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しろいうさぎ
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時は1944年。とても寒い雪の降る日の事でした。
少女はかじかんだ手のひらを自分の息で温めていました。
何度もこすり合わせ、何度も息を吐きかけましたが、しんしんと降る雪が少女の体から体温を奪います。
少女は電気の流れる有刺鉄線で囲まれた敷地の中、灰色の空を見上げました。
少女の目の中に、ぽたりと白い雪が落ちて、やがて頬を伝い雫となって肩に落ちました。
少女はいつまでも空を見上げ、かじかんだ手を温めていました。
「お嬢ちゃん、こんな日に外に出てたら風邪をひいてしまうよ。」
優しそうなおばあちゃんが少女の小さく震える肩を抱き、建物の中へ連れて行きました。
その建物の中は隙間風のぴゅうぴゅうと吹き込む音がしていて、とても寒く薄暗い部屋でした。
小さな暖炉には火は灯っておらず、白い、ぽろぽろとした物が隙間風に吹かれ、崩れて消えました。
「知ってるか?」「何をだ?」
「ワシら老人や、女子供はシチューにされちまうのさ」「何を馬鹿な事を」
大人の話声が聞こえます。
まだ幼い少女には難しい話を大人達はしていました。
食べ物の話をしているのがわかった少女のお腹は、ぐう、と食事の催促をします。
ですが、少女はここに住むようになってから満足な食事をした事はありませんでした。
「おや、お腹すいているのかい?みんなには内緒だよ?これをお食べ。」
おばあちゃんはポケットの中から食べかけの黒パンを少女に手渡しました。
少女は、にこりと笑い、それを小さくかじり、ゆっくりゆっくり食べました。
それを見る、おばあちゃんも、にこりと笑い少女の頭を撫でました。
「私達はいつか近いうちに、ガス室に送られる。神様、どうか、このお嬢ちゃんにお慈悲を。お願いだからどうか、どうか…」
おばあちゃんの目から、ぽろりと涙が少女の肩に落ちました。
少女は手の中に残った僅かな黒パンの欠片を、おばあちゃんに手渡しました。
「おや、私にくれるのかい?ありがとう。お嬢ちゃんは本当に優しい子だねぇ。」
おばあちゃんは少女の頭をいつまでもいつまでも撫でていました。
※ ※ ※
「また死んでおるのか」「今日は寒い、焚き木にしよう」
「そうしよう」「作業場に運ぼう」
翌朝、少女はおばあちゃんのベッドで目を覚ますと、隣で眠っていたおばあちゃんの姿が見えませんでした。
ぱらぱらとこぼれる藁から身を起こし、周囲を見渡しましたが、おばあちゃんの姿を見つける事が出来ませんでした。
ベッドの下にある穴に落ちないように、少女は気をつけてベッドから降りました。
とととと、と建物の外へ出ると、辺り一面は銀世界でした。
その真っ白なキャンバスを汚す様に、足跡が作業場の方へ伸びていました。
少女は、ぶるりと身を震わせ白い息を吐きました。
恐る恐る白いキャンバスに裸足の足をつけた少女はあまりの冷たさに驚き、外に出るのを諦めました。
「どうしたの?おばあちゃんは作業場に居るよ?行かないの?アリス。」
白いキャンバスに、ちょこんと佇む小さな白い兎が少女に声をかけました。
少女は、ふるふると首を振り建物の中に戻りました。
ぴゅうぴゅうと隙間風の吹き込む音がする薄暗い寒い建物。
鼻をつまむ様な臭いがする、その建物の暖炉に今夜は火が灯りました。
少女は幾ばくかの暖を取り、おばあちゃんのベッドの中、丸まって寝ました。
ぐう、と鳴るおなか。きっと優しいおばあちゃんの夢を見ているのでしょう。
少女はかじかんだ手のひらを自分の息で温めていました。
何度もこすり合わせ、何度も息を吐きかけましたが、しんしんと降る雪が少女の体から体温を奪います。
少女は電気の流れる有刺鉄線で囲まれた敷地の中、灰色の空を見上げました。
少女の目の中に、ぽたりと白い雪が落ちて、やがて頬を伝い雫となって肩に落ちました。
少女はいつまでも空を見上げ、かじかんだ手を温めていました。
「お嬢ちゃん、こんな日に外に出てたら風邪をひいてしまうよ。」
優しそうなおばあちゃんが少女の小さく震える肩を抱き、建物の中へ連れて行きました。
その建物の中は隙間風のぴゅうぴゅうと吹き込む音がしていて、とても寒く薄暗い部屋でした。
小さな暖炉には火は灯っておらず、白い、ぽろぽろとした物が隙間風に吹かれ、崩れて消えました。
「知ってるか?」「何をだ?」
「ワシら老人や、女子供はシチューにされちまうのさ」「何を馬鹿な事を」
大人の話声が聞こえます。
まだ幼い少女には難しい話を大人達はしていました。
食べ物の話をしているのがわかった少女のお腹は、ぐう、と食事の催促をします。
ですが、少女はここに住むようになってから満足な食事をした事はありませんでした。
「おや、お腹すいているのかい?みんなには内緒だよ?これをお食べ。」
おばあちゃんはポケットの中から食べかけの黒パンを少女に手渡しました。
少女は、にこりと笑い、それを小さくかじり、ゆっくりゆっくり食べました。
それを見る、おばあちゃんも、にこりと笑い少女の頭を撫でました。
「私達はいつか近いうちに、ガス室に送られる。神様、どうか、このお嬢ちゃんにお慈悲を。お願いだからどうか、どうか…」
おばあちゃんの目から、ぽろりと涙が少女の肩に落ちました。
少女は手の中に残った僅かな黒パンの欠片を、おばあちゃんに手渡しました。
「おや、私にくれるのかい?ありがとう。お嬢ちゃんは本当に優しい子だねぇ。」
おばあちゃんは少女の頭をいつまでもいつまでも撫でていました。
※ ※ ※
「また死んでおるのか」「今日は寒い、焚き木にしよう」
「そうしよう」「作業場に運ぼう」
翌朝、少女はおばあちゃんのベッドで目を覚ますと、隣で眠っていたおばあちゃんの姿が見えませんでした。
ぱらぱらとこぼれる藁から身を起こし、周囲を見渡しましたが、おばあちゃんの姿を見つける事が出来ませんでした。
ベッドの下にある穴に落ちないように、少女は気をつけてベッドから降りました。
とととと、と建物の外へ出ると、辺り一面は銀世界でした。
その真っ白なキャンバスを汚す様に、足跡が作業場の方へ伸びていました。
少女は、ぶるりと身を震わせ白い息を吐きました。
恐る恐る白いキャンバスに裸足の足をつけた少女はあまりの冷たさに驚き、外に出るのを諦めました。
「どうしたの?おばあちゃんは作業場に居るよ?行かないの?アリス。」
白いキャンバスに、ちょこんと佇む小さな白い兎が少女に声をかけました。
少女は、ふるふると首を振り建物の中に戻りました。
ぴゅうぴゅうと隙間風の吹き込む音がする薄暗い寒い建物。
鼻をつまむ様な臭いがする、その建物の暖炉に今夜は火が灯りました。
少女は幾ばくかの暖を取り、おばあちゃんのベッドの中、丸まって寝ました。
ぐう、と鳴るおなか。きっと優しいおばあちゃんの夢を見ているのでしょう。
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