10 / 49
FIRST MAGIC
第10話 俺様遺伝子
しおりを挟む
「はじめましてチイ様。お会いできて光栄です。」
そう言ってにっこり笑うセフィー王子の姿に、知衣はあんぐりと口を開く。
アレク同様人並はずれた美貌の持ち主だが、俺様の遺伝子は見る影もない庇護欲を誘うその姿。
「チイ様、口が……」
クレアに耳打ちされ慌てて口を閉ざすも、知衣は驚愕から目の前の少年を凝視したまま固まってしまう。
緩やかに編み込まれた蜜色の長い髪。澄んだ若葉色の大きな瞳。白い肌に映える瑞々しい桜色の唇。
その姿はまさに『絶世美少女』。
あと数年もすれば、どんな男性も魅了できるに違いないものだ。
こ、これで男の子!?
アレクの弟というのだから、美少年だろうという予測はあった。
人並の容貌である自分が張り合えるなんてはじめから思っていなかったけれど、女として確実に負けた――否、勝負にもならないこの可憐さは何事か!
同じ様な服を着ているというのに、その差たるや『月とスッポン』――否、そんな表現はスッポンに対して失礼極まりない。『月と目糞鼻糞』とでもおつりがくるくらいだ。
別に人並み外れた美女になりたいだなんていう大それた思いはないけれど。
世の中、ここまで不公平だなんて――ちょっと納得いかない気分になるのは確かである。
しかし。
「チイ様?」
目の前で不思議そうに首を傾けるセフィーの姿に、あっと言う間に悩殺される。
か、かかかか、かっわいい~!!
母性本能の働きか、一般的に女性は可愛らしいものに弱い。
知衣もまた、その例に漏れなかった。
こんな可愛らしい生き物が存在するなんて奇跡だ、奇跡。奇跡万歳!!
興奮の余り壊れ気味の思考に陥りながらも、何とか表情筋を引きしめる。
「はじめましてセフィー様。私もセフィー様にお会いできてとっても嬉しいです。」
にやりとか、にんまりな怪しい笑顔にならないようにするのは至難の業だったが、何とかにっこり笑って言うと、セフィーは嬉しそうに笑みを深めた。
「僕のことは是非、セフィーと呼んでください。」
「うーん。ありがたい申し出ですが、王子様を呼び捨てというのは色々まずいと思うんですよ。」
気持ちとしては、ちゃん付けとか君付けをしたくなる可愛らしさだ。
けれど相手は王子様。面倒事は御免である。
そう言った知衣に、セフィーはふるふると首を振った。
「平気ですよ。何と言ってもチイ様は、我が国の英雄となる方ですから!」
きらきらと輝くような瞳で言われて、知衣は戸惑う。
「え、英雄って……私が?」
「はい!こちらをご覧ください!」
軽やかな足取りで窓辺に歩み寄り外を示すセフィーに促され、外を見た知衣は固まった。
眼下には見事な庭園が広がっていた。
これほどの庭園は、本やテレビでも見たことがない。
色とりどりの花々に彩られ、品良く整えられた庭はまるで楽園。
そして、その中央。
赤い花の絨毯で囲まれた、広々とした空間に幾多の銅像が神々しい輝きとともに建ち並んでいた。
「あ、あれはもしかして……」
これ以上となく表情を引きつらせた知衣に、セフィーは無邪気にとどめを刺した。
「我が国の歴代の英雄たち――異世界より召喚されし、魔法案の提供者の方々の銅像です。チイ様の像もいずれあそこに!」
がっくりとうな垂れる知衣に、セフィーは不思議そうに首を傾ける。
「チイ様。どうかなさいましたか?」
「……あ、あの拒否権は?」
「拒否権ですか?」
「はい。銅像なんて私……」
縋るように懇願する知衣に、セフィーは瞳を輝かせた。
「素晴らしいです、チイ様!」
「はえ?」
「チイ様はとても謙虚な方なんですね!奢り高ぶらないその崇高さ、御見それしました!!」
「い、いや、そんな立派なものじゃなくてですね。単に小心者というか何と言いますか……」
思いもよらない言葉にあたふたと応じる知衣に、セフィーは拳を握り締め力説する。
「チイ様のような方を今までの英雄と同等に扱おうだなんて、僕らは間違っていました!チイ様は特別な方ですから像も特別に!!」
「え、ええ。『なし』の方向でお願いします。」
「とんでもない!『黄金像』に致しましょう!!」
「ええっ!ちょ!?そんなこと私は望んでな…」
「お任せください!立派な黄金像にしてみせますから!!」
両手を握られブンブンと上下にされる。
「困りますって!」
抗議の声をあげる知衣だが、興奮状態らしいセフィーの耳には入っていないようだ。
肩を軽く叩かれ振り返ると、視線の先でクレアが静かに首を振った。そして言う。
「こうなってしまったセフィー様は誰にも止められません。」
「そ、そんな……」
セフィーの性格が悪いとは思わない。
けれど。
似てない似てないと思ったけれど、こんな厄介な発想に限って同じだなんて!
