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FIRST MAGIC
第19話 黄金色の計画
しおりを挟むふいに視界に入ってきた意外な人物に、セフィーは目を瞬かせた。
「アレク兄様?」
自分の兄であり、この国の第一王子であるアレクセル・アレクセイの姿である。
アルスーン城では、王位継承権を持つ王子たちが生活を送っている。
当然、第一位の王位継承権を持つアレクがいるのも自然なことだ。
だがここは、アレクがアルスーン城の中でも最も寄り付かない場所だった。
この場所――『芸術棟』は、この国における最高峰の芸術家が集い、己の芸術活動に勤しむ芸術界の頂点とされる場だ。
「セフィーか。こんなところでどうした?」
「フィーセルに頼みがあって来ました。アレク兄様こそ珍しいですね。一体どうしたんです?」
アレクがここへ立ち寄ることは、本当に珍しい。
セフィーは笛、第二王子のルーエルは絵という趣味があるので、時折芸術棟まで足を運ぶことがある。
しかし、アレクは何をやらせても人並み以上にはこなすものの、本人に芸術への関心が低く自然とここへは立ち寄らない。
「俺もフィーセルに用だ。」
フィーセルとは、現在芸術棟の長を務める宮廷芸術家だ。
何か作品を造らせたり、演奏会などを行わせる場合は、まず長であるフィーセルに話を通しフィーセルが適任者を選ぶ。
芸術棟の長は自分自身が優れた芸術家であることは勿論、他の芸術を見る目にも優れていなければ務まらない。
「英雄像のことで話があるんだ。」
そんな兄の言葉にセフィーは目を見張る。
「アレク兄様もですか?」
実はセフィーもまた同じ理由でここへ来ていた。
「おまえもか?」
「はい。チイ様の像は特別に黄金像にして貰おうと思って。」
「……おまえもか。」
「え!?まさか兄様も同じ理由で!?」
「まあな。」
アレクの答えに、セフィーは興奮する。
「さすがチイ様!アレク兄様もチイ様の素晴らしさに感動したんですね!」
目を輝かせてそう言うセフィーに、アレクは渋面を浮かべる。
「素晴らしいだと?」
地を這うような怒気を帯びた声。
とても肯定とはとれない兄の様子に、セフィーは首を傾ける。
「兄様?」
「おまえはあのガキを素晴らしいと思うのか?」
「ガキって兄様。チイ様は兄様より年上ですよ。」
セフィーの言葉に、アレクは眉を寄せる。
疑わし気な表情だが、無理もないとセフィーは思う。
「誰のことを言っている。チイ・ハシバはどう見てもおまえと同じくらいの年だぞ。」
案の定勘違いしている兄に、セフィーは説明する。
「確かに見た目は幼いですが、チイ様は兄様よりも年上ですよ。クレアにも確認しましたし。」
「あの礼儀知らずがか?」
「え?チイ様はとても礼儀正しい方でしたよ?」
かみ合わない話に、二人は顔を見合わせる。
気をとりなおしてセフィーは尋ねる。
「それでも兄様も、チイ様を素晴らしいと思われたのでしょう?」
「違う。人を馬鹿呼ばわりするは反抗的だは――あいつは碌でもない奴だ。素晴らしいなど死んでも思うか。」
馬鹿呼ばわり?
反抗的?
良いというのに様付けも改めなかったチイを思い返し、セフィーは首を捻る。
大体碌でもないと思うのなら、何故黄金像という発想に至ったのか。その疑問をぶつけてみる。
「では、何故兄様はフィーセルに?」
「銅像を泣いて嫌がるからだ。」
あれだけ叫ばれたにも関わらず、知衣が黄金像は尚更嫌がっていることをアレクは理解していなかった。
「ここで恩を売っておけば、礼儀知らずのあいつも俺様のありがたみがわかるだろう。」
そんな知衣からすればあり得ない発想だが、同様の発想で知衣の拒否を謙遜以外の何物とも捉えていないセフィーは、それを的外れな発想とは思わない。
けれど、セフィーは驚いていた。
アレク兄様が、『恩を売る』?
それは異様な発言だった。
セフィーは兄のその尊大な性格を熟知している。
アレクは、尊大で我が強く反感を買う事も多い性格だ。
それでもなお、それを周囲に認めさせてしまうほどのカリスマの持ち主ではあるけれど。
己が道を行く言動は、兄を尊敬するセフィーから見ても問題があるように思える。
少なくともセフィーが知る限りでは、兄が誰か個人の為に何かをするということはまずないことだ。
人に自分を認めさせるために何かをしようなどという愁傷な発想が、兄にあるとは思ってもみなかった。
けれど、目の前の兄が言っていることは、そういうことだ。
やっぱりチイ様は、凄い。
知衣の何が兄にそうさせるのか、それはセフィーにもわからない。
けれど、アレクにそう言わしめる知衣に、セフィーは関心を高めずにはいられなかった。
「では一緒にフィーセルのところに行きましょう!」
銅像などで済ませられる今までの英雄とは違うのだ。
かならず見事な黄金像にしよう!
そのセフィーの決意は、ますます確固たるものとなったのだ。――知衣本人の望みからすれば、激しく余計な決意であったが。
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