初冬

杉山 実

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記念写真

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  92-038

「そうだね!産みなさい。私も頑張って子供が成人するまで生きるよ!」

「ほ、ほんと!産んでも良いのね!100歳まで生きてね!!」」声が弾む凛子。

「まだ病院には行ってないのだろう?」

「決めて無かったから、、、、、、近いうちに行くわ!ありがとう」

「入籍もしなければ、父親の無い子供は可哀そうだ!」

「えっ、結婚も?」

「当然の事だ!」

「写真だけでも写すか?」

「子供に見せてあげるなら必要だわ!」

「次回東京に行った時、撮影に行こう」

「うれしい、、、、、、、、、、」途中から泣き声で言葉が消えた凛子。



小杉からの手紙を読んだ村永社長は内容に驚いていた。

手紙には随分世話に成った青木さんに新しい奥さんが出来た事と、新しい命が宿った事実が書かれていた。

そして、青木さんに後10年間東京文化大学の専属営業として雇って欲しいと書かれていた。

それは新しく生まれる子供の為に収入を確保させて欲しいの意味だ。

東京文化大学の印刷物を優先で発注すると書いて有った。



「青木さん!子供が出来たらしいね!」夜自宅に電話をかけて来た村永社長は嬉しそうに言った。

「えっ、誰に聞かれたのですか?」

「望月学長だよ!喜んでおられたよ!」

「学長ですか?」

「その学長から、君の身体が続く限り東京文化大学の担当にして欲しいと頼まれたよ!」

「えっ、そんな事を?」

「これから子育てにお金が必要だから、助けてやって欲しいと言われたよ!」

「私の様な年寄りに、その様な無理を社長にお願い出来ません!」

「大丈夫だ!学長が印刷物優先で廻して貰えるらしい」

「えっ、学長が気を使って、、、、、有難い事です」

胸が熱くなる俊三。



俊三は自分の家に凛子を迎え入れて、一緒に住む事を考え始めた。

子供と三人の生活は楽しいと思う。

だが、凛子の仕事場は東京、毎月一度東京文化大学に行くには自分が東京に住む方が良いとも思った。

今の家の広さは東京では中々用意出来ない。

家賃も非常に高額に成るので、色々考えると神戸の方が良い様に思う。

毎日俊三は子供が産まれた後の景色を描いて色々考える。



順子の雇った調査会社が、俊三の東京での行動を調べて報告したのは、依頼してから2か月後だった。

以前勤めて居た大同印刷の仕事で東京に行って居た安心感で、順子は一安心して調査を一旦打ち切った。

順子はこの時、凛子が何処の誰でどの様な仕事をしていたのか?知らない。

離婚した時、元夫俊三が誰とも付き合って居ない事は知っていた。

今更凛子と寄りを戻す事だけが嫌で、他の女との付き合い再婚は黙認する気持ちだ。

自分を苦しめた「凛子」この名前の女が俊三の周りに居ない事を確認したかった。



当の俊三は家をリホームして、凛子を迎える準備をする事を考え始めていた。

仕事の関係で直ぐには引っ越しは出来ないだろうが、大手の航空会社だから有休、産休、育休と休めるだろうと思う。



世の中が春めいた頃、俊三は久々に東京に向かった。

モーニングを洋服ケースに入れて上機嫌で玄関を出ると、門田初美が「ご主人出張ですか?散髪もされて結婚式にご出席ですか?」と洋服ケースを見て言う。

自分の結婚式の写真撮影の為とも言えないので「はい!呼ばれましてね!」笑って誤魔化す。

東京の小さな神社で簡単に式をして、撮影を頼んでいた凛子。

何処から見ても花嫁の付き添いの父親に見える俊三。

照れ臭いので嫌だったが、凛子が記念だから子供の為にお願いと云うので仕方なく行く事に成った。

子供が物心ついた時、元気で一緒に生活している保障は何処にも無い。

自分と年齢を考えるとそれが一番の不安だった。

凛子の若さでも子供が二十歳に成ると、65歳を越えている。

年老いての子供は可愛いのかな?孫でも可愛いのだが?娘の翔子を思い出すが、結婚してから一度も顔を見ていないのでどの様な暮らしなのかも判らない。

正月にも電話一本も無かった。



東京に着くと駅に凛子が迎えに来ていた。

「医者に行って来たわよ!秋には産まれる予定よ!」嬉しそうに言う。

「取り敢えずモーニングだけ持って来たよ!転勤の話はしたのか?」

「今すぐは無理だから、産休、育休が終われば神戸で働ける様にして貰える様よ」

「それは良かったな!じゃあ、家の改築を始めるかな」

「えっ、今の家で充分でしょう?」

「もう色々な部分で修理交換が必要だよ!築30年だからな!」

「ローンは無いの?」

「無いから助かっているのだよ!」

「無理しないでね、子供が働くまで長いのよ!お金は大切に!」

「年金と給料で当分生活には困らないと思うけれど、お金は節約だな!」

「明日、神社で写真も撮影して貰えるから、写真屋行く必要無いのよ!」

「それは良かったな!」

「子供の為よ!あなたのお父さんとお母さんの結婚写真って言えるでしょう?」

凛子は嬉しそうだが、俊三は将来が心配で一杯だった。



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