空蝉

杉山 実

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墓参り

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 84-067
日田の駅前でタクシーに乗った二人は、坂上の住所を伝える。
半時間程度と言ったので、帰り日田迄貸し切りで値段の交渉をした。
「別嬪さんに値切られたら、思わずおまけしてしまった」と笑って走り始めた。
「墓参り用の花を買いたいので、先にお願いします!」
運転手急にしんみりと成って、武史を事故の生き残りの人だと思った様だった。
しばらく走って「この辺りなのだが、知っているのか?」と尋ねる運転手。
「少し待って居て下さい!尋ねて来ます!」麻結はタクシーを降りて近所の家へ入った。
戻って来ると「そこの角を左に曲がった二軒目の家の様です!」
「僕も歩いて行きますので、荷物そのままでお願いします!」
手土産を持ってタクシーを降りる武史。
その姿を見て麻結は、本当は墓参りだけを一緒に行こうと思っていたが、、、、、

「この大きな家が伸一の実家!」田舎の農家の感じで、庭が広くて横に納屋が並んで建っていた。
「こんにちは!兵庫県から参りました落合と申します!」
「はーい!」奥から女性の声が聞こえて、近づく足音が聞こえた。
昼間でも薄暗い玄関の間に明かりが燈って「落合さん!遠路遥々!」
「お母様でしたね?」
「伸一の母の真希と申します!主人も来ますので、お上がり下さい!」
「ご無沙汰しています!伸一さんの葬式以来、、、、、、」言葉に詰まる。
「こちらの方は?」
「友達の大森さんです!今日は一緒に墓参りをさせて貰いにやって来ました!」
「大森武史と申します!病気で腰の具合が悪いのです!」お辞儀をしながら言った。
「それはそれは、遠路大変でしたね!」
座敷に上がる二人の所に父親の坂上陽一がやって来た。
「おお、落合さん!お久しぶりです!お綺麗な娘さんに成られて驚きました!」
「今日は厚かましく友人と一緒に伸一さんの墓参りに、、、、、、、」
「大森と申します!」お辞儀をする武史。
落合麻結が今も独身で、未だに伸一の事を忘れていない事を二人は直ぐに悟った。
そして、一緒に連れて来た大森と云う障害者の人と、彼女は結婚する為に報告に来たと思った。
「先に仏壇にお参りさせて下さい!」
「どうぞ、どうぞ!明石には墓が無かったので、5年前先祖の墓に一緒に入れてあげたのです!」
「丁度60歳で定年させて貰って、実家に戻って農業をしています!6年程伸一は墓に入れませんでしたが、田舎に帰って今は伸び伸びしている事でしょう!」
「今生きて居たら30歳ですね!」母が懐かしそうに言う。
お供え物を置いて線香に火を点けると、手を合わせる麻結の姿に両親は目を細めている。
「麻結さんが12年振りにいらっしゃったよ!もう解放してあげなさいよ!」横から真希が伸一の位牌に話す様に言った。
「毎年、事故現場に花束を供えに行かれたのでしょう?」
「えっ、何故?」
「私達も何度か事故現場に命日に行きました!行き違いで一度も会いませんでしたが、花束が電柱の横に供えて有りましたので、、、、、、」
「毎年遠いのに、ありがとうございました!伸一も充分喜んでいると思います!もう忘れてこれからの人生を生きて下さい!」
「そうですよ!麻結さんは若くて奇麗だ!これから伸一から解放されて生きて欲しい!」陽一も同じ様に言った。
何を位牌に語ったのか、誰にも判らなかった。
「お墓はお近くでしょうか?」
「はい!歩いて10分程ですね!」
「ではお参りさせて頂きます!お供えの花も持って来ましたので、、、、」
武史が先に玄関の方に向かった。
「よく気の利く方ですね!」真希が後ろ姿を追いながら言う。
「時々、私も驚かされます!」
「もう長いの?」
「いいえ、半年程です!お見合いで知り合ったのですよ!」
「そうでしたか?」
「両親が心配して申し込んでしまったのです!私はその気は無かったのですが、、、、、」
「いつまでも伸一の事を思って下さるのは嬉しいが、もう戻る事は有りませんので、新しい道を歩いて下さい!」陽一がしみじみと言った。
「それじゃ、行きましょうか?」
「少し坂道に成って居ますが、大丈夫でしょうか?」真希が心配して言う。
家を出ると花を持って武史が待って居る。
「私が持つわ!坂道の様ですが大丈夫?」
「大丈夫です!天気も良いので、、、、、」
陽一を先頭に、麻結と真希が並んで歩いて、少し遅れて杖を付いた武史が続いた。

しばらく歩くと、木々に囲まれた中に石碑が見えて「あの中が村の墓地に成っています!」
「お彼岸までまだ日にちが有るので、掃除もして居ませんが?」真希が墓石のごみを手で拾う。
陽一が自宅から持って来たバケツの水を花筒に注ぎ込む。
「伸一!久しぶりだろう?麻結さんが遠くから来て下さったぞ!綺麗に成られただろう?」
呼びかける様に言いながら花筒一杯に水を入れた。
「どうぞ!参ってやって下さい!」
真希が線香に火を点けて手渡すと、武史が花を花筒に飾った。
「一緒に!」線香を半分武史に渡すと、手を合わせて「伸一!今日は報告とお別れを言いに来たのよ!隣に居る人は大森武史さんって云うのよ!いずれは一緒に成る人なのよ!」
その言葉に驚く武史。
「もう12年以上も時間が流れたわね!初めての墓参りに来て驚かせてごめんね!安らかに眠ってね!多分もう来る事は無いと思うけれど、寂しがらずにね!さようなら!私の伸一さん!」そう言って手を合わせる麻結。
驚きの武史も線香を立てて手を合わせていた。
先程の麻結の言葉が耳に残って複雑な気分で祈った。


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