初冬

杉山 実

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記念誌

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  92-041
東京から帰って数日後、凛子は久々に盛岡の老人ホームに向かった。
まだそれ程目立ってはいないが、腹帯を付けているので多少ふっくらとしたお腹に見える。
「電話では話さなかったけれど、私再婚したのよ!」
「えー、それは良かったな!台湾に子供が行って寂しい思いをしていたので、心配していたのだよ」
「連絡が遅れたのは、これなの」お腹を触る凛子。
直之は嬉しそうな顔をして「子供が出来たのか?」
「彼ね!一緒に挨拶に行こうと言ってくれたのだけど、関西の人だから大変でしょう?だから電話で挨拶したら良いと言ったのよ!話す?」
「凛子が選んだ人だからお父さんは何も文句は無いよ!子供と三人幸せに暮らせば、関西でも九州でも良い!台湾は遠いがな!」
「今電話するからね!」携帯で電話をする凛子。
そして携帯を直之に渡す「青木さん!って言うのよ!」
「初めまして、挨拶が遅れて申し訳有りません!青木俊三と申します!どうぞよろしくお願いします」
「凛子の父で森田直之です!ふつつかな娘ですがよろしくお願いします」
「本来ならご挨拶が先なのですが、、、」
「娘に任せていますので、遠路来て頂く必要はありませんよ」その後は直之が感激で言葉に詰まる。
電話が終わると「良い人の様で良かったな!おめでとう」と改めて言った。
「ありがとう、お父さん!」
「智之の事でお前には悲しくて辛い思いをさせてしまった!これからは幸せに成って貰いたい」
「ちーちゃんが悪く無い!周が悪いのよ!」
「あれから一度も子供達と会ってないのか?」
「え、ええーーー」
「一度位顔を見せに来れば良いのになぁー」
その言葉に耐えられない凛子は「じゃあ、また来るわね」と逃げる様に部屋を出て行った。
しばらく廊下の隅で泣く凛子。
咲と文武の顔が凛子の脳裏に浮かんで耐えきれない思いだった。
父は二人の子供と周が交通事故で亡くなった事を知らない。
もし知ったらどれ程大きなショックを受けるだろう?それもこの老人ホームに向かう途中の事故だった。
それを考えると先程の父の一度位子供を連れて顔を見せての言葉が、走馬灯の様に何度も何度も凛子の頭に浮かんだ。
帰りの電車は東京に戻るまで二人の子供の事を考えて、目頭を押さえる凛子。

凛子が神戸に行かない理由のひとつが仕事。
もうひとつが高齢出産の為、かかりつけの医者で産みたい!の二点だった。
慣れない神戸で知り合いが俊三ひとりだけは非常に心細かった。

6月に成って俊三と凛子は揃って望月学長の結婚式に出席した。
地味な結婚式だと言っていたが、東京文化大学の学長の結婚式。
知り合いだけ呼んだと話して居たが、100人以上の人々に祝福されて上機嫌。
元CAの小南まどかさんとの結婚は略歴と共に発表され、マスコミの目にも晒された。
勿論今回の創立100周年記念誌の発刊のCMが大々的に、掲載される事に成る。
人気グループキュリーンと韓国の人気グループCOUONのコンサートも大々的に発表された。
国技館でのコンサートDVD付きはファンには堪らないお宝だった。
DVDの祝電もグループから届き、結婚式は一層盛り上がった。

「学長!何が地味な挙式ですか?奥様はスター並みの扱いをされて居ましたよ!」
式が終わった控室で俊三が笑顔で話した。
「私は地味にしたのだがね!みんなが盛り上げてくれた!まどかさんはお疲れでは?」
「今着替えているが、女優に成った様な気分だと喜んでいたよ!今から熱海に新婚旅行に行く」
「熱海ですか?近いですね!」
「身体を労わらんとな!」
「えー、それは」
「私もまだ男だったって事だな!」そう言って大きな声で笑う学長。

翌日の芸能欄に大きな見出しで、学長とまどかの写真が人気グループのコメントと一緒に紹介されていた。
「私なら今頃スキャンダルだったわね!貴方が暴露したのは正解だったわね!」
「あの学長の話題作りは上手で、マスコミに顔を売っているからな!兎に角有名人だ!」
「まどかも結構目立つのが好きな方だから良かったわ」
学長達を見送ると二人はホテルに戻りながら、安堵の表情で帰って行った。

監視をしている門田は、リホームが終わってからひと月以上経過するのに入居の人は来ない。
相変わらず俊三ひとりが住んで、公園の清掃と月に一度東京に行くと順子に報告していた。
「不思議ね!あのリホームなら結構なお金かかっているわよ」近くの喫茶店で話すか門田。
「変ね!私が家を出た時、リホームする程壊れて無かったわよ!例の子供を風呂に入れるって話しは?」
「そんな若いカップル見た事ないわ!だって来客殆ど無いわ!前は新聞配達来ていたけれど、もう新聞も辞めた様だわ!」
「何故リホームしたのよ!100歳まで長生きする為にバリヤフリーに?」
「何も無かったわ!」
「初美さん見たの?」
「先日回覧板を夜持って行ったのよ❕ポストに入れると悪戯で捨てられるって話してね!」
「やる――探偵より上手いわね!」
「玄関付近しか見なかったけれど何も無かったから、折角のリホームでバリヤフリーはされなかったのですか?と聞いたのよ!」
「上手く聞くわね!何て答えたの?」
「若い人だから、まだ必要ないでしょう?生活優先です!バリヤフリーにすると追加で必要だから、今回は辞めました!って言われたわ」
「やはり、若い人に貸すのかも?」
二人は疑惑の若い人を見ていないので、それ以上の結論には至らなかった。
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