それは、知衣にとっての悲劇。
こうして知衣の黄金像建立の未来は、ますます現実味を帯びたのである。
そう言ってにっこり笑うセフィー王子の姿に、知衣はあんぐりと口を開く。
アレク同様人並はずれた美貌の持ち主だが、俺様の遺伝子は見る影もない庇護欲を誘うその姿。
「チイ様、口が……」
クレアに耳打ちされ慌てて口を閉ざすも、知衣は驚愕から目の前の少年を凝視したまま固まってしまう。
緩やかに編み込まれた蜜色の長い髪。澄んだ若葉色の大きな瞳。白い肌に映える瑞々しい桜色の唇。
その姿はまさに『絶世美少女』。
あと数年もすれば、どんな男性も魅了できるに違いないものだ。
こ、これで男の子!?
アレクの弟というのだから、美少年だろうという予測はあった。
人並の容貌である自分が張り合えるなんてはじめから思っていなかったけれど、女として確実に負けた――否、勝負にもならないこの可憐さは何事か!
同じ様な服を着ているというのに、その差たるや『月とスッポン』――否、そんな表現はスッポンに対して失礼極まりない。『月と目糞鼻糞』とでもおつりがくるくらいだ。
別に人並み外れた美女になりたいだなんていう大それた思いはないけれど。
世の中、ここまで不公平だなんて――ちょっと納得いかない気分になるのは確かである。
しかし。
「チイ様?」
目の前で不思議そうに首を傾けるセフィーの姿に、あっと言う間に悩殺される。
か、かかかか、かっわいい~!!
母性本能の働きか、一般的に女性は可愛らしいものに弱い。
知衣もまた、その例に漏れなかった。
こんな可愛らしい生き物が存在するなんて奇跡だ、奇跡。奇跡万歳!!
興奮の余り壊れ気味の思考に陥りながらも、何とか表情筋を引きしめる。
「はじめましてセフィー様。私もセフィー様にお会いできてとっても嬉しいです。」
にやりとか、にんまりな怪しい笑顔にならないようにするのは至難の業だったが、何とかにっこり笑って言うと、セフィーは嬉しそうに笑みを深めた。
「僕のことは是非、セフィーと呼んでください。」
「うーん。ありがたい申し出ですが、王子様を呼び捨てというのは色々まずいと思うんですよ。」
気持ちとしては、ちゃん付けとか君付けをしたくなる可愛らしさだ。
けれど相手は王子様。面倒事は御免である。
そう言った知衣に、セフィーはふるふると首を振った。
「平気ですよ。何と言ってもチイ様は、我が国の英雄となる方ですから!」
きらきらと輝くような瞳で言われて、知衣は戸惑う。
「え、英雄って……私が?」
「はい!こちらをご覧ください!」
軽やかな足取りで窓辺に歩み寄り外を示すセフィーに促され、外を見た知衣は固まった。
眼下には見事な庭園が広がっていた。
これほどの庭園は、本やテレビでも見たことがない。
色とりどりの花々に彩られ、品良く整えられた庭はまるで楽園。
そして、その中央。
赤い花の絨毯で囲まれた、広々とした空間に幾多の銅像が神々しい輝きとともに建ち並んでいた。
「あ、あれはもしかして……」
これ以上となく表情を引きつらせた知衣に、セフィーは無邪気にとどめを刺した。
「我が国の歴代の英雄たち――異世界より召喚されし、魔法案の提供者の方々の銅像です。チイ様の像もいずれあそこに!」
がっくりとうな垂れる知衣に、セフィーは不思議そうに首を傾ける。
「チイ様。どうかなさいましたか?」
「……あ、あの拒否権は?」
「拒否権ですか?」
「はい。銅像なんて私……」
縋るように懇願する知衣に、セフィーは瞳を輝かせた。
「素晴らしいです、チイ様!」
「はえ?」
「チイ様はとても謙虚な方なんですね!奢り高ぶらないその崇高さ、御見それしました!!」
「い、いや、そんな立派なものじゃなくてですね。単に小心者というか何と言いますか……」
思いもよらない言葉にあたふたと応じる知衣に、セフィーは拳を握り締め力説する。
「チイ様のような方を今までの英雄と同等に扱おうだなんて、僕らは間違っていました!チイ様は特別な方ですから像も特別に!!」
「え、ええ。『なし』の方向でお願いします。」
「とんでもない!『黄金像』に致しましょう!!」
「ええっ!ちょ!?そんなこと私は望んでな…」
「お任せください!立派な黄金像にしてみせますから!!」
両手を握られブンブンと上下にされる。
「困りますって!」
抗議の声をあげる知衣だが、興奮状態らしいセフィーの耳には入っていないようだ。
肩を軽く叩かれ振り返ると、視線の先でクレアが静かに首を振った。そして言う。
「こうなってしまったセフィー様は誰にも止められません。」
「そ、そんな……」
セフィーの性格が悪いとは思わない。
けれど。
似てない似てないと思ったけれど、こんな厄介な発想に限って同じだなんて!
それは、知衣にとっての悲劇。
こうして知衣の黄金像建立の未来は、ますます現実味を帯びたのである。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる