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FIRST MAGIC
第11話 とびきりサプライズ
しおりを挟む「もう大丈夫ですよ。目を開けてください。」
そう促されて目を開けた知衣は、目を瞬かせる。
眼鏡もコンタクトもしていないというのに、視界がとてもクリアだ。
「見え具合はいかがです?」
「良く見えます。」
すると、セフィーは嬉しそうに笑った。
「お役に立てて良かった。」
セフィーの所へ来たのは、眼鏡が壊れてしまったため、知衣の視力を、医療魔法で補って貰うためだった。
その目的を果たしたわけだが、あまりのあっけなさに知衣は唖然とした。
優しく、閉ざした瞼を撫でられた。
たったそれだけのことだった。
それだけのことで知衣の視界は、確実にクリアになっていたのだ。
もっとこう……長ったらしい呪文だとか、儀式みたいなものがあると思っていたから、拍子抜けしてしまう。
「魔法ってこんなに手軽に使えるものなんですか?」
「魔法の種類にもよりますが、チイ様が思われるより魔法は身近で手軽なものですよ。」
そんなセフィーの言葉に、知衣は「へえ。」と感嘆の声をあげる。
「あれ?でも私が思うよりって、私の想像する魔法がどんなものかわかっているんですか?」
「チイ様の想像というより、チイ様の世界における一般的な魔法に対する解釈が――ですね。こちらも闇雲に魔法案の提供者を召喚しているわけではなく、様々な調査からチイ様を召喚したんです。」
「調査って、まさかわざわざ私が選ばれたの?」
知衣は極々一般的な女性である。
この国にとって英雄と称されるほどの対象に、わざわざ選ばれるような特筆べきポイントはないと思う知衣は首を傾けた。
セフィーは緩やかに首を振る。
「いえ。調査はあくまで対象世界を選ぶためのものです。魔法という概念が全くなかったり、近しいレベルまで発達している世界はあまり望ましいとは言えないので召喚対象から除外するのが目的です。」
魔法という概念はあっても、生活には縁遠い――魔法が身近すぎる故の固定概念を持たない世界が理想なのだと説明するセフィーに、知衣は頷く。
そういうことであれば、地球はその条件を満たしている理想的な世界かもしれない。
魔法は絵空事も同然だが、信じる信じないは別として、魔法を知らないという者はまずいないだろう。
「でも、それなら対象者もちゃんと選んで召喚するべきなんじゃ?もっと空想力豊かな人は、他にいっぱいいたと思うし。」
むしろ自分は頭が固い方だという自覚が知衣にはある。
非現実的とされる事象を自ら思い描くなど、まずしない人間だ。
日頃から魔法について仮想を繰り広げる作家だとか、ファンタジーな世界に憧れを持つ柔軟な思考の持ち主だとか――適任はいくらでもいただろう。
そんな知衣の指摘に、セフィーは苦笑する。
「残念ながら調査したところで、世界を跨ぐほどの大魔法で我々と関わりのない一個人を正確に召喚することは、我が国の魔法力をもってしても難しいのです。召喚する人間は、ある程度の条件は課すことができますが基本的にランダムなんです。」
「そのある程度の条件を私は満たしていたと?」
「はい。自我も芽生えていない子供や、耄碌した老人、重病人や極悪人を除くという条件でしたから。」
「……それはまあ、確かに。」
正確には細かい条件は他にもあったというが、その人物の能力や人柄を示す条件はそれくらいのものなのだという。
「あまり複雑な条件を課すのは難しいのです。けれど、結果としてチイ様のような方が来てくださって、僕はとても嬉しいです。」
本当に嬉しそうにそう言うセフィーに、知衣は頬を掻く。
セフィーのような愛らしい少年に、そう言われるのは悪い気はしない。
だが。
「期待に添える自信はないんですけど。」
眉尻を下げて言う知衣に、セフィーは微笑む。
「確かに期待を寄せる人間は多いです。けれど僕は、たとえチイ様が良い案を出せなくても、それはそれでいいと思ってます。チイ様は早く案を出して帰りたいとお望みかもしれませんが、僕は僕の知らない世界からいらしたチイ様とたくさんお話したい。僕の知らない話を色々お聞きしたいんです。その点、年の近いチイ様で良かったと思うんです。」
「……年の近い?」
セフィーの年齢は11歳。24歳である知衣と年が近いとは言えないだろう。
思わず眉を寄せた知衣に、セフィーは不思議そうに首を傾ける。
「僕、こう見えても11歳なんですよ。幼く見られがちですけど。」
「それは知ってますけど……でも、幼く見られがち?」
セフィーの言葉に、今度は知衣が首を傾ける。
クレアから11歳だと聞き知ってはいたが、実際セフィーを見た感じでは10台半ばに見える。
大人びた物言いもあるが、その容姿や雰囲気も小さな子どものものとは思えない。
「年の割には大人びて見える方だと思うんですけど。」
「そうですか?嬉しいな。そんなことははじめて言われました。」
照れたように頬を染めるセフィーに、知衣はふと思い出す。
アレクの知衣への第一声は――「なんだ。まだ子供じゃないか。」だ。
アレクの言語能力を疑ったが、このお城の中では魔法によってそれは問題にならないはずだ。
だとすれば、知衣の姿はアレクにとって子供に見えたということではないか?
セフィーは11歳。知衣は24歳――その差はあまりに大きいが、セフィーもまた、自分と年の近い子供に見えているとすればそれは……
「セフィー様。一体私はいくつに見えるんですか?」
知衣の問いかけに、戸惑った様子でセフィーは答える。
「えっと。僕と同じか、少し上くらいかと思ったのですが。」
「じゅ、10代なりたて!?」
ぎょっとして叫ぶ知衣に、セフィーは首を傾ける。
「ひょっとして、アレク兄様と同じくらいだったりしますか?」
知衣としてはそう思っていた。――思っていたが。
この話の展開だと、アレクはおそらく知衣より年下だろう。
「アレク様って、いくつなんですか?」
「アレク兄様は、今14歳です。」
その答えに、知衣は凍りつく。
14歳といえば、ばりばりのティーンエージャー。しかも――。
「ロ、ローティーンなの!!??」
それは思わず叫ばずにはいられない、とびきりのサプライズ。
――ひょっとすると、魔法以上のサプライズかもしれなかった。
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