初冬

杉山 実

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  92-015
「森田直之さんだ!私とひと学年が違う同じ中学に行った男だ!美人の娘さんが飛行機に乗っていると自慢していたな!下の男の子さんに知的障害が有った!でも気の毒な事だったな!」
「その家で間違い無いと思います!」
「何方が亡くなられたのかな?」
「多分お母さんだと思います!」
「随分生きておられたのだな?直ぐに亡くなると思ったのだがな!新聞記事では重体と出て居たのでな」
意味不明の話に戸惑う俊三。
話を詳しく聞くと、その知的障害の弟が暴れて家に火を放って全焼した。
その時、助けようとして母親は火の中に飛び込んだと云う。
両親は重傷と重体で病院に、弟は焼死だと教えてくれた。
娘さんは仕事で留守だった様だ。
「だから、今は花巻にはいらっしゃらないですよ!多分二人共施設、特にお母さんの信子さんは重篤だと思いますよ」
「そんな事が、、、、、、」俊三は言葉が無かった。
「娘さんのご主人と子供さんが居らっしゃると思うのですが?」
「ああ、一度寺で法事の時見ましたね!可愛い子供さんが二人でしたね」妻が言った。
「じゃあ、今は何方も住んでないのですね!」
「火災の跡は撤去されていますが、草が生い茂っていますよ」
「そうですか!」肩を落とす俊三。
「少し前にその娘さんをタクシーでこの寺に送って来たのですが、その時何も声掛けは無かったのですか?」
「聞いていませんね!」
俊三は何か連絡が有れば教えて欲しいと自宅の連絡先を書いて住職に手渡した。
住職は快く引き受けたが、何処で亡くなられたか判らないので、時間が経過して遺骨だけでも当寺に納められるかも知れないと話した。

「そんな事情が有ったのだな!知らなかった!」タクシーに戻ると俊三はため息交じりに言った。
「どうされます?一応旅館は予約していますが?」
「石崎さん!残念会をしますか?二人で飲みましょう」
「いいですね!」
薄暗く成った道路を車は花巻温泉に向かって走り始めた。
「でも、不幸な女性ですね!」
「本当だな!弟が亡くなり、元亭主と子供、そしてお母さんまで、、、、、」
「たて続けの出来事だったのですね」
「海外に逃げた筈なのに帰ると直ぐに、、、、」言葉に詰まって目頭を押さえる俊三。
何が理由で子供を捨てて海外に行ったのか?その理由は全く判らないが、不幸が重なっているのは事実だと思う。
先程の住職の話では火事で転居したのは、多分凛子がアメリカに行く前の様だ。
周さん一家は多分この花巻に住んでいたのだろう?凛子は花巻空港の港内で勤務していた筈だ。
自分と別れて周と一緒に成って幸せに暮らしていると思っていたが、5年程で破局を迎えた事に成る。

「青木さん!暗いですよ!今夜は気晴らしに飲みましょう!」
「そうだな!花巻温泉にはコンパニオンとか芸者は居ないのか?」
「岩手スーパーコンパニオンとかスーパー芸者が居ますよ!呼びますか?今日は平日だから暇でしょう?」
「楽しい時間を過ごそう!」俊三も乗り気に成った。
電話で問い合わせる石崎。
直ぐに「7時に二人きますよ!」嬉しそうに石崎は言った。
温泉に到着すると、石崎はタクシーを会社に返却に行って自分の車で戻るとそのまま帰った。
いつの間にか旅館に連絡したのか、部屋での食事に変更されていた。
部屋も前回の部屋より大きな部屋に変更されていた。

折角花巻まで来たのに、成果が無かった俊三は石崎にも悪い事をしたと思い、やけ酒の宴会をする事に成った。
取り敢えず大浴場に行く俊三。
その時、携帯の着信音が鳴り響く。
マナーモードにして居なかったので、慌てて電話を持って「もしもし、青木ですが?」
「あっ、青木さん!先程貴方が探されている森田凛子さんから電話が有りましたよ!」
「えっ、本当ですか?用件は?」
「お母さんの遺骨を納骨するので、よろしくお願いしますと連絡が有りました」
「いつですか?」
「35日が過ぎてからの様です」
「一月後ですね!日が決まったら連絡下さい!」
「それから、青木さんの事を話しましたよ!探されていると、駄目だったでしょうか?」住職は自分が先走ったかも知れないと思い連絡をして来た様だ。
「いえ、事実ですから構いません!良かった!ありがとうございます」
急に嬉しく成った俊三。
鼻歌を歌いながら大浴場に入って行く。
自分が探して居る事は、須藤課長が既に凛子に話して居るので既に知っていると思った。

その夜の俊三は明るかった。
「良かったですね!凛子さんが見つかって」
「ほっとしたよ!納骨を中止にはしないだろう?」
「間違い無いですよ!」
「石崎さんには世話に成りました!飲んで下さい!」ビールをグラスに注ぐ。
コンパニオンが「お客さん!それは私の仕事よ!」
「君達も飲みなさい!」二人のコンパニオンのグラスにもビールを注いで上機嫌だ。
翌日二人は二日酔い状態で目覚める。
「昼一番の電車で帰るよ!神戸は遠いからな!」
それなりの成果に満足して、仕事仲間への土産を買うと新花巻駅に石崎が送った。
「また、来ますよ!来月」
「待って居ますよ!今度は再会出来ますね!」
大きく頷く俊三は嬉しそうに改札を入って行った。
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