルを身に着けたようだ。
 日本とは組み立て手順が違うからである。
素行錯誤の積み重ねで、完成したダグラスDC-3型機なのである。
 「燃料はあるようだな。」と、操縦席で点検を始めるアラン副操縦士だ。
事前の点検は副操縦士がやり、それをチェックするのが機長のスミス操縦士の役目である。
 米国より持参した点検リストを観ながら・・・点検を始める両操縦士である。
それから、3時間・・・チエックが終わったようだ。
 日本側を信頼していないスミス君らは・・・何度も、チェックを繰り返したのだ。
ここで、航空機事故では米軍の恥であるからでもある。
 黄色い猿に、小バカには絶対にされたくない両人なのである。
「消火器を持ってエンジンの後方に作業員を配置してください。」と、注文だ。(エンジン発火に備えてである。)
 「ハイ、あとはどのように?」
「車輪止め外しの人員を数人。」
 「ところで、エンジンにフライホイールと始動モーターは取り付けてくれましたか?」と、アラン副操縦士が聞く。
「あ、あ、あの円盤と電動機ですか?」「そうです。」
 「我が国には無い装備なので、苦労しましたが・・・」
「たぶん、プロペラを廻すものだと想像して・・・なんとか取り付けました。」と、ウソぶくヤマモト君だ。
 その情報は会社へ当然に伝えてある。
今後の日本軍の双発爆撃機は・・・エンジン始動がやりやすくなるだろう。
 いちいち、日本陸軍 トヨタ エンジン起動車 が無くてもペラを廻せるのだ。
これは、国益になる情報だったのだ。
 内地では・・・日本陸軍 トヨタ エンジン起動車 を発注しなくなったとか・・・
現場では、1台でもトラックは必要なのである。

 「そうだ、ガソリンのオクタン価は?」と、アラン君が聞く。
「そうですね、80くらいだったかと。」(現在は90くらいだ、ハイオクで100かな。)
 「航空燃料ではないんですか。」と、アランだ。
「いえ、満州ではガソリンは有鉛のオクタン価80しか無いので。」
 「・・・・・」「スミスよ、80でも飛べないことはないぞ。」
「エンジン馬力が少ないだけだ。」と、スミスが慰める。
 「よし、行くか。」「おう。」
両操縦士は操縦席へ着席してベルトを締める。
 「よし、エンジンスタートだ。」
アラン君が上を見る。
 頭上計器の機内電圧計を見るのだ。
「29ボルトです。」「よし。」
 28ボルト以上でOKなのである。
本来は、2ボルト蓄電池が15個つながってるから30ボルトあるんだが。
 鉛蓄電池の内部抵抗もあり28ボルトあればOKなのだ。

 


 
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