THREE MAGIC

九備緒

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FIRST MAGIC

第18話 主人バカ

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「今日はこれくらいにしておきましょう。」

 そんなエステルの言葉に、知衣は既に日が落ち外が暗くなっていることに気づいた。
 まだまだ聞きたいことはあるが、大まかな説明は聞けたし、後日宮廷魔法師から詳しく話を聞く機会もあるだろう。
 召喚された苦情だって自分より幼いエステルに言う気にはなれない――親切に教えてくれたエステルには、むしろ感謝しているくらいだ。

「今日は色々ありがとう。」
「いいえ。私の方こそ、チイさんといっぱいお話できて嬉しかったです。」

 にっこりと笑うエステルに、知衣もまた笑みを浮かべる。

「私も。ここで会った同性は今のところエステルだけだし。またお話して貰える?」
「はい、喜んで。今度はチイさんの世界についても聞かせて欲しいです。」
「うん。約束ね。」

 そう言って指きりをしようと手を差し出した知衣に、エステルは首を傾ける。

「あ、そうか。指きりの風習はないか。」

 エステルのように日本人としても通用する容姿をしていると、言葉が普通に通じることもあって、ここが異世界だという認識がどうも薄れるようだ。

「『指きり』?」

 不思議そうに問い返すエステルに、知衣はどう説明したものか考える。

「うーん。私の世界での約束の儀式みたいなものでね、約束を破らない誓いってところかな。」
「どうやるんですか?」
「こうやってお互いの小指を絡めて『指きりげんまん嘘ついたら針千本の~ます』って言い合うの。」

 実際にやってみせると、エステルは目を瞬く。

「嘘ついたら針千本?チイさんの世界の約束は命懸けなんですね。」

 そんなエステルの言葉に知衣は苦笑する。

「まあ、実際に針千本をのませるわけじゃないけど、それくらいの心積もりで約束を守れよってことね。」
「素晴らしいですね。」
「そう?」
「ところでチイさん、夕食はどうするつもりですか?」

 尋ねられて知衣は、クレアへと視線を移す。
 朝食はクレアが用意してくれたものを、あの小さな家で食べた。
 昼食はセフィーに誘われて、セフィーの部屋で一緒に食べた。

「どうすればいいの?」
「今日の夕食は、アレク様の部屋に用意して御座います。」

 クレアの返答に、知衣は思わず「げっ。」と眉を寄せる。

「ひょっとせずとも、アレク様と一緒に?」
「はい。」

 苦笑を浮かべながらも即答したクレアに、知衣はがっくりと項垂れる。
 そんな知衣を不思議そうに見ながら、エステルは言う。

「よければご一緒にと思ったのですが、そういうことでしたらまたの機会に。」
「私としては今日だって、アレク様よりエステルと一緒に食べたいけど……」
「ふふふ。王子を差し置いてそんなこと言ってもらえるなんて嬉しいです。」

 本当に嬉しそうに言うエステルを見て、知衣としては複雑な心境だ。
 エステルからは、あの俺様への敬意がしっかりと感じ取れるのだから。
 敬えるところがひとつも思い浮かばない――むしろ、人としてどうかと思わずにはいられない知衣としては、納得のいかない思いだ。
 国民であるエステルに、王子の悪口を言おうとは思わないけれども。

「ところで、クレア。ひとつ聞きたかったんだけど仕様はいつ変わったの?」
「いえ。変更はありません。」

 クレアの返答に、エステルは目を瞬く。

「え?!」

 信じられない、というように目を見開くエステルにクレアは愉快気に口元を緩める。

「チイ様は見目で絆されることがないようです。」
「それってすごい!」
「はい。チイ様は、偉大なお方です。」

 誇らしげに言うクレアの言葉に、知衣は首を傾ける。

「さっきから何の話をしてるの?」
「チイ様がいかに素晴らしいかについてを。」

 極上の笑みを浮かべて応じるクレアに、知衣は首を傾ける。

「平凡極まりない私のどこが凄いっていうのよ?」
「勿論、全てでございます。」

 即座にかえってきたそんな返事に、知衣は唸る。

 親バカならぬ、主人バカ。
 使い魔とはこういうものなのかと知衣は首を捻るのだった。



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