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FIRST MAGIC
第9話 ラブロマンスはお呼びでない
しおりを挟む壊れた眼鏡のことを相談すると、クレアは「ご安心下さい。」と笑顔で応じた。
「セフィー様の所へお願いに行きましょう。」
「セフィー様?」
「はい。若いながらも優秀な医療魔法の使い手です。アレク様の弟君でもあります。」
「え!?アレク様の弟?」
俺様第二号のイメージを抱き、思いっきり嫌そうな表情を浮かべる知衣に、クレアはくすくすと笑いを零す。
「心配なさらずともセフィー様はアレク様とは違ってとても温厚な方ですよ。」
「そ、そう。」
ほっと胸をなで下ろす知衣に、クレアは言う。
「チイ様の着替えも、実はセフィー様からお借りした物なんです。」
「え?この服?」
すでに着替え終えた服を見下ろし、知衣は目を瞬かせる。
その服はクレアほどシンプルな服ではなく、派手過ぎないまでも所々レース等もあしらわれたものだ。
男物ではあるが、淡い色合いも相まって女性が着てもさほど違和感のないものだ。
しかしこの世界では『パンツスタイル=男の服装』である上、弟というのだからその持ち主は男で間違いないはず。
けれど、152cmしかない知衣にぴったりであるその服は、男性が着るにはあまりに小さいのではないだろうか。
小さい子供ならともかく『優秀な医療魔法の使い手』ということは、『優秀な医者』ということではないだろうか。
だとしたら若いといってもそれなりの年齢のはずよね?――疑問符を浮かべる知衣に、クレアは言う。
「セフィー様は御年11歳。我が国の誇る天才王子です。」
「11歳?!」
そんな若くして高い医療技術を持っているとは――確かに天才……って、それよりも!
「お、王子?」
まったくもって今までの生活で縁のなかった単語に、知衣は表情を引きつらせる。
「はい。セフィー様は第三位の王位継承権をもつ我が国の王子です。」
「と、ということは……その兄のアレク様って……」
「はい。アレク様も王子で御座います。第一位の王位継承権をお持ちです。」
「だ、第一位ってことはつまり次の王様?!」
考えてみれば『お城』で、様付けを要求する俺様だ。
自分の今までの人生には無縁すぎて思い至らなかったけれども、王族を連想する要素は充分にあった。
王子様とはね。しかも次期国王とくればあの俺様っぷりも……まあ多少は、納得?
気に食わないまでも、アレクの態度の大きさに頷けるものもある。
しかし一体、どうしてこんな展開の中心に自分はいるのか。
極々平凡に平穏に生きてきたのに。
こんな変化なんて望んでなかったのに。
気がつけば異世界で、目の前には王子様。
改めて考えれば、物語にはよくある王道のパターンといえるのではないだろうか。
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だってあの俺様は――
「……絶対、暴君だもんね。」
ああ、神様。
もしいるのなら、早く私を平凡な日常に戻してください。
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