20 / 49
FIRST MAGIC
第20話 俺様感染の脅威
しおりを挟むクレアと共に移動魔法でアレクの部屋へと戻った知衣だが、そこにはまだアレクの姿はなかった。
丁度夕食の準備中のようで、給仕の人々の手により食卓に見事なご馳走が並べられていく。
ただ見ているのも手持ち無沙汰だ。
「あの、私にも手伝わせてくれませんか?」
そう声をかけた知衣に、給仕の青年は困ったようにクレアへと視線を向ける。
それに応えるように、クレアが口を開いた。
「チイ様、これは彼らの役目。言うなればここに在る『意味』なのです。」
「彼らの仕事を奪うなと言いたいの?」
「いいえ。チイ様がどうしてもとおっしゃられるならそれでも良いのです。」
ただ――と、クレアは言葉を続ける。
「彼らは人間ではない。私と同じ『使い魔』の一種です。私がチイ様に仕えることに至福を覚えるのと同様に、彼らは給仕の仕事に至福を覚えるように造られています。」
そんなクレアの言葉に、知衣は目を見張る。
「貴方も使い魔なの?」
問いかけられた青年は、「はい。」と頷く。
思わず知衣は、じっと使い魔だという青年を見つめた。
真ん中分けにされたサラサラの赤毛。白い肌とそこに浮かぶそばかす。美形とは言えないまでも愛嬌があり人好きのする容姿で、外見年齢はクレアより少し大人びたものだ。
クレアもそうだが、見た目は完璧に人間にしか見えない。
対応に困ったように落ち着かない青年を見かねてか、クレアが知衣に問いかけた。
「彼らは給仕のために造られた。給仕は彼らの存在意義なのです。それでもチイ様は手伝いたいと望みますか?」
そんなクレアの言葉に知衣は溜息を吐く。
「給仕が彼らにとって『至福』で『存在意義』なんでしょ?」
そう言うと、クレアは嬉しそうに微笑んで「はい。」と肯定する。
やっぱり奪うなって言ってるんじゃない――そう思って知衣は肩を竦める。
知衣はあまりこうした回りくどい言い方は好きではない。
面倒だということもあるし、言いくるめられたような敗北感を感じるからだ。
見透かされているような、そんな居た堪れなさも覚えることだし。
けれど、一々反骨精神を発揮するほど子供でもなければ、精力的な性格でもない。
「ごめんなさい。邪魔しないから心置きなく給仕に励んで。」
目の前の青年にそう言って、知衣は椅子へと腰を降ろした。
本当に嬉々とした様子で仕事へと戻っていく青年に、知衣は軽く眉を寄せる。
「私は一般市民なのに、こんなんじゃ人を使う感覚に慣れちゃいそうだわ。」
「何か問題が?」
「大有りよ。この世界で私までアレク様みたいな俺様な性格になったら一大事だわ。」
そんな知衣の言葉に、アレクは可笑しそうにくすくすと笑う。
「俺様なチイ様でも私は歓迎しますよ。貴女から受ける痛みであれば、心の痛みも身体の痛みもきっと至福ですから。」
そんな危険な発言をするクレアに、知衣は表情を引きつらせる。
「そんな至福に貢献する気はないからね。」
「残念です。」
そう言ってわざとらしいほど肩を落とすクレアに、知衣は呻く。
主人に仕えることに至福を覚えるという使い魔のクレア。
確かに残念に思う気持ちはあるのかもしれないが、その台詞はわざとだと知衣は確信する。
何故ならその瞳の奥に、愉しげな光を確かに見て取ったのだ。
誰より腹立たしい俺様と同じ容姿。けれどその人格は全く別のもの。
でも――。
「クレアも何気に性格悪いよね。」
「アレク様程ではないですよ。」
「……まあ、それは認めてもいいけど。」
あの俺様を比較対象にするのは間違ってる――そう続けようとした知衣の言葉は、中途半端に宙に消えた。
何故ならば――。
「ほう。俺様の悪口か?いい度胸だ。」
地を這うようなそんな言葉とともに、比較してはいけない俺様が現れたのである。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる