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FIRST MAGIC
第21話 使い魔の反逆
しおりを挟む思わず固ってしまった知衣を目にして、アレクはフンと鼻で笑う。
「まあいい。お前が無礼者なのは今更だ。」
他の誰に言われてもこの俺様王子には言われたくない台詞だが、ここで下手に歯向かって酷い目にあわされるのは御免だ。
知衣は表情を引きつらせながらも「アリガトウゴザイマス。」と謝礼を述べる。――心がこもっていないのは、あまりに心にもない言葉なので致し方ない。嘘は苦手なのだ。
平凡を望む知衣は、特別抜きんでた才能を欲したことはないが、こんな時はちょっとくらい演技の才能が欲しいと思う。
言い掛かりをつけられやしないかと思った知衣だが、アレクは気にしていないようだ。
正確には、聞いていた様子もない。言い掛かりがないのは良いが、これはこれで苛立つものである。
そんな知衣の苛立ちなど完全にシャットアウトしているらしいアレクは、苛立たしげにクレアを睨み据える。
「問題は下僕だな。」
「私で御座いますか?」
困ったように眉を寄せるクレアに、アレクは溜め息を吐く。
「全く。俺様のような完璧な人間を一番腹立たしい相手に連想する奴がいるとはな。庶民の僻みか。」
「初対面で殴っといて良くそんなことが言えますね?」
「俺に殴られたいと望んだところで、殴って貰える奴はまずいないぞ。」
詫びれるどころか、胸を張って言うアレクに知衣は眉を寄せる。
「誰が望むんですか、そんなこと。まさかとは思いますけど、この国は実はマゾが多いとか?」
「そんなわけあるか。馬鹿が。」
「……」
王子様とはわかっていても。
次期国王と分かっていても。
10も年下の子供にここまで言われっ放しというのはなかなかくるものがある。
平穏無事に過ごすために逆らわないでおこうとは思ったけれど……いつまでもつか、不安になってくる。
「俺様の姿の使い魔を誰かの召使いにするなんて許せないからな。仕方がないが仕様を変えるぞ。」
「仕様を変える?」
「ああ。おまえにとって『最も腹立たしいと思う人物』から、『最も安らげる人物』に、こいつの姿を造り変える。それなら俺の姿にはならないだろう?」
「ええ、確かに。」
なったらびっくりだ。精神科行きを真剣に考える。
さすがに俺様といえど自分が安らぎだとか癒し系の人間だなんて図々しいことは思ってないのね。
アレクが聞けば業腹だろうそんな関心をしながら知衣が頷くと、アレクはクレアに確認する。
「勿論、おまえもそれでいいな?」
「いえ、嫌です。」
きっぱりはっきり否定するクレアに、アレクは目を見開く。
「おまえ……」
唖然としているアレクに、クレアは微笑みを浮かべて言う。
「私はこの姿でチイ様にお仕えすることが気に入っています。造り変えられるなど御免です。」
「俺の言葉に逆らうのか。」
剣呑な表情を浮かべるアレクに、クレアはあくまでも微笑みながら応える。
「私の主人は、チイ様であってアレク様ではありませんから。」
同じ顔の二人が、正反対の表情を浮かべて立っているその図は、知衣の目には異様なものとして映る。
同じ顔でも性格は違う。
こうして並べてみると、同じ顔の存在があることを知ってさえいれば、二人を見誤ることはないだろうと思える程に、その差は顕著に表情と雰囲気に出ている。
「よくわからないけど、クレアが嫌だっていってるのを変えるのはまずいんじゃないの?望まないのに整形されるなんて可愛そうだと思うのだけど。」
知衣が味方につくとすれば、迷うことなくクレアの方だ。
アレクの顔より他の顔の方が知衣としても嬉しいが、本人の意思が第一だと思う。
「整形もなにも、こいつら使い魔の顔はもともと作り物だ。こいつら独自のものじゃない。そもそも、本来使い魔は容姿に拘る性質じゃない。」
「え?でもクレアは……」
「こいつがこの容姿に拘るのも、何か他に要因があるんだろう。」
忌々しげなアレクのその言葉に、クレアは笑み深める。
「他の要因って?」
知衣が尋ねると、クレアは耳元で囁いた。
「お望みとあれば、あとでこっそりお教え致します。」
「今は秘密って事?」
「ええ、ちょっとここでは色々と問題がありますので。」
「うん。じゃあ、あとで。…でも、びっくり。クレアってアレク様の使い魔なんでしょ?アレク様に逆らったりするんだね。」
「はい。大抵の使い魔は創造主に従順ですけれど。アレク様の存在は私の中で大きなものに違いありませんが、アレク様に危害の及ばぬ範囲であれば逆らうことも可能です。それに私は少々特殊な使い魔なので、アレク様も私の同意なしには私に対しての術はかけることができません。」
「じゃあ結局、姿はこのままってこと?」
「はい。」
極上の笑みで応えたクレアに対し、アレクは渋面でぼやいた。
「とんだ不良品の使い魔だな。」
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