THREE MAGIC

九備緒

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FIRST MAGIC

第8話 人災その後

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 早朝にもかかわらず、立つ気力もなく知衣はうなだれた。

「うぷっ。き、気持ち悪い……」

 三分間にもわたる揺れに、乗り物酔いさながら家酔いしてしまった知衣である。

 クレアが魔法で結界のようなものを張って守ってくれたので、家具などの飛交う凶器による怪我はなかったのだが。
 そんな知衣を見ても罪悪感のカケラもない様子――否、むしろまだ物足りな気な不機嫌な表情でアレクは舌打ちする。

「俺様の姿の使い魔をおまえごときに使わせるのは忌々しいが、今は時間がない。そいつにこの国について教えて貰え。」

 反論したところでろくなことはないと身に染みた知衣は、力なく頷く。

「わ、わかった。」

 去って行くアレクの姿を窓から見送り、知衣は胸を撫で下ろす。

「ではチイ様。まずは城をご案内しますので身仕度を。只今着替えを持って参ります。」

 そう言って踵を返したクレアに、知衣はとっさに待ったをかける。

「ちょっと待って!何だか嫌な予感がするんだけど着替えってどんな服?」

 城の様子やアレクの服を見ていると、恐ろしく華美な服を出されそうだ。
 ドレスなんかを、当たり前のように出されそうな気がして怖い。

「一流の仕立屋に作らせた一級品でございますよ。ご安心下さい。」

 にっこり笑ってそう答えたクレアに、知衣は表情を引きつらせる。

「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくてね。」

 知衣としては、別に三級品でも四級品でも構わないのだ。
 ワゴンセールで三枚いくらというような安物だって構わない。この世界にワゴンセールなるものが存在するかは謎だけれど。
 任せるとどんな華美な服を出されるかわからないが、ここにどのような服があるかもよくわからない。
 とりあえず目に付いたクレアの服を指差して知衣は言った。

「あのさ、クレアみたいな服でいいんだけど。」
「私のような、で御座いますか?」

 そう言って自身を見下ろすクレアの服は、スーツに似た黒いシンプルなものである。

「ええ。ここでどんな服が一般的か知らないけれど、動きやすいものがいいの。あまり派手なのも嫌だし。」
「ですがこういった服は男ものですよ。庶民でも女性はスカートをはくのでこのようなスタイルは……」
「私普段から私服はメンズを着ることが多いの。楽だしスカートはちょっと苦手なのよ。」
「スカートが苦手ですか。」

 困ったように眉を寄せるクレアに、知衣は聞く。

「男物の服じゃまずい?どうしてもってわけでもないんだけど、普段からパンツだからスカートは慣れなくて。」
「いえ。チイ様がお望みでしたらご用意いたします。ただし私と同じようなものとなるとサイズ的にすぐには用意できませんので、デザインは変わりますが。」
「ええ。ありがとう。わがまま言ってごめんなさい。」
「いえ、チイ様のお役に立てることが私の喜びです。望みは何でもおっしゃってくださいね。」

 そう微笑んで、クレアは部屋を出て行った。
 残された知衣は、寝る時に外してテーブルの上に置いていた眼鏡を探そうと、視線を彷徨わせる。

「さて、と。眼鏡は……」

 アレクによる地震のせいでどこかに飛んでしまったらしく、テーブルの上には見当たらない。
 そもそもそれ以前に、テーブル自体どこかに吹き飛んでしまっている。
 ボロボロになった室内に、知衣は眉を寄せる。

「まったく。あの俺様……どうにかならないかしら。」

 顔は良くてもあの性格じゃ、人としてどうかと思う。
 こっちのちょっとした発言で、部屋をこんなにするなんて――殴られたときも少し思ったが、あまりに子供っぽい。

「いい大人がすることじゃないわよ。」

 そうしてぶつぶつと不平を零しながら眼鏡を探していた知衣は、ようやく目的のものを見つけ屈み込んだ。
 この惨状から予測はしていたけれど――

「これは……もう使えないわね。」

 眼鏡のフレームは酷く歪み、レンズが片方嵌らなくなってしまっている。
 ないと全く見えないという程ではないにしても、なければ不便だ。
 近視なので近くのものは良く見えるが、遠くのものはちょっと見辛い。
 慣れた場所ならともかく、不慣れな場所ではそれでは心もとない。

「クレアに頼めばなんとかなるかな?」

 駄目で元々。
 戻ってきたら頼むだけ頼んでみようと思った。




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