THREE MAGIC

九備緒

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FIRST MAGIC

第20話 俺様感染の脅威

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 クレアと共に移動魔法でアレクの部屋へと戻った知衣だが、そこにはまだアレクの姿はなかった。

 丁度夕食の準備中のようで、給仕の人々の手により食卓に見事なご馳走が並べられていく。
 ただ見ているのも手持ち無沙汰だ。

「あの、私にも手伝わせてくれませんか?」

 そう声をかけた知衣に、給仕の青年は困ったようにクレアへと視線を向ける。
 それに応えるように、クレアが口を開いた。

「チイ様、これは彼らの役目。言うなればここに在る『意味』なのです。」
「彼らの仕事を奪うなと言いたいの?」
「いいえ。チイ様がどうしてもとおっしゃられるならそれでも良いのです。」

 ただ――と、クレアは言葉を続ける。

「彼らは人間ではない。私と同じ『使い魔』の一種です。私がチイ様に仕えることに至福を覚えるのと同様に、彼らは給仕の仕事に至福を覚えるように造られています。」

 そんなクレアの言葉に、知衣は目を見張る。

「貴方も使い魔なの?」

 問いかけられた青年は、「はい。」と頷く。
 思わず知衣は、じっと使い魔だという青年を見つめた。
 真ん中分けにされたサラサラの赤毛。白い肌とそこに浮かぶそばかす。美形とは言えないまでも愛嬌があり人好きのする容姿で、外見年齢はクレアより少し大人びたものだ。
 クレアもそうだが、見た目は完璧に人間にしか見えない。
 対応に困ったように落ち着かない青年を見かねてか、クレアが知衣に問いかけた。

「彼らは給仕のために造られた。給仕は彼らの存在意義なのです。それでもチイ様は手伝いたいと望みますか?」

 そんなクレアの言葉に知衣は溜息を吐く。

「給仕が彼らにとって『至福』で『存在意義』なんでしょ?」

 そう言うと、クレアは嬉しそうに微笑んで「はい。」と肯定する。
 やっぱり奪うなって言ってるんじゃない――そう思って知衣は肩を竦める。
 知衣はあまりこうした回りくどい言い方は好きではない。
 面倒だということもあるし、言いくるめられたような敗北感を感じるからだ。
 見透かされているような、そんな居た堪れなさも覚えることだし。
 けれど、一々反骨精神を発揮するほど子供でもなければ、精力的な性格でもない。

「ごめんなさい。邪魔しないから心置きなく給仕に励んで。」

 目の前の青年にそう言って、知衣は椅子へと腰を降ろした。
 本当に嬉々とした様子で仕事へと戻っていく青年に、知衣は軽く眉を寄せる。

「私は一般市民なのに、こんなんじゃ人を使う感覚に慣れちゃいそうだわ。」
「何か問題が?」
「大有りよ。この世界で私までアレク様みたいな俺様な性格になったら一大事だわ。」

 そんな知衣の言葉に、アレクは可笑しそうにくすくすと笑う。

「俺様なチイ様でも私は歓迎しますよ。貴女から受ける痛みであれば、心の痛みも身体の痛みもきっと至福ですから。」

 そんな危険な発言をするクレアに、知衣は表情を引きつらせる。

「そんな至福に貢献する気はないからね。」
「残念です。」

 そう言ってわざとらしいほど肩を落とすクレアに、知衣は呻く。

 主人に仕えることに至福を覚えるという使い魔のクレア。
 確かに残念に思う気持ちはあるのかもしれないが、その台詞はわざとだと知衣は確信する。
 何故ならその瞳の奥に、愉しげな光を確かに見て取ったのだ。
 誰より腹立たしい俺様と同じ容姿。けれどその人格は全く別のもの。
 でも――。

「クレアも何気に性格悪いよね。」
「アレク様程ではないですよ。」
「……まあ、それは認めてもいいけど。」

 あの俺様を比較対象にするのは間違ってる――そう続けようとした知衣の言葉は、中途半端に宙に消えた。

 何故ならば――。

「ほう。俺様の悪口か?いい度胸だ。」

 地を這うようなそんな言葉とともに、比較してはいけない俺様が現れたのである。
 
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